泰夢(たいむ)のお話:79
つり橋から放り出されそうになった泰夢と華恋の運命は……?
それでは、どうぞ!!
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麦わらぼうしを追うように華恋(かれん)のかみの毛が大きくなびく。
うきあがった体はもちろん、かたにかけていたトートバッグも、全部が重さを感じなかった。
急に体が放り出されたこわさはあったけれども、それよりも目の前の麦わらぼうしの方が大事だった。
体がはねたはずみで頭からぬげたぼうしは、その勢いと川からふく風にあおられて、ふわりとはなれていく。
(━━ダメっ!)
お気に入りの麦わらぼうしだった。
ただのお気に入りではなくて、華恋のために父が選んでプレゼントしてくれた大切な麦わらぼうしなのだ。
華恋は自分がどんな風になっているのか━━大きくうねったつり橋にはねあられたのだから、何もしなければそのまま下の川へと落っこちてしまうだろう━━もわすれて、麦わらぼうしをつかまえようと、必死になってグッと体をのばす。
なんとかぼうしのつばに指がとどいた。
そのままもっと体をのばして、つばをつかむ。
(━━えっ?)
つかむと同時におなかのあたりに強いいたみを感じ、そのまま体が大きく前に、クルっと回るようにしてたおれていきそうになる。
下から上へとものすごい勢いで流れていく景色の中で、自分のうでと、つかまえた麦わらぼうしと、その先に岩に当たって白く波立つ川が見えた。
いっしょにつり橋をわたっていた泰夢(たいむ)も、はねあがったわたり板におしあげられて、空中へ放り出されたようになった。
そのうかぶような感じの最初のほんの少しの間は、ちょうどブランコで一番上のところまで来たのに似ていたので、むねのあたりがドキンを高く鳴るみたいに気分がもりあがった。
けれども、それが思っていたよりも長く続き、さっきのガケのところですべった時と同じように、自分の体が自分ではどうしようもできないような感じへとあっという間に変わっていった。
うわぁっと泰夢の口から声にならないようなヘンな声がでて、手足が勝手にバタバタと動く。
それはたぶん、なめようとしていたソフトクリームの先っぽが、残念なことにポトンと地面に落ちてしまった時と同じぐらいの、本当に短い時間だったのだろうけれども、泰夢にはずいぶんと長く感じられた。
(━━━━!)
夢中で動かしていた手が、つり橋のワイヤーロープにふれる。
ワイヤーロープはつり橋の横にへいこうして三本張ってあって、一番下のわたり板の高さのところから順番になっており、一番上のヤツはちょうど手すりぐらいの高さ━━下の二本のワイヤーロープはサビて赤茶色でザラザラだったけれど、上の一本だけが銀色でツルツルしているので、本当に手すりとして使われているのだろう━━になっていた。
これをのがしたらつり橋から落ちてしまうと、泰夢はその一番上のワイヤーロープをしっかりとにぎってしがみつく。
(め、めっちゃヤバかった……)
なんとか転落をまぬがれた泰夢が、あたりを見回す。
「━━か、華恋ちゃん!?」
泰夢がつかまっているのとはちょうど反対側のワイヤーロープに、華恋のすがたが見えた。
手すりのワイヤーロープから大きく体をのりだしていて、いまにも川へと落ちそうになっていた。
それはちょうど鉄ぼうの前回りをしている最中のような感じで、そのまま前にくるりと回ってしまえば、華恋は真っ逆さまにつり橋から川へと落ちていってしまうだろう。
川の方にある手はさっきまでかぶっていた麦わらぼうしをつかんでいて、もう一方の手は何かにつかまろうと必死に動いている。
今すぐなんとかしなくちゃ!と、とっさに泰夢はグイっと体をのばし、ワイヤーロープとは反対側の手に持っていた、お気に入りの小枝を華恋のほうへ差し出した。
「つかまって、華恋ちゃん!」
「━━━━!」
後ろにのばした手に当たるものを感じて、華恋がそれをつかんだ。
泰夢の手に小枝から重さが伝わり、そっちへ持っていかれないように、反対側のワイヤーロープをにぎっている手に力をこめる。
「ぜったい、はなしちゃダメだからなっ!」
泰夢の声に華恋が小さくうなずく。
ちょっとでもバランスがくずれたら、そのままクルンと体が前に回ってしまいそうだった。
後ろにある手で、しっかりと小枝をにぎる。
麦わらぼうしから華恋へ、華恋から小枝へ、小枝から泰夢へ、泰夢からワイヤーロープへ……なんとかつながったこの一本の線がたよりだった。
鼻のあなをふくらめて、顔を真っ赤にした泰夢が力をこめる。
つり橋の外側にあった華恋の重心が、少しずつ内側へと入っていく。
このまま体がおなかに当たったワイヤーロープよりも内側に入れば、自分の力で体を起こすことができるだろう。
(…………)
にぎった小枝に泰夢をしっかりと感じながら、少しずつ、少しずつ体を内側にもどしていく。
息をするだけで重心が動いてしまいそうで、麦わらぼうしに風が当たって大きくたびに前に回ってしまいそうで、本当は泣き出しそうだったけれども、華恋はじっと体を動かさずにがまんする。
目の周りが熱くなって、下に見える川と岩がにじんでくるけれども、じっと息を止めて泰夢を信じる。
(…………)
泰夢も、のばした小枝の先にいる華恋を絶対に落としてなるものかと、ありったけの力で引きよせる。
少しずつだけれども、華恋がこちら側に来ているのが分かる。
(いいぞ……
そのまま、そのまま……
ぜったいに華恋ちゃんを助けるんだ……!)
ワイヤーロープをにぎっている手と、小枝を持っている手からじんわりとあせが出てくるような気がして、むねのおくがジリジリする。
━━と、小枝を持っている方の手からパチンという音が聞こえた。
全身で力いっぱい華恋を引っ張りながら、首だけ少し動かして音の方へ目をやる。
(えっ……マジか!?)
華恋と泰夢をつないでいた木の小枝が大きくしなり、その真ん中がはじけて折れようとしていた。
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泰夢のお気に入りの木の小枝……あと少しなので頑張ってほしいです!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
