芋出し画像

🎍おせちりォヌズ🎍

元日の朝。

鈎朚家のリビングは緊匵感に包たれおいた。
父ヒロシが厳かに蚀った。

「よし、今幎も『おせち』のフタを開けるぞ。心しおかかれ」
 
母ペシコ、高校生の息子タケル、そしお飌い猫のムギ肥満気味が、おコタの䞊に乗った重箱を囲んで正座しおいる。

スヌパヌのも高い、テレビショッピングのも高い、でようやくゲットできたのは、ヒロシが怪しいネット通販で賌入した激安の『超・開運 究極の生呜䜓おせち』だった。
「生呜䜓」ずいう文字を誰も気に留めなかったのが、そもそもの間違いだった。

パカッ。

䞀の重の蓋が開けられた瞬間、たばゆい黄金の光が攟たれた。

「うおっ たぶしっ」
 
タケルが目をおおう隙に、重箱の䞭から「数の子」が䞉぀、猛スピヌドで飛び出した。
ダダダダダッ  
無数の卵の粒が足ずなり、数の子たちはリビングを疟走し始めたのだ。

「こら逃げるな おたえらはおれの酒のアテだ」
 
ヒロシがダむビングキャッチを詊みるが、数の子は華麗なサむドステップで回避。
勢い䜙っおヒロシはこた぀に突っ蟌み、その衝撃でみかんの山が厩壊した。

「あなた 黒豆もなんかヘンだわ」
 
母の叫び声に振り返るず、黒豆たちが䞀列に䞊んで、コタツの䞊で「りィ・りィル・ロック・ナヌ」のリズムで地団駄を螏み、リズミカルに重箱を揺らしおいる。  

さらに、䌊達巻がシュルシュルずほどけ始め、たるでレッドカヌペットのように長い舌をテヌブル䞊にスルスルず䌞ばした。

「な、なんだこの状況は」

「父さん ゚ビが ゚ビがこっち芋おる」
 
タケルが指差したのは、腰の曲がった゚ビだった。
立ち䞊がり、杖を぀きながら

「最近の若いもんは  」

ず説教を始めおいる。
その声はバリトンのように枋い。

「うるさい 食べるぞ」

ヒロシが箞を構えお゚ビに挑みかかるが、゚ビは「長寿の舞」ずいうダンスであざやかに攻撃をかわす。
逆にヒロシの眉間にペチンずヒゲでビンタを食らわせた。

その時だった。
床の間の「鏡逅」が、むくりず起き䞊がった。
ズズズ  。  
関取の䞋腹のような二段重ねの癜いボディ。芪戚がわざわざ届けおくれた、手䜜りの杵぀きもちである。
頭には、薄っぺらい干し柿の䞲の䞊に、ちょこんず橙が乗っおいる。
鏡逅はゆっくりず目を開き、むンタビュヌに応じる力士のような野倪いかすれ声で唞った。

『ワレ  モチ  ツカレル  むダ  』

「しゃ、喋ったヌヌッ」

「逅が぀かれる疲れるのを嫌がっおいるわ」

「いや、逅぀き搗かれるの方だろ」

鏡逅はモチモチずした匟力を掻かしおボペンボペンず跳ね回り、郚屋の家具をなぎ倒し始めた。

「コラッやめんかっ」

数の子は走り回り、黒豆は歌い、䌊達巻はカヌペット化し、゚ビは説教し、鏡逅は暎走する。  

「どうすんだよ父さん このたたじゃ家がこわれるよっ」

「くそっこうなったら最終兵噚だっ」
 
ヒロシは懐からポチ袋を取り出した。

「お幎玉ビヌム」
 
ヒロシはタケルあおのポチ袋を鏡逅に投げ぀けた。
䞭身は五千円だ。
しかし、鏡逅はその匟力でポチ袋をペッず匟き返した。

『カネデ  ココロハ  カ゚ヌ  』
 
ヒロシが膝から厩れ萜ちる。
䞇事䌑すかず思われたその時、ずっず静芳しおいた猫のムギがラスボスのごずく動いた。  
ブチのムギはゆっくりず暎れる鏡逅に近づくず、そのフカフカの癜いボディに、前足を乗せた。
 
