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泰夢(たいむ)のお話:77

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ようやく吊り橋を渡りはじめた泰夢と、それを見守る華恋ですが……
それでは、どうぞ!!

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 つま先でそっとたしかめて、それからゆっくりかかとをつけていく。
 最初の一歩は、おそるおそるだった。
 泰夢(たいむ)が思っていたよりも、つり橋のわたり板は固くてしっかりとしていた。
 のばした方の足にグーッと体重を乗せていく。
 ほんの少しだけ下にしずむような感じと左右のユラユラはあるけれども、このぐらいだったら歩ける気がする。
(おぉ……おおーっ!
 平気だけど、けっこうゆれるよなぁ。
 ふんふん、なるほどね。コレがつり橋ってコトか……)
 正直に言えばこうした不安定な感じが泰夢は苦手で、それは全校集会の時に、めまいがしてたおれそうになったことがあるからだった。
 いつものように、教室から体育館までクラスメイトとふざけながら移動をして、いつものように整列してならんで、校長先生や教頭先生のとにかくやたらに長くてたいくつ話を聞いていた時だった。
 真っすぐ立っているはずなのに、足のうらだけがスーッと横にすべっていくような感じがしたのだ。
 このままだと転ぶ!と、とっさに足を大きく開いてふんばったのは良かったのだけれども、そこからだんだんと目の前が暗くなっていった。
 たぶん、めまいだったんだと思う。
 そんな風になったことは泰夢も初めてで、前にクラスの女子が体育の授業の時にフラッとしてしゃがみこむのを見たことがあり、このままじゃマズいと思った泰夢は、手を上げて列から外れると、生徒たちの横に一列になっている先生たちの一人に力のない声で断りを入れて、体育館を出てすぐのところにあるトイレにフラフラと入っていった。
 そこからはあまり覚えていないけれども、トイレの個室の中で冷たいあせがたくさん出た記おくはある。
 しばらくしてクラスたん任のオバジイがやってきて、そのころには泰夢もすっかり元にもどったので、なに食わぬ顔でトイレから出てきたのだけれども、そんな事があってから、その体育館のときと同じように足元が不安定になると、ちょっと注意深くなる泰夢だった。
 もう一歩、二歩と足を出して、だんだんと調子をつかんできた泰夢は、そのままつり橋の五分の一ぐらいまで進んでいき、そこで後ろをふり返って、まだガケのところに立ってこっちを見ている華恋(かれん)に向かって大きく小枝をもった手をふってみせた。
「なんだよー、華恋ちゃんまだそこかよー!
 あんまりノロノロしてっとさ、
 オレの方がさ、先に全部わたっちゃうじゃん!」
 泰夢のその様子を見て、華恋が口に手を当ててクスっと笑う。
 元気よくこっちに手をふる泰夢だったけれども、その足元はまだまだやっぱりあやしい。
 がんばって歩いているのはとても良くわかるけれども、さっきおばあちゃんの家の前の坂道をすべった時のように、やっぱりちょっとおしりが後ろにつき出ている。
 つり橋がゆれる動きの大きさや速さが分かっていれば、泰夢がやっているように、おしりを落として足を確かめながらおっかなびっくりしなくても、ちゃんとふつうに歩けるはずだし、なんだったら走って━━本当はつり橋は走ってわたらない決まりになっているので、もし見つかると大人たちからおこられてしまうけれど━━つり橋をわたることだってできるのだ。
(でも、しょうがないよね。
 だって、泰夢くん初めてなんだもん。
 わたしがちゃんと見ててあげなくっちゃ……)
 と、そんなことを考えながら先を行く泰夢の様子をしばらく見ていた華恋だったが、その目がキッとつり上がった。
 つり橋の真ん中あたりまで進んだ泰夢が、こっちに向けて急におしりをつきだしたのだ。
 それは、さっきまでのつり橋の上でヨタヨタとしていて「つい出てしまった」ようなものではなく、明らかに華恋に向けて━━そして、こともあろうか下品にもこれをペンペンとたたいてみせたのだ。
(…………)
 顔だけグイッと後ろにし、ペロリとしたを出して両耳をひっぱってヘンな顔をすると、なにが面白いのか一人でケラケラと笑うのだ。
「……なるほどね。
 泰夢くんって、そういうコトするんだ。
 じゃあ、わたしも━━」
 持っていたトートバッグが落ちないように、かたにグッとしっかりかけ直すと、足を大きく前後にしてつり橋の上を走り始める。
 華恋のすらりとした足は、あいだが開いているわたり板の一まい一まいをしっかりとふんで、前に前にと体を進めていく。
「えっ……?
 ━━えぇーっ!」
 びっくりしたのは泰夢だった。
 自分はもう半分まで来ているので、これだったら絶対にこっちの方が早くわたり切るはずだと、そのよゆうの気持ちと初めてのつり橋をわたって得意になった気分で、まだ橋のたもとのところにいる華恋をちょっとだけからかってやろうか……と、そう思ったのだ。
「ちょ、ちょっとまって、華恋ちゃんっ!
 ━━ゴ、ゴメンっ!
 そんなにさ、オレさ、おこるって思わなかったじゃん!」
 手足を風車みたいにしてグルグル回し、体育のスポーツテストで五十メートル走の記録測定でもしているかのように、華恋が橋の上を走る。
 前に出した足がわたり板に着くたびに大きくしずんで、それがはなれる時に大きくはねる。
(コレって、ヤバい……!
 マジでヤバい、めっちゃヤバいって!)
 走る華恋が真ん中に近づくにつれてつり橋が大きくうねる。
 そのゆれが泰夢の体をグワングワンとゆさぶり、足がもつれてあわてて横のワイヤーロープにしがみつく。
 華恋の方は慣れたもので、そのうねりを使ってポーンと本当に飛ぶようにしてどんどんと加速する。
 はずむリズムに華恋の気持ちもどんどんと高まっていき、その顔に自然と笑顔がうかぶ。
 泰夢に向かって走っていく、華恋のかぶる麦わらぼうしが、川からの風に強くふかれて、ぶわりと大きくひるがえるのだった。
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軽い気持ちで人をからかうと、とんでもないしっぺ返しを受けるのです……
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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