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【読書】追悼・エビジョンイル「デジタル公共放送論」

※タイトルの追悼が討になっていたので直しました。

今日のメディアコングロマリットとしてのNHKを形作ったのは誰か?を改めて考えてみると、先日紹介した「シマゲジ」の実質的な後継者でもあった「エビジョンイル」の存在が大きい(両者は対立関係にあったとされるが)。

「エビジョンイル」こと海老沢勝二氏といえば、いわゆる磯野事件の責任を取る形で辞任したことで有名だ。強権的かつ、地位への執着が強い独裁者という印象を私は持っていた。

海老沢氏は、茨城県出身。「西湖会」(NHK内の茨城県出身者ネットワーク)をバックに政治部で頭角を表した。しかし、「シマゲジ」に危険視されて関連団体に放逐されたとされる(シマゲジは著書で否定しているが)。

両者の著書(筆者の蔵書)

しかし、海老沢氏は失脚したかと思われた後に権謀術数を駆使して再びNHK本体に返り咲く。そこから会長にまで上り詰めた逆転のストーリーは、どことなく現在の井上副会長ともクロスオーバーする(器は全く違うが)。

海老沢氏の葬儀には井上氏のほか、NHK幹部や政治家、かつての側近たちが大挙して押し寄せた

私自身、在職中に海老沢氏との接点は一切なく、「エビジョンイル」という単語だけの印象しか無い。

だが、その実相を伝える書籍などを読み進めていくと、ステレオタイプなイメージだけでは語り得ないことがわかってきた。

そんな折、運良く中古で入手できたのが、本書「NHK会長 海老沢勝二が語る デジタル公共放送論」だ。

執拗なまでに「これは月刊ニューメディア編集部の私見だ」という「おことわり」が繰り返される点が異様なインタビュー本ではあるが、海老沢氏の肉声を記録した、限りなく一次資料に近い書籍なのは間違いない。

本書のおことわり

本書が出版されてから25年以上・四半世紀が経過した今、エビジョンイルの構想とそれがNHKに及ぼした影響について改めて考察してみたい。

エビジョンイルのビジョン

誤解を恐れずに言えば、基本的にはシマゲジ路線と非常に近いビジョンだったように私の目には映った。

NHKを、日本の文化の発展を担う拠点と位置付け、放送事業体を超えた巨大メディアコングロマリットとして発展させようと構想していたことが本書からは伺える。

海老沢氏の死に際して、NHK党の立花氏が「海老沢さんは口癖のように、日本が世界に誇るものは『富士山・新幹線・NHK』だ、と繰り返していた」という趣旨のことをYouTubeで話していたが、本書を通読してみると、それは嘘偽り無いように感じられる。

ある意味、伝統的な自民党的価値観にも通じるものがあるが、知る権利の担保を超えて、日本文化そのものの象徴を目指した節は感じられる。

しかし、海老沢氏らが活躍した高度経済成長期からバブル景気の時代とは異なり、90年代後半以降の日本では、災害・事件・事故が相次いだ上に、円高と不景気が顕在化。少子高齢化が急激に進んだ2025年の今よりは将来に対して幾分楽観的だったかもしれないが、海老沢氏のビジョンと日本の状況は乖離していた。

デジタル展開への野心

海老沢氏は2000年時点でも、現在のNHKのスタンスに通じるようなデジタル展開の構想を語っている。

その残滓に振り回された私などは良い思い出は無いのだが、放送のテキスト情報だけでなく、関連情報も含めて横断的に検索できる情報プラットフォームをNHKが提供することを計画していたようだ。

もし実現していれば、Yahoo!に近い総合ポータルサイトになっていたのだろうか?少なくとも「NHK ONE」よりは遥かにマシなものになっていたことは間違いない。

いずれにせよ、世界に誇る巨大メディアコングロマリットとして、むしろNHKが日本の発展を牽引するかのような壮大なビジョンを海老沢氏が持っていたようには感じられる。その大風呂敷さも相まって、「エビジョンイル」と呼ばれたのかもしれない。

海老沢氏の素顔

海老沢氏の後、ピンチヒッター的に技術出身の橋本氏が会長に就いて以降、NHKの会長は全て民間企業出身者になっている。全員が全員そうだったわけではないが、政財界の意向をNHKに反映させる思惑が強く、「放送とは何たるか?」などとは無縁の人物たちだったことは間違いない。

私はNHK在職中、ほぼ「外部会長」しか経験していないから、会長とはそんなもんであって、放送の埒外にいる連中だと割り切っていた。

放送人としてのプライド

海老沢氏は確かに強権的だったかもしれないが、放送人としての強靭な足腰とプライドがあったようだ。私自身もまたNHKの使命に殉ずるつもりで業務に邁進していたからこそ、共感を覚えるエピソードが多数あった。

例えば、九州の豪雨災害で右も左も分からないまま泥まみれでフィルムを運び、放送に漕ぎつけたようなエピソードが本書では明かされるが、今、そんな経験をする若手はいるだろうか?泥と汗にまみれ、総力戦で放送を出すことの価値を身体で理解していることは、NHKのトップの必須要件のはずだ。

海老沢氏の「三種の寝器」

写真にいやらしさはあるが、ヘルメット・懐中電灯・ラジオを就寝時も手元に置き、特にラジオは常にR1を流しっぱなしにしていたという。

近年のNHKの休日・深夜での緊急報道対応力の低下を見たら、海老沢氏は何と言うだろうか?「働き方改革」のように半分私的な取り組みは良しとせず、24時間365日片時たりとも気を抜かず、放送のために貢献することを是とするだろう。

非・放送職場との軋轢

NHK広報が目を光らせていた本書ではほとんど触れられていないが、シマゲジと同じく、海老沢氏も局内で様々な対立を引き起こしてきた。

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