【時事】第3回ペンギン先生の違和感教室 第6回目
【第5回目以降について】
第3回の第4回目で、問題の違和感を書いた話としては一度、完結しています。
そのため、第3回の第5回目以降は、内容の性質が変わります。
問題そのものは、すでに前の話で出揃っています。
この先は、答えを探す話ではありません。
「考えてしまったあと」を見ていく試みです。
ペンギン先生は、第3回ではもう問題の話をしません。
問題の話は終わっても、考えることは、まだ終わっていないからです。
『私たち』って、誰のことだろう
教室。朝。
一般人ちびが、窓の外をぼんやりと見つめている。
昨日の言葉が、まだ頭の中で響いている。
見えていないものは、あなたにとって『ない』のです
一般人ちび
「……私たち、って」
小さく呟く。
一般人ちび
「誰のこと?」
ペンギン先生
「…何か、考えていますか」
一般人ちびが、ゆっくりと振り返る。
一般人ちび
「先生…『私たち』って、誰のことなんだろう」
ペンギン先生が、お茶を啜る。
ペンギン先生
「私たち、ですか」
一般人ちび
「うん。『私たち』って言うとき、誰を指してるの?」
ペンギン先生
「そうですか」
窓の外から、風の音が聞こえる。
遠くに、コンビニの看板が見える。
その時、教室のドアが勢いよく開いた。
制度くん
「『私たち』は日本人です!」
制度くんが、いつものように明るく入ってくる。
一般人ちび
「制度くん!」
制度くん
「『私たち』は日本に住む人たちのことですよ!」
一般人ちびが、少し顔を上げる。
一般人ちび
「日本に住む人…」
制度くん
「はい! 日本国籍を持つ人のことです!」
制度くんが、ホワイトボードに向かう。
制度くん
「『私たち日本人』って言いますよね!」
一般人ちびが、小さく頷く。
一般人ちび
「言う…」
制度くん
「それが『私たち』です!」
一般人ちびが、ふと思いつく。
一般人ちび
「じゃあ、外国人労働者は?」
制度くんの動きが、一瞬止まる。
制度くん
「えっと…一時的にいる人です」
一般人ちび
「一時的だから、『私たち』じゃないの?」
制度くん
「そうです! 5年で帰国しますから!」
一般人ちびが、「なるほど」と言いかける。
一般人ちび
「じゃあ、10年住んだら?」
制度くん
「え…」
一般人ちび
「10年住んでても、『私たち』じゃないの?」
制度くんが、言葉に詰まる。
制度くん
「えっと…」
ペンギン先生
「…そうですか」
ペンギン先生の静かな声が、教室に落ちる。
制度くんと一般人ちびが、同時に振り返る。
ペンギン先生
「『私たち』と言うとき、レジの向こうは入っていますか」
一般人ちびの息が、止まる。
一般人ちび
「…え」
制度くん
「レジの向こう…」
ペンギン先生が、お茶を置く。
その音だけが、教室に響く。
ペンギン先生
「見えていない人は、『私たち』ですか」
【空気が止まる】
一般人ちびが、何も言えない。
制度くんも、黙り込む。
窓の外から、遠くの車の音が聞こえる。
一般人ちびが、小さく声を上げた。
一般人ちび
「『私たち』は日本人でしょ!?」
ペンギン先生
「日本人、とは?」
一般人ちび
「日本国籍を持つ人…」
ペンギン先生
「では、日本に住んでいる外国人は?」
一般人ちびが、言葉に詰まる。
一般人ちび
「えっと…」
制度くん
「一時的にいる人です!」
ペンギン先生
「一時的、とは何年ですか」
制度くん
「5年です!」
ペンギン先生
「5年住んでいても、『私たち』ではありませんか」
制度くんの動きが、止まる。
制度くん
「それは…えっと…」
制度くんが、言葉を探すように視線を泳がせる。
【沈黙】
一般人ちびが、小さく首を傾げる。
一般人ちび
「じゃあ、10年住んだら?」
ペンギン先生
「10年なら、『私たち』ですか」
一般人ちび
「…わかんない」
制度くんが、うつむく。
制度くん
「ボクも…えっと…」
ペンギン先生が、窓の外を見る。
ペンギン先生
「『私たち』の線は、どこに引きますか」
制度くんが、勢いよく顔を上げた。
制度くん
「『私たち』の利益を守るのが大事です!」
ペンギン先生
「『私たち』の利益、とは?」
制度くん
「日本人の雇用や、生活です!」
ペンギン先生
「日本人全員の利益ですか」
制度くん
「はい!」
ペンギン先生が、静かに問いかける。
ペンギン先生
「では、低賃金で働いている日本人は?」
一般人ちびが、はっとする。
一般人ちび
「…それも『私たち』?」
ペンギン先生
「外国人労働者がいなければ、その人たちの賃金は上がりましたか」
制度くんが、小さく頷く。
制度くん
「はい…」
ペンギン先生
「では、外国人労働者がいることで得をしているのは?」
一般人ちびの声が、小さくなる。
一般人ちび
「…企業と、私?」
ペンギン先生
「『私たち』の利益とは、誰の利益でしょう」
【沈黙】
一般人ちびが、自分の手を見つめる。
制度くんも、何も言えない。
教室に、重い空気が流れる。
一般人ちびが、声を震わせながら言った。
