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(12)【たたまれた布団】人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-失踪編-


■この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
・正直、極限まで恥をさらしてます。
・僕が生きてきた記録(ノンフィクション)です。
・ほぼ毎日更新を目指しています。


【たたまれた布団】


「今日はパチンコでもするか?」

松下さんは
モーニングを食べながら、
スポーツ新聞を読みながら言った。

僕は笑って頷いた。

「松下さん、お金もあるし服買いませんか?
さすがにこの汚れた作業服でうろつくのは、ちょっと。。。」

「そやな。人間らしく、
仕事用と私服は分けた方がええな。」

僕たちはそれぞれ
2万円ほどで服を買った。

新品の服に袖を通しただけで、
なんだか普通の人になった気分だった。

「失踪者」でもなく
「逃亡者」でもなく。

どこにでもいる、
ただの人間。

本当にそんな日が
もう一度来るのだろうか。

普通の生活を、
やり直せる日が来るのだろうか。

松下さんが、少し言いにくそうに言った。

「さっきな、
スポーツ新聞見とって
思ったんやけど。。。」

「今日はチャリ行かへんか?」

「チャリ?」

「あぁ、競輪や。」

「競輪?
僕、ルールも全然わかりませんよ。」

「簡単や。
1着と2着、できれば3着まで当てるだけや。
当たればパチンコより増えるで。」

ここから
20分くらいで行けるらしい。

僕は競輪に興味はなかったが、
松下さんについて行くことにした。

「さぁ、まずは腹ごしらえやで。」

競輪場には屋台が並んでいた。

なんだか、
殺気だった人たちばかりだ。

松下さんは
ビールとおでんを食べながら
マークシートを書いている。

僕はルールもわからないので
おでんを食べたり、
場内をぶらぶら歩いたりしていた。

そのときだった。

「落車や!」

松下さんが大声を出した。

「当たっとったのに落車しやがって!」

「落車?」

「あぁ、アイツがコケて失格や。。。」

その後も松下さんは
ひたすらマークシートと格闘していた。

そして夕方。

「もう帰ろう。
残り一万円になってもうた。」

競輪は100円から遊べるが、
レースに5万円でも10万円でも賭けられる。

松下さんは
肩を落としていた。

「とりあえず晩ごはん食べましょう。
今日は僕が奢ります。」

「そやなぁ。。。
カレーやな。
それも、メチャクチャ辛いやつ。」

僕たちは
ココイチに入った。

僕はビーフカツカレー。

松下さんは
カツカレーの10辛だった。

「大負けした日はな、
辛いカレーって決めてるんや。」

松下さんは
大汗をかきながら食べていた。

その夜、僕たちは
素泊まり1,800円の宿を見つけた。

大部屋で、
知らない人たちと一緒だった。

周りを見ると
日雇い労働者らしい人ばかりだった。

僕が宿代を払って
コンビニでビールを買った。

松下さんは
ずっと暗かった。

「晩めし代も宿代もビール代まで
出してもろうて、すまんのぅ。」

松下さんは
何度も何度も謝ってきた。

「元々は松下さんのお金ですから。
気にしないでください。」

それでも松下さんは
申し訳なさそうに頭を下げていた。

暗い雰囲気のまま
ビールを飲み干し、

僕たちは
眠りについた。

そして翌朝。

目が覚めると。。。

松下さんの布団だけが、
きれいにたたまれていた。

松下さんの荷物も
なくなっていた。

僕はしばらく
その布団を見つめていた。

すると
何かが置いてあるのに気づいた。

五千円札だった。

昨日の晩ごはんと
宿代のつもりだろうか。
一万円しかないと言っていたから
所持金は5千円くらいのはず。

昨日
何度も何度も謝っていた。

こんなことなら
奢らなきゃよかった。

松下さんは
どこへ行ったのだろう。

何も言わずに。

一昨日の
僕のように。

松下さんも。。。
戻って来てくれるのだろうか。

とにかく僕は
缶コーヒーを飲んで
落ち着こうとした。


(第13話【終わらない一日】につづく)




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「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」

【第一章・失踪編】
目次から読む
1話から読む

【第二章・新聞配達編】
目次から読む
1話から読む


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