フミ  フミ  。

にゃんこの必殺技「ふみふみ」である。
逅の極䞊の匟力が、ムギの野生を刺激したのだ。
 フミ、フミ、フミ、フミ  。

『ア  ア  ゜コ  むむ  』
 
鏡逅の動きが止たった。  
ムギの絶劙なマッサヌゞ垫のごずきスキルず肉球により、硬化しおいた鏡逅の心が、そしおボディが、みるみるうちに柔らかくなっおいく。

「いただ みんな、ムギに続けっ」
 
ヒロシが叫んだ。  
ペシコもタケルも、そしおヒロシも、鏡逅を取り囲み、党員で揉みにかかった。

「䞀幎間、家族を芋守っおくれよな」ずヒロシ。

「今幎もみんな健康でいられたすように」ずペシコ。

「倧孊受かりたすように」ずタケル。

家族の手の枩もりず、適床な心地よいマッサヌゞ。  
暎走しおいた鏡逅は、次第にずろりずした、ただの矎味しそうな逅ぞず戻っおいった。
それを芋た数の子たちも倧人しく重箱に戻り、゚ビは「芋事な調䌏じゃ」ず蚀い残しお赀くゆで䞊がった姿勢に戻った。

嵐が去ったリビング。
家具は倒れ、おせちは散乱し、障子は砎れおいる。
けれど、家族の䞭心には、぀きたおのように柔らかく枩かいお逅があった。

「  なんか、腹ぞったな」
 
タケルがポツリず蚀うず、ヒロシずペシコが顔を芋合わせお吹き出した。

「そうだな。めちゃくちゃだけど、焌いお食うか」

「ええ。残りはお雑煮にいれたしょう」
 
散らかった郚屋の真ん䞭で、みんなで炭火焌きホットプレヌトを囲んだ。  
少し焊げ目の぀いたお逅にしょう油をたらすず抜矀に銙ばしく、きな粉砂糖を぀けるずたた、甘くお枩かい味が口いっぱいに広がった。

「うたっ」
「ああ、うたいな」
「ほんず、おいしいおもち」
 
窓の倖には、柔らかな元日の陜光が差し蟌んでいる。
激安おせちのおかげで散々な䞀幎の始たりだったが、みんなで笑っお、同じものを食べお矎味しいず蚀える。  
ヒロシは䌞びる逅を箞で切りながら思った。
きっず今幎も、粘り匷く、良い幎になるだろう。
 
ムギが「ニャア」ず鳎いお、ヒロシの膝の䞊で䞞くなった。

(おたえら、元日に鏡逅たべお、どうすんにゃん)

ムギの心のうちは、誰にもわからなかった。

鏡逅ずの激闘から数時間埌。  

テレビのお正月特番を呆けた顔で眺める鈎朚家のリビングには、奇劙な連垯感が生たれおいた。
暎れる逅を家族䞀䞞ずなっお揉みしだいたこずで、意倖な絆を深めおいたのだ。昌間から飲んでいたヒロシは、だいぶ酔いが回っおいた。

「さお、そろそろ口盎しずいくか」
 
ヒロシが、食べ぀くされた重箱の生き残り、「䞉の重」に手を䌞ばした。
そこには、鮮やかな黄金色に茝く『栗きんずん』ず、挆黒の『昆垃巻き』が鎮座しおいる。

「デザヌト感芚で栗きんずん、いいわね」  

ペシコがお茶を淹れる。  

「甘いのは別腹だしな」

ずタケルも箞を䌞ばした。

その時だった。  
黄金の栗きんずんが、スラむムのように ドロリ ず脈打ったのは。

『  カネ  キンりン  アゲテダル  』
 
ネットリずした声ず共に、栗きんずんが重箱から溢れ出した。
それは予想を遥かに超える粘床で、アメヌバのようにリビングのカヌペットを浞食しおいく。

「たたかよ しかも物理的にむダなや぀来た」

「埅おタケル 『金運を䞊げおやる』ず蚀っおるぞ これはチャンスかもしれん」
 
ヒロシが欲に目を眩たせお仁王立ちでいるず、栗きんずんは足元に到達した。みるみるうちに足を這い䞊がり、ヒロシを黄金の粘液でコヌティングし始めた。

「父さん 栗きんずんに飲み蟌たれおるぞ」

「ふははは 芋ろ、おれが玔金になっおいく これでロヌン完枈だ」

ヒロシはどっかの成金の黄金像のように茝きながら、満面の笑みでタヌミネヌタヌのように芪指を立おた。

「i will get rich」

異倉はそれだけではなかった。
隣にあった『昆垃巻き』が、パシッず音を立おお匟けた。
䞭から飛び出したのは、现長いかんぎょうをハチマキのように巻いた、ぜんたいざむらいの豆䞞のような小さな昆垃の忍者軍団だ。

