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泰夢(たいむ)のお話:99

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華恋の家族写真を前に、泰夢は自分の家族やいろいろな事を考えます……
それでは、どうぞ!!

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 リビングをいっぱいにしている光の中で、華恋(かれん)と、華恋の母親と父親が泰夢(たいむ)に笑っている。
 写真の中のすがただったけれども、それを見た泰夢(たいむ)も、なんだかむねがホワリとあたたかくなったような気がする。
(…………)
 ふと華恋の家のにおいを感じて、心地よいけれども自分の家ではないそのにおいに、体の真ん中あたりが少しクシュクシュとする。
 父さんは今仕事中だろうし、母さんは病院にいて、そして自分は、そこから遠くはなれた華恋ちゃんの家にいる。
 そのきょりがとてつもなく遠いことを思い出し、クシュクシュしていたものがギュッと急に細くなって、たよりなくなって、このままではその場にいられないような気がして、ギッと強く歯を食いしばる。
 毎日ねる前に、父親からビデオ通話がかかってくる。
 まずは泰夢がその日に何をしたのか、どんな風にすごしたのかなどを伝えるのが日課になっていて、それから病院にいる母親の様子を聞き、時にはその母の病室から通話があることもあった。
 祖母の家に来たばかりのころは、それが泰夢のたった一つの楽しみというか安心の元で、通話を心待ちにしていたのだけれども、華恋といっしょに学習スクールに通うようになり、話をして宿題をやって……としているうちに、いまではすっかりとそういうさみしいような気持ちはなくなって、ともすれば夜おそくになりがちな父親からとの通話は、毎朝起きたら歯をみがくのと同じような『めんどうくさいけどやらなきゃいけないこと』の中に入ってしまっていた。
(……父さん、母さん)
 華恋の家族の写真を見て、この家の中にある温かい感じにふれて、泰夢のなかに急にさみしい気持ちがもどってきた。
 かみしめたおく歯からギギッと音がする。
 それもこれも弟か妹のせいだ……という事も思い出す。
 泰夢の母親はおなかの中に赤ちゃんがいて、病院に入院している。
 本当は入院するのはもっと先になる予定だったらしいけれども、どうやらその予定も早く生まれてしまうかもしれないということで、もしそうなったら大変なことになるので、その前に入院をしたのだ。
(ちぇ、ぜんぶ弟のせいだ……)
 ━━そう思う。
 少なくとも、こっちに来てすぐの時はそう思っていた。
 でも、いまはちがう。
 そう思う自分もいるのだけれども、全部はそう思えない。
 生まれてくる弟か妹かは、別に泰夢に意地悪をしようと思って生まれてくるのではないからだ。
 そして、家族が増えるということは、たぶんだけれども、とても幸せで楽しいことなのだ。
 泰夢はそれを華恋から教わった。
 もちろん、学校で先生から習うみたいな事ではなくて……
(ううん、いないよ。
 ウチはね━━お母さんとわたしだけなの)
 華恋がそう言った時の、ほんの少しの表情だったし、ちょっと声の調子だったけれども、とてもさみしい感じがして、それで息を飲んだ。
 それからずっと毎日を華恋といっしょに過ごしているけれども━━そして、もちろんこれは、華恋本人は気付いていないと泰夢は思っている━━時々、それは、学習スクールが終わって教室から生徒たちが出ていってだんだんと静かになっていく時や、祖母の家で夜ごはんを食べ終わって食器をあらうのをやっつけた後に何もなくなったテーブルをふと見ている時などに、華恋はそういう表情を見せる。
 それは、いつもほんのいっしゅんだ。
 華恋の周りの友だちや、ひょっとしたら華恋ちゃんのお母さんも気が付いていないかもしれないと、泰夢は思っていた。
 いつも笑っていたり泰夢に文句をつけたり、明るくて元気でしっかりしている華恋だから、泰夢はそのちょっとした時にさみしそうな顔しているのが、気になっていた。
 だから、泰夢はそんな顔をしている華恋を、少しでも笑わせたりおどろかせたりしようと━━それよりも前に、泰夢が『ついついやってみたくなってしまう性分』だというのは、一度置いておくことにして━━目の前でワザとふざけてみせる。
 そして……だから、泰夢は弟か妹ができることを、前よりもイヤだと思えなくなっていたのだった。
(…………)
 目の前の写真の中で、家族が笑っている。
 とても幸せそうだけれども、今はもうここにそれはない。
 むねのおくの方がとても冷たく重たくなって、頭の中に「どうしてなんだ?」がいくつもいくつもふきだして来るような気がする。
 それをどうしていいのか分からないし、だれに言っていいのかもわからない、けれども、なんとかしなくちゃいけないという気持ちと、とにかく大声でさけびたいようなグルグルとしておさえられないものが、自分の中でふくらんでいくのがわかる。
 手がシャツのむねの所をギュウッと強くつかんで、つま先やひざ、足全体に力が入る。
 もうそれ以上はとても見ていることができなくなって泰夢は、華恋と、華恋の母親と父親が、幸せそうにこっちに向かって笑っているその写真から、目をそらして顔を上げる。

 目の先にとなりのキッチンが見えた。
 救急箱が置いてあるテーブルの先に流し台がある。
「ひぃっ━━」
 泰夢のノドから、声にならない小さな音が出た。
 いつからなのだろうか……。
 流し台にあるくもりガラスに、人のかげが見えた。
 その人かげは、両うでをガラスにおし当てて顔をぴったりとくっつけて、中をのぞくようにしている。
 ぼやけて見える顔のりんかくのなかで、黒い目がギョロリ、ギョロリとせわしなく動いていた。
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華恋の家の外に突然に現れた謎の人影……一体何が起こるのでしょうか?
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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