泰夢(たいむ)のお話:76
つり橋を前にして、泰夢の緊張感も少しずつ高まっていきます!
それでは、どうぞ!!
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強い太陽を受けた大きな麦わらぼうしが、こいかげを作って、でもその下からのぞいている笑顔を、泰夢(たいむ)は頭の上から照りつけている光よりもまぶしく感じた。
(…………)
もちろん本当にまぶしいわけじゃない。
だけれども、なんとなく華恋(かれん)の顔をまっすぐに見ることができなくて、ちょっと目を細める。
ほんの少しの間だけガッチリと目と目が合い、ひざがフワフワするような、そんなはずかしい感じがせなかの方からやってきて━━とりあえず口にくわえていた木の小枝を手に持ち変えた。
(華恋ちゃん、なんで笑ってんだろ?
オレってさ……もしかして、またやっちゃったか?
━━いや、と、とにかく何か返さないと!)
頭の中で色んな考えがすごい勢いでグルグルして止まらず、細めた目のままニカーッと口を横に開いて、とりあえず笑顔を返す。
(…………)
華恋から何かを言われるんじゃないかと思っていた泰夢だったが、それはどうやら取りこし苦労だったようで、そして何よりも華恋の笑い顔がとてもすてきで、それにつられて泰夢もいつの間にか本当に笑っていた。
泰夢と華恋の二人の笑顔はそれぞれちがっていたけれども、でも、そこから生まれたそれぞれの笑い顔が、たしかに二人を結びつけていた。
「うん……
華恋ちゃん、行こう!」
両手を高く上にして泰夢がそう声をだし、華恋もトートバッグのかかっている方のうでをあげて、おーっ!と元気よくこたえる。
「━━よっしゃあ!
待ってろよー、つり橋っ!
オレってさ、こんなのへっちゃらじゃん!」
そう言ってもう一度、じっくりとつり橋を見る。
だれもそこをわたってないのだけれども、川からの風で足元から真っ直ぐ向こう岸まで続いているわたり板が、ゆっくりと大きくゆれている。
もちろん、泰夢が自分の足でつり橋をわたるのは初めてだ。
泰夢の住んでいるところは都会でゴチャゴチャしているので、実を言うと橋がおおい。
大きな道路をわたるために歩道橋があったり、建物と建物を結んでいる連らく通路だったり、通っている小学校や、家の近くの学習スクールに行くのにも、なんだかんだで二、三本の橋をわたる。
泰夢にとって橋は慣れ親しんだものだけれども、大体はコンクリートや鉄柱なんかでできている、りっぱでじょうぶなものだ。
それとちがって、つり橋は太くてしっかりしてそうだけれども、コンクリートなんかと比べたら、本当に弱そうな数本のワイヤーロープと木の板だけでできているのだ。
(うおぉ……チョーヤベェ!
なんか、めっちゃキンチョウしてきた━━
橋の通るトコとかさ、あれってスッゲーゆれてんじゃん!)
それこそ泰夢が得意としている「うんてい」の上に登って歩くときか、もしくは学校のレクリエーションや家族旅行でアスレチック場に遊びに行ったときぐらいしか、こんな不安定な「通り道」は見たことがない。
(……でも、あれは遊びだし、
落っこちてもいいように、下んトコがもっと低くなってたし━━)
泰夢が学校で行ったアスレチック場では、横にした丸太を上から何本もつるしてならべた「丸太わたり」というものがあり、それは浅い池のところにあって、たとえそこから落ちても水にぬれるぐらい━━そして、泰夢をふくめた大体の生徒たちは、友だちとふざけあっておしたり引っ張ったりしているうちにその浅い池に落っこちるので、学校からは着がえの服とパンツを持ってくるようにと、あらかじめお知らせがくるのがいつものことだった━━なので大したことはない。
けれども、このつり橋はそうした遊びのものではなく、生活のために作られたものなので、わたる部分の長さも、高さも、そしてもちろん全体の大きさも全くちがっていた。
(…………)
ちょっと下を見るようにして、まずは一歩、そっとふみ出す。
思っていたよりもわたり板はしっかりしていて、はばも十分にあったので安心だったけれども、板と板のあいだにはだいたい15センチぐらいのすき間があった。
橋がゆれたときに板と板がぶつかってわれないようにそうなっているのだろうが、そのすき間からは下の川が見えるし、もちろんわたり板の両はしには何もないので、言ってしまえば空中にうかんでいる板の上を一まいずつまたいで歩いていくようなものだ。
(コレ……
けっこうヤバくねぇ……?)
わたり板の向こうのずーっと下の方に、黒くてとうめいな流れになったり岩に当たって白くしぶいたりしている川が、ドドドドという大きな音をたてながら流れているのが見える。
まわりには日光をまぶしく返す石ころの岸辺があって、その岸辺を草木の深い緑がおおっている。
(…………)
わたり板のすき間からのぞいて見ているだけでも、すいこまれて落ちてしまいそうになり、自分でも気が付かないうちにフラフラと前のめりになっていく自分に気がついて、泰夢がハッとする。
もしかしたら本当はそれほどではないのかもしれないけれども、つり橋からの川底まではとんでもない高さのように感じ、そして、こうしてそれをのぞいて見ていると、おしりのあたりがモゾモゾ、ゾワゾワするぐらいこわいのに、同時にワクワク、ドキドキする気持ちももり上がってきて、どうしても目がはなせなくなってしまうから不思議だ。
「━━泰夢くん、わたらないの?」
「わたる、わたる!
下がどんなんか、ちょっと見てただけじゃん!」
その様子を後ろでずっと見ていた華恋の声に、泰夢は小枝をビュッとひとふりして格好をつけると、つり橋に向けて足をふみ出した。
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あらためてつり橋の高さを感じた泰夢……無事に渡れるのでしょうか?
では、次回もお楽しみに!
小林るい
