泰夢(たいむ)のお話:78
吊り橋を走って渡ってはいけません……!
それでは、どうぞ!!
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まるで波が立つように大きくゆれるつり橋の上を、華恋(かれん)がはずむように走る。
まるで自分のものではないみたいに体が軽い。
足がわたり板に着くときはグンっと深くしずんで、その足をけり出すときにはギュンっと前におし出されるように、つま先から体全体へと一気に力が伝わっていく。
たとえばそれは体育の時間にやったトランポリンであったり、友だちと行った公園で立ちこぎしたブランコから勢いをつけてジャンプした時のようなものなのかもしれない。
自分の行きたい方向へと、自分以外の力にも強く支えられるようにして、頭の中で思いえがいているイメージよりももっと大きくだいたんに体が動いていく、そんな感じだった。
(━━━━!)
今の一歩よりも、次の一歩……と、体がグングンはずんでいって華恋の気分もますます高まる。
体の動きが大きくなっていくにつれて、「もし転んだらどうしよう……」というこわさを感じている部分も、たしかに華恋の中にある。
だけれども、ポーンと体がはずむ時のフワッと空中にうく感じと、自分ではどうにもならないかもしれない力を、ギリギリのところで乗りこなしているというような感覚が、華恋がこれまでに体験したことがない『ドキドキするような不思議な感じ』をくれるような気がする。
(もしかしたら……
いつもこんな感じなのかな━━)
ものすごい勢いで、つり橋や空、川、そして光る風が、華恋の後ろへと飛んでいく中で、その中心に小さく泰夢(たいむ)のすがた━━へにゃへにゃになった体でなんとかワイヤーロープにしがみつきながらこっちを向いている━━が見える。
ちょっと目をはなすと、華恋には信じられないような無茶なことばかりを何度も何度もくり返す。
でも、もしかしたらその無茶にも、なにか理由があるのかもしれない。
……本当は、さっきの泰夢の『お下品なふるまい』を見のがすことだって、華恋にはできた。
いつものように、ちょっとあきれてツンとすまして、そのままつり橋を歩いてわたり泰夢の後を追っていけば良いのだ。
けど、それをしなかった。
なぜだか全力で泰夢のところまで走っていってやろう……と、そう思ってしまったのだ。
もしかしたら、華恋の中に『泰夢の何か』が『うつって』しまったのかもしれない。
━━それも悪くなかった。
華恋の顔に、笑みがうかぶ。
そんな華恋とは全く逆に、泰夢の顔はカチコチにこわばっていた。
大きく動くつり橋が泰夢の体をグワングワンと上下にゆさぶる。
もちろん、とっくの前にワイヤーロープをわきの下にしてガッチリとつかまっている。
左右に動くだけだったら、それでどうにかなったかもしれない。
けれど、まるで波のように上下にゆれるつり橋では、どんなにしっかりワイヤーロープにつかまっていても、一度ポンと体がはねあげられてしまえば、もうそれでおしまいだ。
足の下にあるわたり板が、スッとぬけるように下にさがったり、逆にグンっと上に持ちあがったり、もう足が全く定まらなくて体の下半分がまるではげしいダンスをしているみたいになる。
自分ではどうすることもできなくて、ただそれでもつかまっていないよりはマシだからと、ワイヤーロープに体をあずけているだけだった。
「か、華恋ちゃん……
マジでゴメン、ホント━━ゆるして!」
そう声を出すけれども、体がゆれてうまく言葉にならない。
「が、かへんはん……
まひへごへん、ほんほ━━ゆふしれ!」
なんていう具合に、口がしっかり動かずにヘンな風になってしまう。
そんな事をしている間に華恋がどんどんと泰夢に近づく。
(━━━━!)
つり橋の真ん中のあたり、あと一歩か二歩で泰夢にたどり着く……そこで華恋はそれまでよりも一番強く、足でグイッとわたり板をふんだ。
そのままのいきおいで、さっきのガケの階だんのところで泰夢がやったのとは逆に、今度は華恋がつり橋のはしっこギリギリで泰夢を追いぬいてしまおうとしたのだ。
これにおどろいたのは泰夢だった。
華恋が自分の近くでわたり板をふんだので、泰夢が足をおいているわたり板もいっしょにグンッと下にしずんでいったのだ。
泰夢は自分の体が、スッと下に落ちていくように感じた。
本当に足の下の板がなくなったように思った。
(えっ……?)
あわてた泰夢がぎゅっと体を縮こまらせて、わたり板にしゃがみこむ。
それが華恋の足のふみこみと重なって、二人がいる辺りのつり橋がさらに大きくしずむ。
(ウソっ……!)
華恋もおどろいた。
自分が思っていたよりも、わたり板が下にしずんだからだ。
それは泰夢がしゃがんだのが原因だったけれども、もちろん華恋にはそれはわからない。
このままではわたり板をふみ外してしまう……華恋が頭でそう思うよりも早く体が自然に動いた。
しずんだ分に合わせるように体全体をぐうっと丸めて、足のついたわたり板に体重をかけてしっかりとふんでいく。
そして━━
まるで指にかけて引っ張った輪ゴムがビョンっと一気にもどっていくように、その真ん中で大きく下にしずんだつり橋が、今度はその逆の方向━━上へと強く反発していく。
つり橋全体から、わうんっとうなるような音がして、二人の体がポーンとうきあがり、華恋のかぶっていた大きな麦わらぼうしが頭から空中へと、ひらりとまった。
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あらめて……吊り橋を走って渡ってはいけませんよ!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
