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泰夢(たいむ)のお話 その二:27

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ミハシロさんから掛けられた言葉に、華恋はどうするのでしょう?
それでは、どうぞ!!

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 ミハシロさんの声に、うつむいていた華恋(かれん)が顔を上げた。
 ニッコリと笑っているミハシロさんと目があって、どうしていいのか分からずに、ほっぺたのあたりがほんわり熱くなる。
 さっきから泰夢(たいむ)が、自分のことを『寺田さん』というあらたまったよび方ではなくて、いつものように『華恋ちゃん』とよんでいることに、ミハシロさんに言われてから初めて気がついたのだ。
「……よかったね!」
「はい━━」
 まわりに聞こえるか聞こえないかぐらいの声が耳のあたりでして、とっさにそうこたえる。
 ミハシロさんはやさしく笑ってくれているのだと思うけれども、華恋はもう、その顔を見ることができなくなってしまった。
 下を向いている自分の耳の先の先まで、カッカと燃えるみたいに熱くなっているのがわかった。
 やっぱり、かなわないな……と、そう思う。
 だから、はずかしくなってしまう。
 たぶん……ではなくて、まちがいなくミハシロさんは、自分がミハシロさんのことを苦手だと思っていることをわかっていたし、そしてその苦手に思う原因は「わたしのほうが泰夢くんを知ってるんだから!」という、まるで泰夢をひとりじめするような気持ち、自分のほうがミハシロさんよりも泰夢と仲が良いんだとちょっとじまんしたい気持ちから来ているのだということも、ミハシロさんは最初からわかっていたのだ。
(━━ちょっと、泰夢くん!
 なんで、こんな所でなまけてるの?
 昨日決めたところまで、ちゃんと終わったの?)
(━━か、華恋ちゃん!
 だ、だいじょうぶだってさ!
 オレ、サボってないよ、ホントだって!)
 さっきそうやって泰夢につめ寄ったのを思い出し、ますますはずかしくなってしまう。
(……わたしって、
 まるでちっちゃい子どもみたいだ!)
 学校の課外授業でようちえんに行った時にいっしょに遊んだ女の子……自分が大好きなお人形をひとりじめしたくて、いろんな理由をつけてはいツンツン、プンプンしていた女の子のことを思い出す。
 あの時の女の子と、いまの自分はまるでいっしょだった。
 そして、その女の子に、だいじょうぶだよ、だれもお人形を取ったりしないから……と、声をかけていたのはだれでもない華恋だったのだ。
 それに気づいて、本当に顔から火が出てしまうんじゃないかと思うぐらいにはずかしくなる華恋だったけれども、それと同時に、ミハシロさんへの苦手な気持ちはもう、すっかりとどこかへいってしまった。
(…………)
 いますぐにでもにげ出したい気持ちをなんとかおさえつけて、ミハシロさんに「ごめんなさい」と一言でも言わなくちゃいけないと、モゴモゴする口をがんばって開こうとする。
 と、そこに貸し出しの本と図書館の利用カードがスッっと差し出された。
 おどろいた華恋が、思わず顔を上げてミハシロさんを見る。
 丸くて大きなメガネのおくにある目が、やさしく笑っていた。
(……だいじょうぶだよ!)
 と、まるでそう言っているみたいなすてきな笑顔で、華恋に本と利用カードをてわたしする。
「ありがとう……ございます」
 受け取った二さつの本は厚くて重たかったけれども、それよりもなにかズッシリとした、でも決していやではない『重さ』みたいなものが、ミハシロさんから自分へと伝わってくるような気がした。
 ありがとうございます、ともう一度華恋が言うと、どういたしまして、とミハシロさんがこたえて……そうして今度は、二人で顔を合わせてクスリと笑う。
(華恋ちゃんとミハシロさん……
 さっきから何やってんだ?)
 おたがいに本のはしっこを持ってわたすでもなく、受け取るでもなくしている二人のよこで、アゴの下にシワができるぐらいのへの字口をした泰夢がそのようすをジーッと見つめている。
(ちゃんと利用カードで本を借りたんだからさ、
 さっさともらっちゃえばいいのに……
 あっ…もしかしてこの図書館の『決まり事』とかがあるのかな?)
 いつものようにうでを組んで、ウンウンひとりごとを言いながら頭をグルグルとやりはじめた泰夢を見て、華恋とミハシロさんが顔を見合わせてクスクスと笑う。
「ねぇ、泰夢くん……ひとつ聞いてもいいかな?
 どうして泰夢くんは、華恋ちゃんのことを、
 『寺田さん』って、よばなくなったの?」
「……んへぇ?」
(━━えぇっ!)
 ミハシロさんのそのとつぜんの質問に、泰夢の口からヘンな声がでて、華恋のせすじがビシッとのびた。
 なぜ本をわたさないんだろう、と一生けん命に考えていた泰夢だったので、きゅうに華恋のことを言われてもチンプンカンプンだった。
 アゴの下にできたシワと同じぐらいに、左と右のまゆ毛のあいだにも深いシワをつくりながら、泰夢がさらに頭をグルングルンとさせる。
 そのとなりにいた華恋も、なんでいま泰夢くんにそんなことを聞くの!? と、いろんな思いや気持ちがうかびすぎて頭の中真っ白になる。
 いったい何を言うんだろう……と、チラリチラリと泰夢の方を見ながら、自分の心ぞうの音で目が回りそうになっていた。
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ミハシロさんの不意な一言が、泰夢と華恋に衝撃を与えます……
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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