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第四話:王子、肌荒れ〜乾癬〜と向き合う


転生したら50代のチビでハゲでデブだった件。 第四話 王子、肌荒れ〜乾癬〜と向き合う

【あらすじ】

私は、某国の絶世のイケメン王子アレックス(27)。とある逆恨みから「チビデ・ハゲデ・ブー!」という呪いをかけられ、目を覚ますと――チビでハゲでデブな50代のおっさん「ヌシ」(蕪木としぞう)の身体に転生していた。資産はあるが、糖尿病に乾癬、鬼嫁付き。いまは一つの体に、王子とおっさんの二つの意識が同居中。前世の知識とAI執事を武器に、このポンコツな身体と人生を、私が立て直す。
(>フォローすると、50代の体を王子と一緒に立て直せますw
 物語の第一話はこちら

これまで:糖尿病を十年放置していたヌシを、王子が専門医へ引きずっていき、薬と食事を仕切り直させた。

今回:糖の次は、肌だ。王子は、ヌシのすねや肘に潜む“赤い炎”の正体を暴きにかかる。

*  *  *

糖尿病の一件が落ち着いた、ある夜のことだった。

風呂上がり、ヌシが体を拭いていると、アレックスの視線が、ヌシのすねに釘付けになった。

ア:(……ヌシ。さっきから気になっていた。その、すねの赤いもの。それに、肘の、その銀色に粉を吹いた、かさぶたのようなもの。何だ、それは)

ヌ:『ああ、これ? 乾癬。気にすんな、もう二十年以上の付き合いだ』

ア:(二十年以上だと?)

ヌシは、ぽりぽりと無造作にすねを掻いた。掻いた跡が、すっと赤い線になって浮かび上がる。

ア:(……待て。今、掻いたところが、赤い線になったぞ)

ヌ:『ん? ああ、なるな。昔から。引っかくと、その通りに赤くなるんだ。慣れたよ』

アレックスは、しばらく黙っていた。その「慣れた」という言葉に、何か、嫌な引っかかりを覚えたらしい。

ア:(……お前、その肌。普段、どう手入れしている。正直に言え)

*  *  *

ここで、ヌシの心の声が、だだ漏れになった。

ヌ:(……まあ、薬はもらってるけどな。朝晩塗れって言われてるけど、朝は面倒くさいから夜だけ、たまに塗り忘れる日もある。保湿しろって言われてるけど、ベタベタするのが嫌いだから、ほぼやってない。あと、酒飲んで、揚げ物食って、夜中に菓子をどか食いした次の日は、てきめんに赤くなる……けど、まあ、それも慣れたな……)


ア:(――全部、聞こえているぞ)


ヌ:『あっ』

そう、忘れていた。同じ体に住むこの王子には、ヌシの考えごとが筒抜けなのだ。


ア:(朝晩塗れと言われた薬を、夜だけ。塗り忘れも常習。保湿はベタつくから、やらん。酒、揚げ物、夜中の菓子で悪化するとわかっていて、やめん。――それで「もう慣れた」だと?)

ヌ:『い、いや、その』

ア:(言葉も出んわ。糖の時と、まるで同じだ。お前という男は、なぜこうも、自分の体だけを、こうも雑に扱う)

*  *  *

ア:(聞かせろ。この病、いつからだ。最初は、どうだったのだ)

ヌシは、観念して、昔の話を始めた。


ヌ:『……始まりは、二十七の頃だったな。当時、仕事が地獄でな。徹夜続きで、月の残業が二百四十時間を超えたこともあった』

ア:(二百四十時間……。それは、戦の連続のようなものだな)


ヌ:『そんな頃だ。ある日、腕を引っかいたら、すーっと赤い線が残って、しばらく消えなかった。最初は気にもしなかった。忙しすぎて、それどころじゃなかったんだ』

『二十九の時、当時付き合ってた彼女に「あんた、肘が変だよ」って言われてな。見たら、肘の皮が一部、かさぶたみたいになってて、めくると、下から赤い生皮みたいなのが見えた。そのうち、膝とか、親指の付け根にも同じものができた。……思えば、ガキの頃から、頭はフケっぽくて、引っかくとかさぶたができる質ではあったんだ』

