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(17)【認められた、それだけで救われた】人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-失踪編-


■この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
・正直、極限まで恥をさらしてます。
・僕が生きてきた記録(ノンフィクション)です。
・ほぼ毎日更新を目指しています。


【認められた、それだけで救われた】


朝4時。
眠れないまま眠って起きた。
脳に昨日の臭いが、こびりついている。

少年の頃のように眠りたい。
悩みがあっても
友達と喧嘩しても
彼女にフラれても
深く深く、グッスリと眠れた。
あの頃。

いつから眠れなくなったのか?
いつから、浅い眠りになったのか?
今日は特に浅い眠りだった。
あの臭いのせいで。

共同洗面所に、
コーヒー用の水を取りに行く。

コーヒーメーカーから溢れる香り。
一瞬だけ人間らしく感じられる。

朝から
レギュラーコーヒーを飲める幸せ。
朝のクリーンな身体に
カフェインが流れていくのを実感する。

現場にも、少しずつ慣れてきていた。

冷蔵庫の荷下ろしも、
最初は「ただ持つだけ」だったのが、
いつの間にか、
周りを見ながら動けるようになっていた。

どこに置くのか。
誰が次に動くのか。
どこが危ないのか。

怒鳴られないように、
必死に見ていたら、
少しずつ、
分かるようになっていた。

ただ、あの臭いだけには慣れない。
いや、慣れるようになったら
本当に人間おしまいだ。

5時に松下さんが来た。
僕は2杯目、松下さんは1杯目の
コーヒーを飲む。

「。。。昨日はえらかったのぅ。。。」
「。。。ハイ!早く忘れたいです。。。」

2人とも、無言で会話して
一階の会議室へ向かう。

いつものように、タバコの煙。
いつものように、沈黙の空間。
いつものように、ホワイトボードに
名前が書かれていく。

C班、ドライバー兼。
日当16,000円確定だ。

昨日まで10人体制だった現場も
今日から5人体制のようだ。
僕と松下さんと吉田、
あと顔しか知らない2人。

「おみゃ〜さん。
頑張っとるらしいのぅ。
先方からのご指名だ。
指名手当1,000円つくけぇ〜。」

全員が僕を見た。

マジか!指名手当?
いや、そんなことより、
はるかに、
はるかに嬉しかったのは
認められたこと。

体力勝負、忍耐勝負の仕事
更に、僕は初心者なのにも関わらず
見てくれていたのだ。

僕の仕事ぶりを認めてくれた。
涙が出そうになる。

「松下君も指名やから。」
全員が松下さんを見る。

いつものように、コンビニ経由で現場へ。
しかし、昨日と違って心が軽い。
ただ、油断は出来ない。
今日はどんな仕事か?
まだ分からないのだ。

朝礼が始まり、職長が口を開く。
「おはようございます。今日はね。
足場屋さんのね、お手伝いをね。
していただきますね。」

いつもながら「ね」がやたら多い。
「ね」を入れたらソフトな
話し方になるとでも
思ってるんじゃあないだろうか。
逆に分かりにくいじゃあないか。

久しぶりに楽な仕事の日だった。

トラックから
クレーンが荷下ろしをしてくれた。
下ろされた足場資材を
足場屋さんと運ぶ。
運ぶ。
運ぶ

ただ運ぶだけ。
重くもない。
形も均一。

足場屋さんは優しかった。

休憩も、ゆっくり取れた。
休憩中にコーヒーを飲むのも久しぶり
のように思う。

午前と午後に30分の休憩。
悪くはない。

目を閉じて缶コーヒーを飲む。
美味しく感じる。
あぁ、味覚も戻ってきてる気がする。

午後も同じ作業を
淡々と
黙々と
粛々と
こなした。
作業だ。
仕事と思うとキツくなる。


1日が終わり、会社兼寮に帰る。

日当を受け取り、風呂に入り、
洗濯機を回した。
その間に、晩ごはんを食べに行く。

珍しく吉田がついてきたいと言う。
寂しいのだろう。
松下さんと3人で王将に向かった。

僕は前回と同じ餃子定食に
餃子2人前をプラス。

吉田は酢豚単品に日本酒だ。
何やらひとり喋り続けている。

部屋に戻り、洗濯機を見に行く。
乾燥機に入れる。

昨日の仕事はともかく、
職場には恵まれたようだ。
なんでも金を取るような
搾取根性は今のところない。

それどころか「指名手当」までくれる。
指名された。
認められた。

ココがどんな世界であれ、
認められる、よろこび。
人間としても、認められたかも。
一生懸命やれば
誰か見てくれている。

ただ、人間らしく生きるには
ずっと、ココにいるわけにはいかない。
乾燥機の回る作業服を見ながら想う。

乾いた作業服を持って部屋に戻り
ビールを飲み、眠る事にした。

深く眠りたい。。。
そう願う。
眠れない。

昨日の、あの臭いが
ぶり返す。
浅い眠り。
ぶり返す臭い。
浅い眠り。

寝苦しいまま、僕は
重い体をベットに預けた。

人生は、
まだまだ、楽にはならないらしい。



(第18話【救われた言葉】に続く)




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「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」

【第一章・失踪編】
目次から読む
1話から読む

【第二章・新聞配達編】
目次から読む
1話から読む


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