泰夢(たいむ)のお話 その二:20
泰夢とオバジイの話に置いていかれた華恋……追いつけるでしょうか?
それでは、どうぞ!!
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ピッカピカの笑顔でこっちを向いて、いつものように親指を立てた泰夢(たいむ)が何かを言っている。
さっきまでオバジイ先生と一生けん命になって話をしているのは分かっていた……けれども、何の話をしているのかは分からなかった。
談話室の、同じソファのとなりにすわって、いっしょに学習用タブレットの方を向いてはいたけれども、華恋(かれん)の頭の中は、もっと遠い別の━━もちろんそれは、本当にはなれた所にいたという意味ではなくて、考えていることが全く別の内容だったということであり、もしそれを説明しなくてはならないとなったら、自分以外にだれもいないところで、頭からすっぽりとタオルケットにくるまって、それでも口からもれてしまいそうな声を、必死にがまんしながらゴロゴロと転がりまわらなくては、とてもちゃんとしてなんかいられないだろう━━場所にいたからだった。
(そ、そんな、急に聞かれても……)
二つのお話がおんなじだって、そう思うでしょ? と、目をキラキラさせながら顔をよせてくる泰夢に、何もしていないのになぜかドキドキとして息が切れてしてしまう。
「ご、ごめんね、泰夢くん。
わたしちょっと、別のことを考えてて……
━━えっと、ほら、あれだよ、おつけもののこと、考えてたの!」
華恋はとっさに苦しまぎれにそう言った。
頭のどこかに、さっき母から持たされた『おつけもの』のことがあったからかもしれない。
自分でも何を言ってるんだろうと思ったけれども、思った時にはもう口から出てしまっていた。
「へ……なんで?
おつけものってさ、あのご飯の時に食べるヤツだよね!
えぇーっ、マジで? オレもさ、タクアンめっちゃ大好きじゃん!」
自分の大好物のひとつが話に出て、お茶わんとおはしを手に持ってご飯を口にかきこむまねをしながら、ポリポリ~、バリボリ~、タクアンってばサイコー! と歌っておちゃらけはじめる泰夢。
(……泰夢くんって、やっぱり『ヘン』だよね)
自分の中のフワフワした気持ちを知られまいと、口からポロリと出た言葉だったけれども、どうやらそれはうまくいったようだった。
ソファの上で体をくねらせて歌う泰夢をだまって見ながら、華恋の頭の中のフワフワとゴチャゴチャがススッと整理整とんされていく。
「━━それで、
その『ヨモツヘグイ』……っていうのは、
いったい、何のことなの?」
ようやくいつもの調子を取りもどした華恋がそう声をかけるが、泰夢はいっこうにおふざけを止めようとしない。
華恋のまゆ毛が、ピクっと持ち上がる。
「わっはっはっは! いやぁー、すまないね!
それをはじめに言い出したのは、先生なんだなぁ。
『ヨモツヘグイ』というのは、神様のお話のひとつなんだよ」
てんで話を聞こうとしない泰夢にかわって、タブレットの向こう側にいるオバジイがそう答えた。
「それで、その神様の話をしたら泰夢が、
昔話にある『三まいのお札』と内容が似ている、と、
そう言い出した……というわけなんだなぁ」
「神様のお話……
それは、もしかすると、
わたしたちの自由研究とも関係がありますか?」
「うーん、そうだなぁ……
関係があるかもしれないし、ないかもしれない。
でも、先生は興味を持ったから、少し調べてみようと思うよ」
「……そうですね!」
オバジイがアゴに生えたヒゲをさわって笑うのを見て、華恋も思わずいっしょに笑う。
いままで自由研究なんて、めんどうくさいだけだと思っていたけれども、図書館の自習室の大きなつくえの上に、何さつもの図かんや本を広げて熱心に読んだり書き取ったりしている泰夢のすがたや、『ヨモツヘグイ』と『三まいのお札』という、似ているけれどもちがうお話のことに興味を持った、と楽しそうにしている様子を見て、自分が今まで持っていた『めんどうくさい』という印象は、もしかすると、ちょっとまちがっていたのかもしれない……と、華恋は思う。
算数のドリルをどんどんと計算していったり、国語のワークブックの答えをうめていったり、そういうのが華恋にとっては勉強で、それが楽しいことだと思っていたし、テキパキとそういう『勉強』をかたづけていくのは、本当に面白いと感じていた。
逆に自由研究や読書感想文は、やってもやっても先が見えないし、ちゃんとした『答え』もないので、いつもモヤモヤとしてしまって、どうにもつまらなくて、最後までしっかりとやり切った覚えがなかった。
(…………)
でも、いまのオバジイや泰夢のように、自分が面白い、興味を持ったことを、いろいろな方法で調べて、知っていく、分かっていくというのも、なんだかとっても楽しそうだと思った。
(今年こそ、最後まで自由研究をしよう……
そうしたら、わたしも『楽しい!』って、思える気がするもの。
泰夢くんといっしょだったら、ゼッタイに……!)
「━━そうなんだよ、華恋ちゃん!」
そう泰夢が言った。
横をふり向くと、いつの間にかおちゃらけるのを止めた泰夢が、華恋の方を見ていた。
そんなことはないのだけれども、自分が頭の中で思っていたことに、泰夢が心を読んで返事をしたのかと、ちょっとドキリとする。
「オレってば、『ヨモツヘグイ』と、
『三まいのお札』の二つが同じ話かも……ってさ、
スゲーことに気がついちゃったんだよね!」
「……それ、もう知ってるから。
わたし、オバジイ先生からちゃんと聞いたもの。
同じコトは、何度も言わなくていいよ」
「ちぇーっ、なんだよオバジイ!
これってさ、オレが華恋ちゃんに言いたかったのにさ、
先に言っちゃうなんて、ひどいじゃんか!」
「そりゃあ……泰夢、お前さんが一人で、
タクアン、タクアンって、さわいでおったからだなぁ。
━━わっはっはっは!」
画面いっぱいにオバジイが笑い、泰夢が、だってタクアンってポリポリバリボリでうまいじゃんか! とほっぺたをふくらめて口をとがらせる。
その様子を見ていた華恋も、いっしょになって声を出して笑った。
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タクアンのポリポリとした食感を思い出すと、ごはんが食べたくなります!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