ア:(それで、医者には)

ヌ:『三十の頃、さすがにこれは何かの病気かと思って、皮膚科に行った。そしたら医者が、俺の爪をじーっと見てな』

*  *  *

回想の中の医師は、ヌシの爪を観察して、こう言った。

「爪に、小さな凹みが、ポツポツとありますね。これは特徴的なんです。――蕪木さん、これは乾癬ですね」

ヌ:『かんせん!? え、俺、何かに感染したんですか!?』

「いえいえ(笑)。感染症の『感染』じゃなくて、乾く癬(たむし)と書いて、乾癬。うつる病気ではありません。皮膚の、いわば体質的な病気です」

そう言われても、当時のヌシには、何のことやらだった。

*  *  *

現在に戻る。アレックスもまた、戸惑っていた。

ア:(乾癬……。正直に言う。私の前世の医術の知識に、この病の記憶はない。飲水病(糖尿病)は知っていたが、これは知らん。――執事に、聞く)


アレックスは、左手でスマホを操り、AIに問いかけた。

ア:(執事よ。乾癬という皮膚の病について、詳しく教えてくれ。何が起きている病なのだ)

返ってきた情報を、前世で薬学を修めた素養が、噛み砕いていく。

ア:(……なるほど。読めてきたぞ、ヌシ。これは、お前の体の中で起きている、小さな“炎症”――いわば、内側のボヤ騒ぎだ)

ヌ:『ボヤ?』

ア:(聞け。お前の体の中で、何らかの理由で、炎症を引き起こす物質――サイトカイン、というらしい――が、過剰に出ている。すると、お前自身の免疫が、自分の皮膚を敵と勘違いして攻撃してしまう。その結果、皮膚の生まれ変わり――ターンオーバーが、異常な速さになる。本来一ヶ月ほどかけて入れ替わる皮膚が、数日で無理やり押し出される。それが、あの銀色のかさぶたの正体だ)

ヌ:『へえ……。引っかくと赤い線が残るのは?』

ア:(それも特徴の一つらしい。傷や刺激のあった場所に、症状が出る。お前が無造作に掻くたび、自分で病を広げていたわけだ)


*  *  *

ア:(執事の話では、原因は、まだ完全には解明されていないそうだ。乾燥、摩擦、ストレス、食事……様々なものが引き金になる。お前が二百四十時間の激務で発症したのも、理にかなっている。ストレスと睡眠不足は、炎症の親玉のようなものだからな)


ヌ:『国民病、ってわけでもないんだろ?』

ア:(日本では、百人に一人ほど。だが、執事いわく、アメリカではその十倍も多いらしい。だから、かの国の製薬会社は、血眼になって治療薬を開発しているそうだ)

ヌ:『ほう。頑張れ、アメリカ』

ア:(他人事のように言うな。……それと、気になる記述がある。この病、腸の状態と関わりがあるかもしれん、と。腸の壁が荒れて、本来通さないものが漏れ出す状態――リーキーガット、と言うらしい――や、脂肪肝とも、関連が疑われている)

ヌ:『腸と、肝臓と、皮膚が……?』

ア:(そうだ。バラバラの不調に見えて、根は、体の内側で繋がっているのかもしれん。――そして、たどっていくと、結局はいつもの場所に行き着く。何を食べ、どう暮らすか、だ)

ヌ:『……また、それか』

ア:(何度でも言う。それが真実だからだ)

*  *  *

後日、アレックスに尻を叩かれ、ヌシは皮膚科を訪れた。糖尿病でかかったのとは別の、肌専門の医院だ。

ここで、ヌシは奇妙な状態に陥っていた。右目はまっすぐ医師を見て相槌を打っているのに、左目と左手は、手元のスマホに落ちていて、医師の言葉を猛烈な速さでメモしている。アレックスが一言も聞き漏らすまいと記録しているのだ。同じ体の左半分をアレックス、右半分をヌシが動かせる――この体の、いつもの分担である。

