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配達員ろること2号 第5話『待ちキャンのすゝめ』


第5話『待ちキャンのすゝめ』

店内入口に立つろるこは、イライラしていた。
スマホの時計を見ると、12時32分。かれこれ10分近く待たされている。

──12分前、12時20分。

ドロップを終えた直後、スマホが鳴った。
20分1320円のダブル案件。ピックは目の前のラーメン屋、2件目もすぐ近く。ドロップも悪くない。

「よっしゃー」

テンションが上がる。見積もりは20分だけど、15分で終わらせるつもりだった。
意気揚々と店に入ると、店員が言った。

「あと5分ぐらいでできるから、待ってて」

「あ、わかりました……」

──5分か。まあ、20分の見積もりだし、しょうがないか。あと5分なら許容範囲。

……と思ってから12分経った。

自分よりあとに来た配達員は商品を受け取っていったし、後から来た客のラーメンももう出ている。
ひょっとして、後回しにされてる? そんな疑念がわき始めた頃、店のドアが開いた。

見慣れたぽっちゃりが入ってくる。2号だ。

「ウーバーです」
「番号は?」
「76……」
「あと5分ぐらいでできるから、待ってて」

──あ、私と同じだ。ふふ。
ちょっとだけ安心したのも束の間、2号は一言だけ残して店を出た。

「外で待ってます」

(あ……外で待ったほうがいいのかも。入口にいるの、邪魔だし)

ろるこは慌てて2号を追いかけた。でもそのとき、彼はもうバイクにまたがってエンジンをかけていた。

「……え?」

外で待つって、そういう意味じゃなかったの?ぽかんとするろるこの前を、2号のバイクが音もなく走り去っていった。


あのあと、2号が戻ってくることはなかった。商品を受け取ったのは12時41分。2件目のドロップが終わったのは12時54分。
もう1件、高額案件を拾いたかったけど、単価はすっかり落ちていた。

昼ピークが終わり、ろるこはいつもの公園のベンチに腰を下ろす。「はあ~……結局ぐだぐだしちゃって、あんまり稼げなかったな……」ため息交じりに空を仰いでいると、背後から足音が聞こえた。

振り返ると、2号が歩いてくる。

「2号さん! 今日の昼ピ、大熊猫屋のピック来ましたよね? 外で待ってるって……」

「ああ。待っててもできへんから、待ちキャンした」

「街キャン……? 街でキャンプ?」

「ちゃう。待ちでキャンセルや」

「でも、“外で待ってる”って……」

2号はあっさりと言った。

「外で待ってたかて、呼ばれへんで」

「え……」

「私、2号さんの真似して外で待ってたんですよ。でも全然来ないから中に入ったら、もうできてて……」

「せやろ」

「ひどくないですか?」

「しゃあない。あそこ、店の客優先するからな」

「……ああ、お客さん優先、ですよね……」

「ちゃう。配達員は“客”ちゃうねん」

「……はい」

「でもな、俺たちの先にも客はおんねん」

その言葉に、ろるこはハッとした。
たしかに、自分たちが受け取りに時間をかければ、その先にいる“本当の客”にも迷惑がかかる。

けれど、2号はふっと笑って肩をすくめた。

「──てのは、建前な」

「……え?」

「待ってたら昼ピ終わってまう。効率よく稼ぎたいなら、“待ち多い店”は覚えとくことや。
受けてもええけど、“待つのは5分まで”って自分で決めといたほうがええ」


ちゃんと待ってたつもりだった。
でも、それじゃ稼げないってことも……たぶん、知ってた。
少しずつでいいから、2号さんを真似していこう。


あとがき:配達員が語る調理待ちの実態

「待ちキャン」──あんまり聞き慣れない言葉かもしれません。
実は配達員の間でも、これを“待ちキャン”と呼んでる人はそんなに多くないと思います。

でも、「調理が遅いからキャンセルする」という行動自体は、配達の現場では珍しくないです。

急いで店に向かったのに「あと10分かかります!」って言われること、珍しくないです。
そういうとき、どうするかは本当に人それぞれ。

  • すぐキャンセルして次を狙う人

  • とりあえず待つ人

  • 店の対応次第で気まぐれに決める人

どれが正解ってわけでもないです。

というのも、キャンセルしたところで「来店までの時間」には報酬が発生しないから。
しかも、次がすぐ鳴るとは限らないし、鳴ったとしてもキャンセルした案件より条件がいいかどうかは運まかせ。

逆に待ったとしても、見積もり金額の中にある程度の“調理待ち”が織り込まれてることも多いので、
「そこまで損してない」パターンも普通にあります。
※もちろん15分超えるような地獄案件は例外。

……で、僕はというと、待つの嫌いなんで結構キャンセルします(笑)

ただ、昔はこんなこともありました。

東京に来たばかりの頃の話。
下北沢の某店でピックに行ったら「店内優先でやってるんで〜」の一点張り。
「商品どのくらいで出ますか?」と聞いても、
「店内優先でやってます」→「……いやだから何分くらい?」→「店内優先でやってます」のループ地獄。お前は壊れたラジオかっ!(笑)

お客さんにも「進捗ないです」と伝えつつ、5分おきに様子見に行って、結局待ち時間は40分
当時は“調整金”って仕組み(今はもう機能してないけど)があったから待てたけど、
今なら絶対に5分たりとも待ちませんね。

というわけで、この話は「ただちゃんと待ってるだけじゃ稼げない」ことにろるこが気づくきっかけの回でもあります。
もちろん、ちゃんと待つことも悪くない。
でも、自分の中で「何分までなら待つか」というラインを決めておくのは、生き残るために大事な選択かもしれません。


※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。

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