(3)【地獄の入り口は、静かだった】人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-失踪編-
■この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
・正直、極限まで恥をさらしてます。
・僕が生きてきた記録(ノンフィクション)です。
・ほぼ毎日更新を目指してます。
【地獄の入り口は、静かだった】
朝5時に待ち合わせなのに、
僕は4時には目を覚ましていました。
昨日買っておいた缶コーヒー。
もうすっかり冷たくなっている。
自販機、探してみよう。
僕は外に出てみます。
1月下旬。
外はまだ真っ暗です。
その暗闇の中で、
ぽつんと光るものを見つけました。
昨日、明るい時には気づかなかった
自動販売機だった。
ブラックのホットコーヒーを押す。
温かい。
暖房もない部屋で過ごした体に、
その一口は、やけに沁みました。
部屋に戻ってテレビをつけてみると
映像は出ない。
音だけのテレビです。
しかも受信できるのは
一局だけ。
流れてきたのは
「歌う天気予報」と思われる番組。
そこでは
「マイク・オールドフィールド」の「ムーンライトシャドウ」が
エンドレスで流れていました。
この曲は、
今でも忘れられません。
なぜなら
この曲を僕は
10日間、毎朝聞くことになるからです。
5時。
「寮」という名のアパートの
入り口に行きました。
手配師はもう来ています。
ボロボロのハイエース。
オンボロのハイエースで

「お世話になるのは、すぐ近くの建設会社や。
明日からは歩いて行き。道覚えてな。
6時までに行けばええ。」
寮から一本道。
歩いて5分もかからない。
僕は聞きます。
「あの。。。風呂はどうしたらいいですか?」
「建設会社の風呂借りたらええ。タダやしな。
慣れてきたらこの辺に銭湯ようけあるわ。
分からんことは先輩に聞いたらええ。」
建設会社では、
一斗缶で焚き火がされていた。

僕はすぐ火にあたった。
暖かい。
手配師は
建設会社の人と思われる人と
話し込んでいます。
まだ朝が早いのか
周りには誰もいません。
その時です。
「自分、こういう所初めてなんやて?」
声をかけてきたのは
建設会社の人でした。
「心配せんでええわ。
ウチの連中は優しいのばっかりやから。」
「俺はここの専務や。」
「慣れるまでは俺と同じ現場やな。
今度、名古屋で万博あるからな
現場はようけある。稼げるでぇ。」
僕は
稼げなくてもよかった。
ただ、
しばらく静かに暮らせたら。
それだけで
良かったのに。
「おはようございます。」
人が集まってきました。
5時30分頃には
20人くらいになっています。
みんな、早い。
手配師が言った。
「じゃ、分からんことあったら
先輩方に聞きゃええ。」
「そこの彼も昨日からや。
仲良うなれるわ。自己紹介しとき。」
男が近づいてきた。
「松下いうねん。よろしくな。」
「昨日から来とる。
初日はえらい(きつい)やろ?楽にしとき。」
なんてことない普通の会話。
でも、
その言葉は
やけに沁みた。
「松下さん、こういう所長いんですか?」
「ああ、5年はやっとるで。
転々としとるけどな。」
「まぁ安心しとき。
初心者は楽な現場しか行かんわ。」
僕は少し安心した。
(松下さんと同じ現場だったらいいな。)
心の底から
そう思った。
ロン毛。
ピアス。
金髪。
怖そうな人ばかりだった。
僕は
ずっと下を向いていた。
「さぁ、そろそろ出発するでぇ!」
専務が声を出した。
「お前、お前、お前。
俺について来い。」
松下さんも
呼ばれていた。
同じ現場らしい。
よかった。
本当に
よかった。
今日一日だけ。
今日一日耐えればいい。
楽な現場。
そう信じていた。
だけど、
それは
完全に打ち砕かれる。
キャリア5年の人には
楽な現場だったのかもしれない。
でも、
初めて現場に入る僕には
地獄の一日が始まった。
【第4話】「はじめての現場」へ
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「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」
【第一章・失踪編】
→目次から読む
→第1話から読む
【第二章・新聞配達編】
→目次から読む
→第1話から読む