「……蕪木さん。あの、さっきから、右目と左目が、別々の方向を向いて、別々に動いていませんか。左手もすごい速さでスマホを打っていて……正直、ちょっと、気持ち悪……いえ、不思議なんですが」

ヌ:『あっ、これですか。特技です。両目を別々に動かせるんですよ。あと利き手じゃないほうでメモも取れます。器用でしょう』

ア:(おい、苦しい言い訳をするな)

ヌ:『(小声で)うるせえ、お前のせいだろ……!』

医師は、釈然としない顔をしながらも、説明を続けてくれた。

「蕪木さんのは、一番多い『尋常性乾癬』というタイプ。多くの方がこれです。冬の乾燥する時期に悪化しやすいのも、特徴ですね。乾癬には、種類もいくつかあるんですよ」

ア:(医師殿。他の型も、あるのか)

と、ヌシの口が、今度は妙に古めかしい、武人のような調子で動いた。医師の眉が、またぴくりと動く。だが、もう深くは突っ込むまいと決めたらしく、気を取り直して続けてくれた。

「……ええ。たとえば『関節症性乾癬』というものがあって、これは関節に炎症が出て、リウマチのように腫れたり痛んだりします。蕪木さん、最近、手のこわばりは?」

ヌ:『……あ、ちょっと、あります。朝とか』

「なら、一応、頭の隅に置いておきましょう。今すぐどうこうではなさそうですが、関節に痛みや症状が出てきたら、すぐ教えてください。それと、尋常性乾癬も、ひどく悪化すると、背中や顔、頭まで、全身に広がることもあります。甘く見ないことです」

ヌシの背筋が、ひやりとした。すねや肘だけだと思っていたものが、顔にまで。サウナで、すねの赤みを気にしていたどころの話ではない。

*  *  *

「治療は、段階があります」と、医師は図を描いた。

「まず基本は、塗り薬。蕪木さんが今使っているマーデュオックスは、ステロイドとビタミンD3を混ぜたお薬です。よく効きますが、ステロイドが入っているので、漫然と長く塗り続けるのは避けたい。それから、最近はブイタマー(タピナロフ)という、ステロイドを使わない新しいタイプの塗り薬も出てきました。これは長く使いやすい一方、人によっては塗ったところが赤くなったり、腫れが悪化したように感じることもあるので、様子を見ながら、ですね」

ア:(……ヌシ。聞いたか。今のお前のマーデュオックスは、ステロイドだ。長く塗り続けるのは避けたい、と医師殿も言っている。となれば、いずれステロイドを使わぬブイタマーへ、移していくべきだろう)

ヌ:『でも、いきなり全部変えて、合わなかったら怖いだろ』

ア:(だから、こうする。――医師殿。提案だが。しばらくの間、右の足にはこれまでのマーデュオックスを、左の足には新しいブイタマーを塗り、左右で効き目を見比べる、というのはどうか。同じ体の左右なら、条件もそろう)

医師は、感心したように頷いた。

「なるほど、左右で比較する、と。悪くない方法ですよ。急に全部切り替えるより、体に合うかどうかを慎重に見られますからね。記録だけ、きちんと取ってください」

ア:(記録は任せろ。我が執事が得意とするところだ)

ヌ:『(小声で)……お前、ほんと医者の前で堂々と仕切るな』

「あとは、紫外線を当てる光線療法。それから――」と、医師は少し声を落とした。「炎症の親玉であるサイトカインを、ピンポイントで抑える、注射や飲み薬。生物学的製剤と呼ばれるもので、これは、よく効きます。劇的に、と言っていい」

ヌ:『おお、それいいじゃないですか。それにしましょうよ』

「ただ、ね」と医師は苦笑した。「とても高額なんです。継続するとなると、お財布への負担が、かなり大きい」

*  *  *

帰り道。ヌシは、さっそく弱音を吐いた。

ヌ:『うーん、生物学的製剤、めっちゃ効くらしいけど、高いんだよなあ。あんな高いの、一生続けるのは無理だ。やめとくか』

ア:(ほう。高いから、選ばない、と)