一般人ちび
「でも、『私たち』って言わないと、話ができないじゃん!」
ペンギン先生
「そうですか」
一般人ちび
「だって、『みんな』とか言ったら、誰のことか分かんないし…」
ペンギン先生
「では、『私たち』と言うとき、線を引きますか」
一般人ちびが、動きを止める。
一般人ちび
「線…?」
ペンギン先生
「『私たち』の内側と、外側です」
一般人ちび
「…」
ペンギン先生が、お茶を啜る。
ペンギン先生
「線の外側にいる人は、見えますか」
一般人ちびが、小さく答える。
一般人ちび
「…見えない」
ペンギン先生
「見えていない人は、『ある』のでしょうか」
【沈黙】
遠くから、鳥の鳴き声が聞こえる。
一般人ちびが、窓の外を見る。
一般人ちび
「…ない」
一般人ちびが、机を軽く叩いた。
一般人ちび
「じゃあ、痛んでいる人は『私たち』に入れればいいの!?」
ペンギン先生
「痛んでいる人、ですか」
一般人ちび
「うん! 低賃金で働いてる人とか!」
ペンギン先生
「日本人も、外国人も?」
一般人ちび
「…そう」
制度くんが、慌てたように言う。
制度くん
「でも、外国人労働者は一時的ですよ!?」
ペンギン先生
「一時的な痛みは、痛みではありませんか」
【沈黙】
制度くんが、小さく身体を震わせている。
一般人ちびも、何も言えない。
窓の外から、風の音が聞こえる。
遠くで、誰かが笑っている声がする。
でも、教室の中には、声がない。
【誰も答えない】
しばらくして、一般人ちびが小さく呟く。
一般人ちび
「…でも、『私たち』に入れたら、税金とか…」
ペンギン先生
「税金、ですか」
一般人ちび
「『私たち』の税金を使うことになるじゃん…」
ペンギン先生
「『私たち』の税金とは?」
一般人ちびが、固まる。
一般人ちび
「…」
ペンギン先生が、静かに続ける。
ペンギン先生
「『私たちの』と言うとき、誰を指していますか」
一般人ちびが、うつむく。
制度くんも、黙り込む。
一般人ちびが、言葉を探すように空を見上げる。
一般人ちび
「じゃあ…『私たち』って…」
少し間。
一般人ちびの声が、震える。
一般人ちび
「使っちゃダメなの!?」
ペンギン先生
「ダメ、ですか」
一般人ちび
「だって、線を引くんでしょ!?」
ペンギン先生
「そうですね。線を引きます」
一般人ちびが、息を呑む。
一般人ちび
「…」
ペンギン先生
「では、線を引かないことは可能ですか」
一般人ちびが、首を横に振る。
一般人ちび
「…無理」
ペンギン先生
「そうですか」
制度くんが、小さく声を出す。
制度くん
「じゃあどうすれば…」
ペンギン先生
「さあ。わかりません」
【沈黙】
ペンギン先生が、目を閉じる。
ペンギン先生
「ただ、一つだけ気になるのは」
一般人ちびが、顔を上げる。
一般人ちび
「何?」
ペンギン先生
「線を引いていることに、気づいていますか」
一般人ちび
「…」
一般人ちびが、制度くんに向き直る。
一般人ちび
「制度くんは『私たち』は日本人だって言ったじゃん!」
制度くん
「それは…えっと…」
一般人ちび
「誰が『私たち』なの!?」
制度くんが、しょんぼりとうつむく。
制度くん
「ボクも…わかりません」
一般人ちび
「え…」
制度くん
「日本人、って言ったけど…」
制度くんの声が、震えている。
制度くん
「じゃあ、日本に住んでる外国人は…」
制度くん
「『私たち』じゃないのか…」
ペンギン先生
「そうですか」
【誰も答えを持たない空気】
三人とも、黙り込む。
教室。夕暮れ。
一般人ちびが、小さく呟く。
一般人ちび
「…先生、『私たち』って誰?」
ペンギン先生
「さあ。わかりません」
一般人ちび
「わかんないの?」
ペンギン先生
「ただ、一つだけ気になるのは」
一般人ちび
「何?」
ペンギン先生
「『私たち』と言うとき、線を引いていませんか」
一般人ちび
「…線」
ペンギン先生
「その線の内側にいる人は、見えます」
一般人ちび
「…」
ペンギン先生
「その線の外側にいる人は」
一般人ちび
「…見えない」
ペンギン先生
「見えていない人は、あなたにとって『ある』のでしょうか」
一般人ちび
「…わかんない」
【沈黙、ペンギン先生が窓の外を見る】
遠くに、コンビニの明かりが見える。
レジの前に、人が並んでいる。
一人、また一人と。
レジの向こうに、人がいる。
制度くん
「…ボクも、わかりません」
制度くんの小さな声が、夕暮れの教室に溶けていく。
【暗転】
(画面外から、小声で)
「『私たち』という言葉は、線を引きます」
(間)
「線の内側にいる人は、見えます」
(間)
「線の外側にいる人は、見えなくなります」
(間)
「見えていない人は、あなたにとって『ない』のです」
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【第6回終】
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