泰夢(たいむ)のお話 その二:23
互いに手をつなぐ泰夢と華恋……そろそろお家に帰る時間になります。
それでは、どうぞ!!
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にぎっていた手がグッと上に持ち上がり、それにつられて華恋(かれん)が泰夢(たいむ)を見る。
ソファから立ち上がった泰夢の顔は、どこかキリッとして見えた。
そのまま手を引っぱられるようにして、華恋もフカフカのソファからこしを上げる。
(泰夢くんって……
もしかしたらだけど、力持ちなのかな?)
引かれた手の、その力が思っていたよりも強く感じて、それにちょっとおどろいた。
二人でいっしょにならんで立てば、泰夢よりも華恋の方が、身長が高くて体もすこし大きい。
華恋の見るところだと、泰夢は自分の学校のクラスにいる男子とくらべると、どちらかと言えば小さい方に入るだろう。
だから、泰夢が自分のうでを引っぱったとしても、ソファから立つほどではないだろうと思ったのだ。
それに、うでを引っぱられたことも、それほどいやだと感じなかった。
じつは華恋は、他の人に体をつかまれたり引っぱられたりすることがとてもきらいだった。
もちろんそれは、みんなそうなのだろうけれども、華恋の場合はそれとは少しちがう理由がある。
空手を習っている華恋にとって、引っぱる、つかむというのは『反則』だと、頭の中に入っている。
二人一組になっておたがいにむきあって、手や足でなぐったりけったりする『組み手』という練習をしている時も、つい夢中になってしまい道着をつかんだり引っぱって『つき』や『けり』を出してくる生徒もいる。
道場の先生なんかが周りで見てくれている時は、そこで『反則』と言って中断してくれるけれども、そうでない時は、そのままなぐられたり、けられたりすることもある。
相手につかまれていなければ、相手が『つき』や『けり』を出してきても、手ではらったり、足で動いてよけたりすることができるので、それほどいたい思いをしなくてすむ。
けれども、相手につかまれているとこれが全くできないので、そのまま『つき』や『けり』が当たってしまい、それがとてもいたいのだ。
そういった事もあって、華恋は他の人からふいにギュッとつかまれたり、グイッと引っぱられると、自分が考えているよりも体が反応して━━なにしろ自分の母親とだって、何にもしてないのにうでをつかんだ、いや、つかんでない! とケンカになるぐらいなのだ━━グッと身構えてしまうし、強くつかまれて、おさえつけられたりすると、全身がこわばってすくんでしまうのだった。
(…………)
けれども、泰夢にうでを引っぱられても華恋は身構えなかった。
だから、引っぱる力をそのまま感じて、泰夢は力持ちなのだと思ったのかもしれない。
なぜ華恋が泰夢に身構えないのか、その理由はわからないけれども、もしかしたら、あのつり橋で、今にも落ちてしまうのではないかという中で、おたがいの手をしっかりとつかんで、信じあって助けあった事がきっかけなのかもしれなかった。
しっかりと重なっている泰夢と華恋の手のひらは、あの時と同じように、あたたかい力が行ったり来たりしている。
「━━よーっし。
それじゃ帰ろうよ、華恋ちゃん。
あんまり暗くなるとさ、ばあちゃん心配するし」
「うん、そうだね。
……自由研究、
いっしょにできるようになって、本当によかった」
「うん、そうだね。
オレも、オバジイに相談して良かったって思ったじゃん」
泰夢も華恋も、二人ともいつものように話し始めるけれども、どうもギクシャクとして会話がうまくかみあわない感じになる。
(なんだ、これ……
べつにしゃべんなくてもいいと思うんだけど、
でも、しゃべってないと、なんだか落ち着かないぞ……?)
自分の手の中にある、華恋の手のひらのあたたかさが、泰夢のむねのおくもあたたかくして、そして少しだけ、ソワソワとさせる。
このまま手をずっとつないで、華恋といっしょにいるだけで、それでじゅうぶんのような気がするのだけれども、そうしているとなんとなく気持ちがあせってしまうし、そもそもだけれども、なにが『じゅうぶん』なのか、泰夢にはわからない。
まず図書館から祖母の家まで帰らなくちゃいけないし、さっき調べた自由研究もまとめなきゃいけないし、今日の学習スクールの課題に、他の夏休みの宿題だってある。
その上、今日こそはおふろ場の『シャワー修行』を、冷たい方へハンドル全開でクリアしようと考えていたのだ。
なのに、このままで『じゅうぶん』だって思うのは、なんだかヘンだしまちがっている気がする。
「あ、あのさ、
帰りに本を借りていこうよ!
オレ、気になるヤツがあるんだよね!」
「……本?
べつにいいけど━━なんの本を借りるの?」
「えっ!? えーっとさ、さっきのさ……
そう、オバジイが言ってた『ヨモツヘグイ』のヤツと、
それから『三まいのお札』のヤツ……読んでおこうと思って」
「うん……わかった。でも、
一応言っておくけど、読書感想文を書くんじゃないからね?
わたしたちがやるのは、自由研究だから」
「そんなの、わかってるってば!
オレも気になったからさ、ちょっと見てみたいんじゃんか!
━━それじゃ、図書館の方にいこうよ!」
ちょっと急ぐみたいにそう言いながら、バタバタとデイパックにタブレットをしまいながら、華恋の手をそっとはなす。
(…………)
急に軽くなった手のひらで、せおったデイパックのかたひもをグッとにぎり、そのまま大またで談話室を出ると、ずらりとたくさんの本がならんでいる図書館のエリアの方へ歩いていった。
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会話は続いているのに、どうにも弾まない……ちょっと気まずいですよね。
では、次回もお楽しみに!
小林るい
