(770 + 1) ÷ 2 |【狸の短編小説】
遠くで鳴く蝉の声だけが、
世界の真実を教えていた。
少しひんやりとした土の匂いが、
世界の真相を告げていた。
僕の手には、朽ちたハシゴから取った、
中の詰まった重い棒。
「そっちじゃない、もうちょっと右だって」
妻である彼女の、笑いを含んだ声。
信頼するその方向へ、一歩ずつ、
慎重に足を進める。
「あー、行き過ぎ。
もうちょっと手前。そう、そこ、そこ」
「そこじゃわからないよ」
指示は随分と曖昧で、この役には不向きだ。
「いい感じ、いい感じ。そこ、最高」
僕は、この時間が好きだった。
三人だけで貸し切ったキャンプ場。
誰にも邪魔されない、気の置けない空気。
この幸せが、明日も明後日も、
ずっと続くのだと信じて疑わなかった。
全身の力を込めて振り下ろす。
「パカッ」
鈍い衝撃が響き、小気味良い音が弾ける。
歓声が上がり、急いで目隠しを外した。
目の前には、鮮やかな赤色の果肉を見せて、
見事に二つに割れたスイカ。
彼女と友人の彼は、
少しぎこちなく笑い合っていた。
***
空がグラデーションに染まる頃。
割れたスイカを頬張りながら、
他愛もない話に興じていた。
「暑いから、特製のモヒート作ってやるよ」
そう言って、彼は慣れた手つきで
グラスにミントの葉を入れた。
カン、カンというリズミカルな音が、
静かな夕闇に響く。
彼女は手元のグラスを空けながら、
その音にうっとりと耳を澄ませていた。
「ミントのいい香りがしてきた」
彼女は無邪気に笑っていた。
***
三杯目のモヒートを飲み干した彼女は、
随分と酔いが回っているようだった。
僕は、空になった瓶を手に、立ち上がる。
「ちょっとソーダ、取ってくるね」
クーラーボックスの蓋を開け、
冷えた瓶を取り出した、一瞬の隙。
「ねぇ…さっきのスイカ割り、
思い出しちゃった。本当に最高だったね」
その甘ったるい彼女の声を
決して聞き逃すことはなかった。
無言で二人の元へ戻る。
二人は、何事もなかったかのように、
慌てて距離を取り、僕に笑顔を向けた。
その顔は、秘密でひどく歪んでいる。
僕はグラスを、静かにテーブルへ置く。
彼の、そして彼女の顔を、
ゆっくりと、交互に見つめながら言った。
「見て、綺麗に割れたよ」

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