ヌ:『そりゃそうだろ。いくら金があるっつっても、無駄遣いはしたくねえ』

ア:(ならば、答えは一つしかないな)

ヌ:『お?』

ア:(高価な薬という“最終兵器”に頼らんのなら――徹底的に、食事だ。酒をやめ、揚げ物をやめ、夜中の菓子をやめる。お前を内側から焼いている火種を、片っ端から断つ。塗り薬は正しく塗り、保湿も毎日欠かさん。それしかない)

ヌ:『えええっ、また食事制限!? 糖尿病でもう散々――』

ア:(結局同じではないか! いいか、ヌシ。よく考えてみろ。糖尿病も、この乾癬も、結局、行き着く先は同じ場所だった。食と、生活だ。バラバラの病に見えて、大元は一つ。――だいたい、デブが万病の元なのだ)

ヌ:『デ、デブが万病の元って、お前……』

ア:(事実だろう。腹の脂肪は、ただの脂肪ではない。そこから、炎症を引き起こす物質を撒き散らしているという話まであるそうだ。糖尿病も、肝臓も、この肌も、その火元を断たねば、本当の意味では治らん)

ア:(……そもそも、だ。私はずっと、人の腹というのは、六つに分かれているものだと思っていた)

ヌ:『は? 六つ?』

ア:(前世の私の腹を見せてやりたいわ。見事に割れた、六つの筋。シックスパックというのだろう。あれこそが、私の肉体の代名詞だった。それが――なんだ、その腹は。六つどころか、ぜんぶ一つに結合して、つるりとした、ワンパックではないか!)

ヌ:『ワ、ワンパック言うな!』

ア:(樽だ。もはや樽だ。よくもまあ、ここまで一枚岩に育て上げたものだ。皮肉ではなく、ある意味、才能すら感じる)

ヌ:『けなしてんのか褒めてんのか、どっちかにしろ!』

ア:(けなしている。――痩せろ、ヌシ。その一枚岩を、もう一度、六つに割り戻す。それが、すべての病に効く、たった一つの妙薬だ)

ヌ:『…………』

ア:(不満か?)

ヌ:『いや……正論すぎて、何も言えねえ……』

ズキン。

ヌ:『いってえ! まだ何も逆らってねえだろ!?』

ア:(これは、念押しだ。明日から、酒は週に一度。揚げ物は当面、断つ。いいな)

ヌ:『鬼か! やっぱりお前は鬼だ!』

*  *  *

その夜、ヌシは久しぶりに、洗面所の鏡で、自分のすねと肘を、まじまじと見た。

二十年以上、「慣れた」の一言で、見ないようにしてきた赤み。半ズボンを履いて、友人に「うわ、大丈夫?」と言われたこと。知らないおばさんに「あら、虫刺され? 大丈夫?」と心配されたこと。サウナに行くのを、ためらった日々。

ヌ:『……なあ、アレックス』

ア:(なんだ)

ヌ:『俺、これ、ちゃんとやったら、よくなるのかな』

ア:(なる。執事の情報でも、医師の話でも、はっきりしている。きちんと塗り、保湿し、食を正した者は、ちゃんとよくなっている。お前が今までやってこなかっただけだ)

ヌ:『……そっか』

ア:(ああ。それに――いつか、お前が胸を張ってサウナに行ける日を、私も見てみたい。そして、乾癬を気にしないどころか、6つに割った腹を周りに見せつけてやろうではないか。)

ヌシは、ふっと笑った。そして、いつもはサボる保湿剤を、その夜は、丁寧に塗り込んだのだった。

―― 第四話 完 ――

>第五話:王子、ダイエットの順番を間違える へ つづく

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※この物語は、作者自身の体験をもとにしたフィクションです。乾癬の症状・経過や、薬の効果・副作用には大きな個人差があります。作中の薬や治療法、食事の内容は一例であり、診断・処方・治療方針は、必ず皮膚科などの専門医にご相談のうえ、ご自身に合った方法を見つけてください。

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