ショートショート9(ファンタジー編).当たり前の日常〜天狗やカッパの暮らす町〜(1644文字あとがき含む)
当たり前の日常〜天狗やカッパの暮らす町〜
この町の風景は、昔の人から見るとちょっと変わって見えるらしい。
例えば、八百屋の雨久(あめく)さん。鼻が15センチほど前に伸びていて、顔は真っ赤で身長は2メートルある。
それの何が珍しいのか、問題なのか、僕にはよくわからない。でも、雨久さんの遠い先祖は、「テング」などという名前で呼ばれ、恐れられ、山奥でひっそりと暮らしていたらしい。
雨久さんのご先祖はきっと「トツゼンヘンイ」といったものから、生まれてきたのだろう。進化の過程で、何度も繰り返されてきた、生物の歴史そのものだ。
それを恐れていた、なんて聞くと、昔の人の方がよっぽど変わっていると思うのだが。
パン屋のみどりさんは指の間に水かきがついていて、エラ呼吸もしているのだけど、僕が時々からかったりすると、エラをパフパフさせながら照れている姿が可愛くて仕方ない。
このみどりさんの先祖筋にあたる昔の人は、「カッパ」などと言われていたこともあったそうだ。
なぜかきゅうりが好きだという噂も立てられたらしいが、みどりさんは、きゅうりはコオロギの餌のイメージがあって、あまり好きではないらしい。
それにしても、みどりさんの焼くメロンパンは絶品だ。早弁用に一つ買って、学校へ向かう。
昨日も遅刻してしまっているから、2日連続は流石にまずい。担任の丹尾先生に派手に怒られてしまう。
丹尾先生は頭の皮膚の一部が硬くなって3センチほど上に突き出ている。左右対称になっていて、先が細くなっている部分が、天然パーマの髪の毛をほんの少し飛び出している。
犬歯が長く尖っているので、歯磨きも大変だろうな、などといつも思ってしまう。
先生は体全体が青色をしているが、怒ると全身が真っ赤になるので、そんな時は絶対に逆らってはいけない。それでも、サバサバした性格の先生なので、生徒の人気は高い。
先生の先祖も、相当苦労したらしいが、あまり詳しい話はしてくれない。ただ、なぜか桃が嫌いだというのは割と有名な話だ。
自分にとっては、どれもこれも当たり前の日常だ。
クラスには、下半身が魚の女の子もいるし、お腹に袋がついている子もいる。
みんなの違いは見た目だけではない。
100メートルを8秒で走る子もいれば、1日に10kgの生肉を食べる友達もいる。
それぞれが様々な進化の過程で、「トツゼンヘンイ」といったものを起こして、生まれてきているのだと授業で聞いた。
なるほど、そういったものかと誰もが受け止めていて、当たり前の日常がある。
当たり前じゃないのは、このままでは、2日連続の遅刻になってしまうということだ。
やばい、丹尾先生が赤くなってしまう。
仕方ない。
背中に背負っていた鞄を下ろし、通学には禁止されているのだけど、僕は背中の翼を広げた。
(了)
〜あとがき〜
「差別って、どこから生まれるんだろう?」
そう考えることが、よくあります。
人は、自分とは違うものに対して、驚きや畏怖の感情を抱きます。
その“畏怖”は、ときに不安を打ち消すために“怒り”へと変わってしまうことがあります。
そして、その怒りや恐れに共感する人が現れると、そこに「差別意識」が生まれていく──そんな気がしています。
いじめの構造も、どこか似ているように思います。
恐怖や怒りだけではありません。
時には、自分のコンプレックスを隠すために、誰か"弱く見える存在"を盾にしてしまうような心理が働くこともあるでしょう。
こういった感情を完全になくすことは、おそらくできないのかもしれません。
だからこそ大切なのは、その感情が生まれたときに、自分でそれに気づき、
「これは美しくないものだ」として、そっと摘み取ることなのだと思います。
それができれば、世界はもっと優しくなっていくのかもしれません。
藤井風くんが言っている"心のお掃除"、というのも、そういう事なんじゃないかなあ、と考えています。
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