泰夢(たいむ)のお話 その二:22
泰夢の気持ちを察しそっと手を触れる華恋……泰夢も想いを巡らせます。
それでは、どうぞ!!
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生まれてくる弟━━か、妹なのかもしれないけれども━━のことを、泰夢(たいむ)はずっと良く思っていなかった。
弟が生まれる……そんなことがなければ、母親も入院することはなくて、去年と同じように楽しい夏休みがやってきて、学校やいつも通っている学習スクールの友だちと、毎日のようにゲームをしたり、公園で遊んだりすることができたはずなのだ。
(…………)
でも、それはかなわなかった。
母親が早めに入院することになり、まだ学校がある間は父親と二人で毎日を過ごした。
一学期が終わって学校が夏休みに入ってからは、泰夢一人をずっと家にいさせるわけにはいかない、もし何かあったら大変だ━━これについて最初は、自分だけでだいじょうぶだから! と泰夢は強く主張した。父親が帰ってくるまでは自分一人で好き勝手にできると思ったからだ。だが、夏休みに入る前の休みの日に、父親が仕事の都合で本当に家に一人きりになったことがあった。その時に、なにかよく分からないものを売りにくる人や、少しでいいからお話をさせて下さいと勝手にしゃべりはじめる人や、家のことや父親、母親のことをこまかく聞いてくる人や、そんな人たちが次々とやってきたのだ。はじめのうちは、オレにだってこのぐらいできるじゃん! と、インターホンに出て一人一人に得意になってこたえていた泰夢だったけれども、それが何度か続くうちに、だんだんとめんどうくさくなってきて、そのうちに、もしかしたら自分が一人だけだというのを知っていて、わざとおしかけてきているのではないか? と、思いはじめ、最後はよびだしのチャイムにも出ず、自分の部屋のベッドの上で布団にくるまって、泣きながら父親にでんわをかけることになり、泰夢も自分一人だけで家に留守番をするのはいやだと思うようになったのだった━━ということで、赤ちゃんが無事に生まれ、母親といっしょにたい院するまでの間は、自分の家から遠くはなれた祖母の家で、夏休みを過ごすことになったのだ。
(━━こうなったのは、ぜんぶ弟のせいだ!)
父親の車に乗って祖母の家に来た時、泰夢は強くそう思った。
前に祖母の家に来た時はまだ小さくて、緑色にしげった生けがきや古くて大きな門柱がとてもりっぱで、広い庭があって、その家はとても楽しい思い出があった場所だったけれども、夜中に祖母の家について、真っ暗の中で車からおりた時には、こんなところにいつまでいればいいんだろう……と、本当にガックリとしてしまった。
着いたばかりだけど、そのまま車で帰りたいと思ったぐらいだった。
けれども━━
(…………)
ひんやりとしてやわらかいものが泰夢の手にふれた。
それが華恋(かれん)の手だということはすぐにわかった。
(手、つめたいな……)
オバジイとタブレットで話しながら、頭のすみっこの方でぼんやりとそんな事を考える。
ぎゅっとパンツのすそをにぎっていた手をはなし、温めなくちゃ……と、つめたい手をつつみこむようにする。
ぎゅっと少し強くにぎると、向こうもキュっとにぎりかえしてくる。
(……華恋ちゃん)
夜に一人でいると、なみだが出てくることもある。
でも、そのなみだは必ず止まる。
それは、ここに華恋がいるからだと思う。
いやな思いがグルグルとして、自分はずっと一人なのでは……と考えてしまうけれども、その先には、いつも華恋のすがたがうかぶ。
バスで会ったらなにを話そう、どんなギャグで笑わせよう、なんとかしてドリルを写させてもらおう、ゲームで格好いいところを見せよう……
そんな考えが次から次へとわいてきて、笑っている顔やおこってる顔、しんけんな顔におどけたヘンな顔、いろんな顔の華恋が頭の中でいっぱいになって、そうしているうちに泰夢もどんどん楽しい気持ちになり、いつのまにかなみだも止まってしまう。
だから泰夢は、いまはもうそれほど生まれてくる赤ちゃんのことを悪く思っていなかった。
いつだったか父親とのスマホで話をしている時に「あんなにいやがっていたのに、毎日楽しそうで安心したよ!」と言われた。
それを聞いた泰夢は、自分でもビックリした。
たしかにそうだったからだ。
そうして、なんでオレはこんなに毎日楽しいんだ? と自分で考えてみたことがあった。
最初のスタートはもちろん「華恋ちゃんといると楽しい」だったけれども、それを一つひとつたどっていくと、祖母の家に来たからだ、というところに来て、そうしてとうとう最後には「オレに弟ができるからだ!」という考えに行きついた。
それからはもう、悪く思うどころか、こんな楽しい場所に来られて、しかも華恋ちゃんと出会うことができたのは、ぜんぶ赤ちゃんのおかげなんだ! ぐらいに思うようになっていた。
「……泰夢、
さっきからずっとだまっているが、どうかしたのかい?
まぁ、うれしそうに笑っておるから、問題はないんだろうが━━」
「えっ……?
オレ、笑ってた?」
画面の向こうのオバジイに言われて、ハッと泰夢が正気にもどる。
自分でも気がつかない間に、ぼーっとしてしまっていたらしい。
「えっと……
それで、なんだっけ?」
「わっはっはっは! なんだもなにも━━
これで話は終わりだ、ってことをちょうど話してたところだなぁ」
「あっ、そっか……
ごめんなさい、オバジイ」
「うんうん━━泰夢は、なんだか夏休みに入って変わったなぁ。
前よりもグンとしっかりして、大人になったように見える。
これなら、いいお兄ちゃんになれるだろうなぁ」
あやまる泰夢に、オバジイが大きな体をユサユサしながら、今日一番の大きな笑い声を上げると、もし何かあったらまたいつでも相談をするんだよ。といい、最後に華恋にもう一度あいさつをして、そうして通話を切った。
「…………」
談話室が急に静かになった。
暗くなり始めた大きなガラスの向こうの景色に、ならんでソファにすわる泰夢と華恋のすがたが、重なってうつっていた。
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図書館の外が暗くなってきました。そろそろ帰りの時間ですね!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
