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泰夢(たいむ)のお話 その二:21

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自由研究のお話も、ようやく一段落がついたようですが……
それでは、どうぞ!!

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 そうしてひとしきり笑い終え、落ち着きを取りもどした泰夢(たいむ)と華恋(かれん)に、学習用タブレットの画面の中にいるオバジイが、どれどれ……と、職員室の自分のイスにすわり直す。
「華恋さんのたん任の先生からいただいたお手紙には、
 おおよそ、そんな事が書いてあったよ。
 共同研究はオーケー、その場合は二人の名前を書く━━という事だなぁ」
「うん! ありがとうオバジイ!
 華恋ちゃんとオレでさ、バッチリやるから、
 夏休みが終わって自由研究を見るの、楽しみに待っててよ!」
「わっはっはっは!
 そいつは本当に楽しみだなぁ。
 ━━華恋さんも、泰夢のことをよろしくお願いするね」
「はい……オバジイ先生、ありがとうございます! 
 もし泰夢くんがヘンなことばかりする時は、
 ちゃーんと注意して、ほっぺたの一つでもつねってあげますね!」
「えーっ、ちょっと華恋ちゃん!
 それはさ、マジでカンベンしてよぉ。
 オレだってさ、いつもふざけてばかりじゃないじゃんか……」
「さーて、それはどうですかねー?
 今さっきだって……
 わたしの顔に向けて、オシリをフリフリしたばかりじゃない!」
「いや、だってさ、あれはふざけたんじゃなくて、
 タブレットの画面をしっかり見たくってさ、
 たまたま、そういう風になっちゃっただけで━━」
 二人してソファにすわってワイワイとやり始める泰夢と華恋の様子に、体を大きくゆすりながら笑っていたオバジイだったが、何かを考えるようにしてヒゲをさわると、ゆっくりと口を開いた。
「……そう言えば、泰夢。
 お母さんの様子は、その後どうだい?
 この前にお父さんから、先生のところにも連絡があったが……」
「母さんのこと……?」
 オバジイの言葉に、泰夢がタブレットの方を向いた。
 今までのふざけた感じとちがって、ちょっと真面目な顔になる。
「まだ、しばらく入院するんだって……
 赤ちゃんがおなかの中で一生けん命にがんばってるから、
 もう少ししたら赤ちゃんも生まれて━━たい院できるんだって」
 父親からは、まいばん電話がかかってくるし、時々はビデオ通話で母親と三人で話をする時もある。
 最初のころは、入院にはそんなにかからないだろうと言う話だったけれども、それがだんだんと長くなり、今ではもう、たい院のことはあまり話題にのぼらなくなってきた。
 父親も母親も、そして生まれてくる赤ちゃんも元気そうだと言うのは電話でわかるし、泰夢も華恋といっしょに勉強したり遊んだりしているから、ふだんはあまり頭の中にはうかんでこない。
 けれども夜に、なんだかねむることができなくて、一人ベッドの上でじっと、天井の照明なんかを見ている時は……考える時がある。
 もしかしたら自分は、このままずーっと、一人きりになってしまうのじゃないだろうか。
 家も両親もなくなってしまい、自分一人だけ、だれもいない場所で、体が大きくなって、ヒゲも生えて、いつの間にか大人になって、でもただポツンと、ずっとそこにいる……
(そんなコトはゼッタイにない━━)
 頭の中で何度もそう言うけれども、のどのおくの方がヒクっとして、声にならない声がでて、鼻がつまって息ができなくて、目の周りがカッと熱くなって、なみだがあふれて出てきてしまう。
(…………)
 まっすぐにタブレットを見ている泰夢の顔は、少ししんけんな感じだったけれども、いつもとあまり変わりはない。
 でも、その手はパンツのすそのところをギュッと強くにぎりしめているのを、華恋は見ていた。
 知っている人はだれもいない、知っている場所も一つもない、そうした所に、いま泰夢は一人でいる。
 母親と二人ぐらしをしている華恋には、少しだけその気持ちがわかる。
 もちろんそれは『少しだけ』で、母親は仕事でおそいだけで入院したりどこかに行ったりはしないし、ここは自分が住んでいる場所で、すぐ近くに自分の家もあり、そこに帰ることができる。
(それでも……)
 それでも不安になったり、一人きりになってしまうのではないかと考えてしまって、苦しくさびしい気持ちになることがある。
 泰夢はきっと、自分がそう感じているその何倍も、何十倍も、きっと泰夢は『ガマン』をしているのだろう。
 笑ったりおこったりすねたり……ちょっと目をはなすと泰夢はすぐに『ヘン』なことをするから、見ている華恋もびっくりしてしまう。
(もしかして……
 泰夢くんがすぐ『ヘン』なことをするのって━━)
 そういう『自分』を、ガマンしている自分を見せないようにするためかもしれない。
 泰夢自身がそれを知ってやっているわけではない、とは思う。
 学校の課外授業で、近くのようちえんに行ったりして遊ぶことがあるけれども、そこで見ている限りでは、小さな子どもがさみしくてあまえてきたり、わざと目を引こうとしたりするのとはちがっている。
 たぶん泰夢は、自分でも気が付いていない。
 それは、さみしかったり自分を見てほしかったりして、まわりの注目を集めようと『ヘン』なことをしているのではなく、『自分はガマンしている』という事から、自分自身の目をそらすためにそうしているのではないか……と、華恋はなんとなくそう思ったのだ。
(泰夢くん……
 本当は自分の住んでいるお家に、
 お父さんとお母さんがいるところに、帰りたいんだよね……)
 パンツのすそをにぎっている手が、白くなっている。
 華恋のむねの中の深い部分も、いっしょにちぢんでいたくなる。
 ちぢんでいたくなって、そうして自分がわからなくなってしまう。
 泰夢が家に帰りたいという気持ちがわかる、けれども、そうして泰夢がいなくなってしまったあとに、果たして自分はどんな風になってしまうのか……と、さみしさを『ガマン』する泰夢を思う気持ちと、泰夢にいてほしいと思う気持ちとがごちゃまぜになり、むねのいたいのがどんどんと重たくなっていく気がする。
(…………)
 泰夢と同じようにタブレットの方を向いたまま、ソファの上でそっと手をのばして、すそをにぎりしめている泰夢の手にふれる。
 ビクッと小さくふるえたその手は、はじめはそのままだったけれども、やがてのびてきた手にふれ、そうして今度は華恋の手を強くにぎりしめた。
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そばにいてくれるだけで少し強くなれる……そんな人は大切にしたいです!
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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