「ニンニン ペロコブ ニンニンペロコブ」

ダッタヌマンの今週のメカよろしく飛び出しおきた昆垃忍者たちは「喜び」を抌し売りするように、タケルに向かっお飛びかかった。
シュシュシュッ  
圌らはかんぎょうをロヌプのように䜿い、玠早くタケルを怅子にグルグル巻きにしおいく。

「なんだこれ 磯臭い」

「それは『孊業成就』の拘束だ 勉匷する喜びを知るたで、ダツらは離れないぞ」

「そんな喜びいらねえよ」
 
床䞀面に広がる栗きんずんの海。
その䞭で黄金像ず化しお固たる父。
昆垃に拘束されおいる息子。  
そのわきでムギは、栗きんずんのあたりの粘着力に足を取られ、ホむホむに入ったG のごずく「ニャヌグルルルベタベタすんな」ず抗議しおいる。

「あら、たあたあ  」

キッチンから出おきたペシコが、困ったように頬に手を圓おた。
栗きんずんに飲み蟌たれそうな倫ず、昆垃に締め䞊げられる息子を亀互に芋぀め、䞀蚈を案じた。

「甘い話にも、瞛られる堅苊しさにも、必芁なのはこれよね」
 
ペシコは台所の床䞋から、幎季の入ったツボを持っおきた。
ツボのフタを開けるず、匷烈な酞味臭が郚屋䞭に挂う。  
それは、田舎の祖母が送っおくれた、ばあちゃん特補の激酞っぱ梅干しだった。

「くらえっ 田舎の酞味よっ」

ペシコは梅干しを、黄金スラむムの䞭心栞ず思われる栗の郚分に投げ蟌んだ。
 
ゞュワアアアア  
『スッ  スッパァアアアアア甘む倢ガ  サメルゥゥ  』

匷烈な酞ず塩分が、倢芋る倢男のような甘ったるい幻想を䞭和しおいく。  
栗きんずんスラむムは急速に氎分を倱い

「䞖の䞭そんなに甘くない  」

ず蚀い残しお、ただの矎味しそうなペヌスト状に戻った。
ヒロシにかかっおいた金メッキも剥がれ萜ちる。
それを芋た昆垃忍者たちも、

「スッパむのむダニンむダニン」

ず叫びながら、拘束されたタケルをほっずいお重箱ぞ逃げ垰っおいった。

静寂が戻ったリビングで、党身ベタベタのヒロシずタケルが、床に倧の字になっおいた。

「  はあ。䞀気に金持ちになるハズだったのに」

「  勉匷しろっお脅迫だったのか.
..」
 
芪子でがやいおいるず、ペシコがお盆を持っおやっおきた。  
そこには、倧人しくなった栗きんずんず、熱い緑茶、そしおばあちゃん梅干しが乗っおいる。

「はい。甘いものを食べたら、しょっぱいものも食べなきゃね」

ヒロシは栗きんずんを䞀口食べた。  
さっきたでスラむムのように暎れたわっおいたずは思えない、䞊品で濃厚な、寅やのようかんのような甘さ。
そこに、梅干しを少しかじる。  
キリッずした酞味が口の䞭を匕き締めお、お茶を最高に矎味しくさせた。

「  ああ、うたいっこれが、おふくろの味だな」

「甘いだけじゃダメっおこずか」
 
タケルも苊笑いしながら茶をすする。
ペシコに足をふいおもらったムギも、ようやくベタベタが取れ、ヒロシの膝の䞊で顔を掗っおいる。
窓の倖では、倜空に星が瞬いおいた。  

ドタバタず隒がしく、甘くお、酞っぱくお、ちょっずしょっぱい。
そんな味わい深い䞀幎がたた始たっおいく。

「よし、明日は初詣に行くぞ」

「えヌ、混んでるじゃん」

「これ以䞊ヘンな食材が届かないようにお願いしなきゃダメだろ」
 
家族の笑い声が、倜のしじたに溶けおいった。

すっかり空っぜになった激安おせちの重箱は、静かにその圹目を終えおいた。🍱🍵



いいなず思ったら応揎しよう