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泰夢(たいむ)のお話 その二:26

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華恋のまゆ毛が静かにつり上がっていきます……泰夢は大丈夫でしょうか?
それでは、どうぞ!!

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 ムッとむくれた顔をして、華恋(かれん)が自分のトートバッグから図書館の利用カードを出す。
「…………」
 本当だったら今すぐにでも泰夢(たいむ)につめ寄って、文句の一つでも言ってやりたいところだった。
 けれどもそれを言ったところで、どうせまたヘンな言いわけをしたり、全くちがうことを言い始めたりする泰夢の様子が頭の中にうかんで、プンッと口をとがらせるまでで止めておいた。
(……なんでわたしが、読むことになってるの?
 言い出したのは泰夢くんなんだから、
 自分ひとりだけで読めばいいのに!)
 一人で二さつの本を読むよりも、二人で一さつずつ読んだほうが、時間はたしかに短くなるかもしれない。
 でも、それは泰夢がそうなだけであって、もともと何もするつもりも無かった華恋が、本当だったらやらなくてもいい『本を読む』という事を、余分にやらなくてはならない、という事になる。
(……それに、あとで本の内容を二人で話すって、
 そんなのもう、原こう用紙に書くか口で言うかのちがいだけで、
 『読書感想文』と変わらないじゃない!)
 とがらせた口の先がムズムズするのが、自分でもわかった。
 だけれども、それを言ってもどうしようもないのだ。
 カートをおしていたミハシロさんが、図書館の事務所になっているおくの方に消えていき、そうしてもどってきて、貸し出しカウンターの向こう側にすわった。
 華恋が持っていた利用カードをミハシロさんに差し出す。
「うおーっ! それが図書館のカード?
 ……すっげぇー、チョウかっこいいじゃん!
 オレもさ、今度ウチにもどったらさ、絶対に作ろーっと!」
 華恋がうすい四角形のプラスチックカードをわたして、ミハシロさんがそれを受け取るのを見て、泰夢が目を丸くする。
「ふふふ……
 泰夢くんはお家の近くの図書館で、
 本を借りることはないの?」
 受け取ったカードを受け付けの機械にピッとかざしながら、ミハシロさんが丸くて大きなメガネを指でヒョイと上げた。
「━━ううん、借りたことあるよ。
 でもさ、借りる時にはいっつもさ、
 母さんといっしょに行って借りてもらってるから━━」
 と、泰夢がハッとなにかに気がついたような顔をした。
「……そうだよ! いまさ、オレさ、
 なんかこの感じどこかであったなぁーって、思ってたんだけどさ、
 これってさ、母さんと図書館に来る時といっしょじゃん!」
 どこにはまるのか分からずに、ずっと手の中でグルグルと回していたパズルのピースが、絵のはしっこにピタッとなった時みたいに、泰夢の頭の中がスカッとする。
 その感じをなんとか伝えたくて華恋を見るけれども、よくわかっていないような顔をしている。
「だからさ、こうやってさ、いっつもさ……」
 と、ちょっとせすじをのばして、泰夢が華恋の横にならんで立つ。
「オレがこんな風に本を持ってて━━わたすでしょ?
 そうするとさ、母さんがさっきの華恋ちゃんみたいにして、
 カードを出して、図書館の人に借りてくれるんだよね!」
 今度は伝わっただろう、と得意げな顔でうで組みをして華恋を見る。
「……えっ!?
 それって、もしかして
 わたしが泰夢くんのお母さんみたい……ってこと?」
「うん、そう! もちろん、華恋ちゃんと母さんはちがうよ?
 母さんよりか、ダンゼンにカッコイイしキレイだしね。
 でもさ、本を借りてくれてるのとかが、ちょっと似てるって思った!」
「そう……なんだ。
 ありがとう、泰夢くん……」
「ううん、別に!
 ただ、それを言いたかっただけ!」
 自分の感じたあのスカッとしたやつが、どうやら華恋にも伝わったらしいと見て、泰夢が顔の全部でニッコリと笑う。
(わたしって……もしかしたら、
 泰夢くんのお母さん役みたいになってる?
 いろいろ注意したり、おこったりし過ぎてるのかな……)
 もちろん華恋にはそんなつもりはない。
 泰夢のすることに注文をつけたり、文句を言ったりすることはあるけれども、それは『友だち』として━━もちろん、学校や学習スクールなんかのふつうの友だちとはちがう、もうちょっときょりが近くて、たのしいだけじゃなくて、そばにいるだけであたたかい気持ちになれる、特別な『友だち』なのだけれども━━そうするのであって、母親のようにアレコレを言ってくるような感じとはちがうと思っていたのだ。
(わたし……
 お母さんなんだ)
 顔中が笑顔の泰夢とは反対に、さっきまでつり上がっていたまゆ毛はすっかりと下がってしまい、せなかも丸くなって小さなため息をつく華恋。
「…………」
 そんな二人の様子を見ながら、貸し出し手続きを終えたミハシロさんが、二さつの本をきちんとそろえてカウンターの上に置いた。
 そうして、ちょっと体を前にかがめて、がっくりとしている華恋に顔を寄せると、
「……ねぇ、泰夢くんってば、
 華恋ちゃんのことを、
 『寺田さん』って、よばなくなったんだね!」
 ━━そう、やさしい声でささやいた。
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ワチャワチャとする泰夢と華恋を、優しく見守るミハシロさんでした!
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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