見出し画像

泰夢(たいむ)のお話 その二:25

← ◆前のお話へ


すっかりとヘコんでしまった泰夢……果たして大丈夫でしょうか?
それでは、どうぞ!!

===============
 すっかりとしょげてしまった泰夢(たいむ)を見て、華恋(かれん)が思わずクスッと笑う。
 それはべつに意地悪でそうしたのではなくて、ほんのついさっきまで大きな本を両手に持って、あんなに元気よく飛んだりはねたりしていたのに、こんなにペッコリとしょぼくれてしまったその差がありすぎて、ついおかしくなってしまったのだ。
 華恋がなんの気なしにチラっと横を見ると、どうやらミハシロさんも同じようで、口のあたりにグーの形にした手をおいて、笑うのをがまんしている様子だった。
 そのうちミハシロさんも同じように華恋に気がついて、そうして二人して目を合わせると、ちょっとガマンができなくなって、小さな声でクスクスと笑いはじめる。
「はあぁぁ……なんだよぉー、もおぉ……
 オレ、せっかくの大発見だと思ったのにさぁ……
 これじゃあ、台無しじゃんか……」
 体の中身が全部外へ出てしまうのではと思うほどの、大きなため息を一つついて、泰夢が両手の本をミハシロさんのカートの上に返す。
 それを見ていたミハシロさんは、助けてあげないの? と、華恋にいたずらっぽく小さな目配せをした。
 その意味は華恋にもわかった。
 実は、華恋は図書館の利用カードを持っているのだ。
 母親が働いているお店は駅をはさんで反対側にあり、その事もあってこの図書館はときどき利用していた。
 なので、本を借りるために必要な利用カードも持っていたし、実際に本を借りたことも何度かある。
 ミハシロさんの目配せはつまり、泰夢の代わりに華恋が本を借りてあげればいいんじゃない? という意味だった。
 もう少しがっかりしている泰夢を見たかった気持ちもあったけれども、さすがにこれ以上は、意地悪になってしまうかもしれない。
「ねぇ、泰夢くん。
 わたし、自分のカード持ってるから、
 その本はそれで借りようよ━━」
 かたにかけたトートバッグの内ポケットをさぐり、家から出る時に用意しておいた図書館の利用カードを引っぱり出す。その時だった━━
「ああーっ! そうだ!
 オレさ、いまさぁ、
 メッチャいいこと思いついちゃった!」
 と、泰夢が大きな声を出してのびあがり、出した声に自分でびっくりして、あわてて口に人差し指を当てて、しーっ! っと声をおさえる。
「あのさ、この本さ……
 オレじゃなくて、華恋ちゃんが借りてよ!
 そのかわりどっちか一さつは、華恋ちゃんが読んでいいから!」
「……えっ!?」
 泰夢のその思いつきに、今度は華恋がさっきまでのクスクス笑いから、目を大きくしておどろく番だった。
「な、なんで、わたしが……」
「だってさ、オレ、
 ここの図書館のカード持ってないじゃん!」
 カードのことではなくて、なぜ自分が本を読まなくてはならないのかを、華恋は聞いたつもりだった。
 なのに、いつものように全く意味がわからない事を泰夢が言い始める。
(…………)
 手にしたカードを出していいのか、しまった方がいいのかもわからなくなってしまい、トートバッグの中にかた方の手をつっこんだまま、華恋の動きが止まる。
「ほら、行こうよ、華恋ちゃん!
 受け付けのカウンターはあっちだって!
 ━━貸し出し貸し出しーっ、受け付け貸し出しーっ!」
 カートからもう一度本を取り上げると、さっきよりも元気よく、右手と左手それぞれに持って、フリフリとさせながら歩いていく。
「ちょ、ちょっと待って、泰夢くん!
 本は借りてあげるけど……わたし、読まないよ?
 だって、読みたいのはわたしじゃなくて、泰夢くんだもの!」
 その声がとどいているのか、いないのか……泰夢は小さく鼻歌を歌いながら、陽気な足取りで図書館を歩いていく。
「……あらら、なんだか大変なことになっちゃったみたい。
 ゴメンなさいね、華恋ちゃん。
 わたしが変なことを言ったから……」
「ううん……
 ミハシロさんは悪くないです。
 泰夢くんがヘンなだけなんです!」
 利用カードをギュッとにぎりしめた華恋と、本がいっぱい乗ったカートをおすミハシロさんが、泰夢のあとに続く。
「━━貸し出し貸し出しーっ、二さつも貸し出しーっ!
 ん……? あっ、そうだ!
 オレ、またまた思いついちゃったじゃん!」
「……もう、今度はなに?」
「華恋ちゃんのカードでさ、本を借りるんだからさ、
 それぞれ一さつずつ読んでさ、
 あとからその中身を、それぞれに話せばいいんじゃん?」
「…………」
「そうしたら、読む量も半分だしさ、
 読む時間だってさ、半分になるでしょ?
 ━━いぇーい! 今日のオレって、チョウ頭いい!」
 そう言い、貸し出しカウンターに本を置いた泰夢が、得意な顔で親指を立ててポーズを決めてみせる。
 そのすがたを見た華恋のまゆ毛が、ギューッと静かに真ん中により、キリキリとつり上がっていった。
===============

最高の思いつきで有頂天の泰夢ですが……このあとがすこし心配です。
では、次回もお楽しみに!

小林るい


◆次のお話へ →