医療機関の消費税「損税」問題を、地方財政の視点から考える〜第2回(全3回)
なぜ医療界は「一枚岩」になれないのか——自治体病院が抱える構造的な問題
前回は、保険診療が非課税であることによって医療機関に「損税」が生じる仕組みと、診療報酬による補填が平均値に基づく一律対応であるため、大規模急性期病院や公立病院ほど補填不足が深刻になっている実態を整理しました。
今回は、その補填不足がなぜ政策的に解決されにくいのか、その背景にある構造と、地方財政の観点から特に問題だと感じていることについて書きます。
医療界が「一枚岩」になりにくい理由
医療機関の消費税問題を語るとき、医療界全体が一致団結して声を上げているかというと、実際にはそうでもない、という印象があります。
以前、自治体病院の経営に携わっていたことがあり、その頃から、立場によって問題の受け止め方に差があることを感じてきました。
その背景として、法人税の扱いを整理しておく必要があります。
医療法人は一般の法人と同様に法人税の課税対象です。
損税として計上した控除対象外消費税は、法人税の計算上「損金」として算入できます。つまり、消費税の損税が増えるほど課税所得が減り、法人税の負担が軽くなる、という構造があります。
この「損金算入による法人税の軽減」が、問題の優先度の感じ方に影響している可能性があると私は思っています。
法人税を一定程度負担している医療法人にとっては、損税の一部がいわば法人税を通じて吸収される面がある分、制度改正の緊急度が相対的に低く見えるかもしれません。
一方、自治体病院(公立病院)や国公立大学病院は法人税の課税対象外です。法人税がそもそもかからないため、損金算入の効果もありません。損税はそのまま経営上の損失として積み上がります。
医療法人であっても、赤字続きの病院は、課税所得がなければ損金算入の効果は生じません。
自治体病院の補填率が83.2%、大規模急性期病院の中央値が67.4%という数字は、こうした構造とも無関係ではないと思っています。
自治体病院の赤字は、誰が負担しているのか
私が地方財政の観点から特に気になるのは、自治体病院の問題です。
公立病院は地方公営企業として「独立採算」が基本の建前です。
ただし、病院事業には採算だけでは論じられない公共的な役割があります。
そのため、国は「繰出基準」(総務省が定める総務副大臣通知)を設け、救急医療や感染症対応、僻地医療など、採算が取りにくい分野の経費については、自治体本体(一般会計)から病院会計へ繰り出すことを認めています。
この繰出金には、地方交付税による財政措置も伴います。
問題は、消費税の損税がこの「繰出基準」の対象に明確に位置づけられていない点です。
損税による赤字は、いわば国の制度設計に起因する赤字ですが、それを補填するための繰出は「基準外繰出」として扱われることになります。
基準外繰出は交付税措置の対象外であり、その財源は自治体が自前で用意しなければなりません。
つまり、国の税制上の不整合から生じた損失を、最終的には住民の納めた税金で埋めているという構図が生まれます。
「独立採算の原則」という建前と、「基準外繰出で赤字を補填せざるを得ない現実」の間で、自治体の財政担当者は厳しい判断を迫られ続けています。
自治体病院をめぐっては、経営改善や再編・統合の議論が各地で続いています。
しかし、どれだけ経営効率を高めようとしても、消費税の構造的な損税が続く限り、大規模な設備投資を要する急性期医療ほど財政的な負担を抱え続けます。
「地域医療を守れ」という要請と、「公立病院の経営を改善せよ」という要請は、税制の歪みが解消されない限り、どこかで折り合いをつけるのが難しい問いであり続けるのではないかと感じています。
次回(第3回)は、「ゼロ税率」という解決策をめぐる議論の経緯と、国際比較を踏まえながら、この問題をどう考えるかについて書きます。
参考
病院事業の地方財政措置(令和7年4月、総務省自治財政局準公営企業室) https://www.soumu.go.jp/main_content/001005042.pdf
公立病院経営強化(総務省ポータル) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/hospital/hospital.html
