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前田と現場の話をした

1週間ほど、喫煙所で前田を見かけなかった。
生産ラインのロボット化の相談を受けた後、じつはちょっと気になっていた。
私は答えを言わなかった。

「その投資は回収できないのでは?」
「NPVの計算もやりましたよ」
「何年で?」
「7年です。US GAAPも調べました」

彼と交わした会話はこれだけである。
US GAAPと言ったとき、私の表情から(違う)と読み取ったかもしれない。
あの後、彼は何をどう考えアクションしたんだろう。

技術部のオフィスに行ってみた。
顔見知りに話しかける。
「Maeda-sanは?」
「Maeda-sanなら今週末まで出張ですよ」
「どこに出張してるんですか?」
「インドネシア工場です」

前田、現場を見に行ったか。
ふふ。


イースター明けの今日、出張から戻っていた前田と久しぶりに話した。
開口一番、彼は言った。
「ロボティックアーム導入の件ですけど、提案を取り下げることにしました」
「なんで?」
「じつは先週、現場を見てきたんですよ」
「へえ」
「この工場は、オートメーションに向いていないと感じました」
「どうして?」
「説明しにくいんですが、あの現場の雰囲気に合わないんです」
「はあ?雰囲気て」
「オペさんたちを見ていて、彼女たちがロボットを操作している姿が想像できませんでした」

ぶっ!
煙草飛んだわ。
彼らしくない非論理的な理由だ。

私はてっきり、IFRSの経済的耐用年数の考え方を勉強しました、とか言ってくるのかと思っていたが。
この男、現場から答えを出したか。

それにしても、もう少し合理的な説明があるだろーに。
人件費が安いから機械化に向かないとか。
エンジニアの採用が難しい人材市場とか。
固定費の増大で損益分岐点が上がるとか。

しかしそれは私がファイナンス屋だからそう考えるのだ。
技術者の勘というやつなのか?私にはわからん感覚だ。
だいたい、全然技術のこと語ってないよね。

「彼女たちがロボットを操作している姿が想像できません」だとぉ?
そんなの技術会議で言ってみろ。
次から呼ばれなくなるぞ。

だが・・・
結論は正しい。

ロジックはない。
説明はメルヘン。
どうしてそれで当たるんだ。

ふと、前田が言ったことを思い出した。
「オペさんたちみんな仲良しで、楽しそうに手を動かしていました」
まさか、そこに目をつけた?
ロボットの腕より人の腕のがうまく回る理由でも見つけたのか?
もうよそう、これ以上考えるのは。


(次回)

(前回)