ショートショート4(ファンタジー編).夢を配るおじさん(1804文字)
🌙夢を配るおじさん
夜がしんと静まるころ、
おじさんは、空をとびます。
ぼうしは曲がって、コートはすそがほどけて、くつもすっかりすり減ってしまっているけれど、
それでもおじさんは毎晩、空をふわりと飛びまわります。
手に持っているのは、ちいさなカバン。
その中には、たくさんの夢が入っています。
夢はひかりのびんの中に入っていて、どれもこれも、ちがった色をしています。
青くきらめく夢もあれば、ふわふわした白い夢、あたたかそうなオレンジ色の夢も。
ときどき、虹のように何色もまじった夢だってあります。
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おじさんがまず向かうのは、子どもたちのところです。
ある男の子は、積み木が大好きでした。
おじさんはびんを一つ取り出して、びんの中の光を取り出すと、男の子の頭の上にふわりと投げました。
夢の中で、男の子は空にも届くくらい高いおしろを作っていました。
またある女の子は、食べることがだいすき。
夢の中では白いコックぼうをかぶって、おいしいスープをつくっています。
「食べてくれてありがとう」そう言って笑うその顔は、ほんとうにしあわせそうでした。
ほかにも──
星をぴょんぴょん飛びこえていく子、
雲のうえでおひるねする子、
動物たちと一緒に森の中を走り回る子……
おじさんは、その子のこころにあわせて、
やさしく夢をとどけていきます。
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でも、ときどき、
おじさんは、子どもではないところへも向かいます。
それは夢を届けにいくのではなく──
ひろいにいくのです。
大人になると、
夢はよく、すてられてしまいます。
「どうせ無理だ」とか、
「そんなの忘れた」とか、
そうやって気づかないうちに、知らないあいだに落としてしまったり、自分から捨ててしまったりするのです。
おじさんは、だれにも見えないところで、
そっとその夢をひろい、
色あせたびんに入れて、カバンの中にしまいます。
忘れられた夢も、大切な夢。
まだきっと、戻る場所があると信じて。
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ある晩のこと。
おじさんのカバンの底で、
ひとつの夢のびんが、そっとふるえました。
それは、何年も前にひろった夢。
長いこと、ずっと光を失っていたそのびんが、
かすかにまた、あかるくなろうとしていました。
「やあやあ……」
おじさんは、そっとそのびんを手にとって、
とくべつな夜の風に乗りました。
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降り立ったのは、子ども部屋ではありませんでした。
そこには、青年が静かにねむっていました。
少しつかれた顔をしています。昼間にいっしょうけんめいにはたらいたのでしょう。
寝息をたてながら、何かを思い出しかけているような顔をしています。
おじさんは、しばらくその顔を見つめてから、かばんの中からびんを一つ取り出して、そっとびんのふたを開けました。
すると、光が、ふわりと広がって──
青年の胸へ、すっとしみこむように、溶けていきました。
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夢の中で、その青年は、日焼けしたからだをピンとのばして、緊張しながら立っていました。
その目の前には一人の女の子が立っています。
笑うと、目が細くなって、それだけで周りにはたくさんの花が咲いているようでした。
幼なじみの女の子でしたが、昔、お金のない青年は、自信がなくて、好きな気持ちを伝えることができなかったのです。
でも、今青年は夢の中で、その子の前に立って、言葉をさがすように、小さく息をつきました。
「……ずっと昔に、言えなかったことがあるんだ」
女の子は、何も言わずに、静かにそこにいました。少し目を細めて、柔らかく微笑んでいます。
ただ、それだけで、夢の中がぬくもっていくようでした。
「また、きみに会いたかった。……これからも、ずっと一緒にいたい」
光がふわっとまわりに広がり、
青年の寝顔が、ほんのすこし、やわらかくなりました。
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空の上で、おじさんはそれを見て、にこりと笑いました。
ふだんより、ほんのすこしだけ深い笑みです。
「やっぱり、この瞬間が、いちばん好きだねぇ。」
おじさんのカバンの中から
夢がひとつ、
もとの持ち主のところへ、かえっていきました。
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その翌朝、青年のくつはきれいにみがかれて、
ポケットには、ちいさな手紙がしまわれていました。
なんて書いてあったのかは、わかりません。
でも──その手紙とこれから買いに行くお花を、まもなく受け取る女の子がいることを、おじさんは知っています。
おじさんの微笑みはさらに深く、やさしく、あたたかくなっていきました。
そして、今日もおじさんは、空を飛びながら、夢を配り続けるのでした。
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【おしまい】
