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片道きっぷのユニコーン|【狸の短編小説】

わたしのからだは、たくさんの色と、
ピカピカのニスで、できている。

わたしの仕事は、人を乗せて、動くこと。
楽しい音楽とキラキラの光に包まれて回る。

乗っている人も、わたしも、
とても幸せな気持ちになる。

わたしは難しいことを知らない。
言葉の意味はわからない。

でも、乗る人のこころが、
温かいか、冷たいか、軽いか、重いかは、
なんとなく分かる。

賑やかな一日が終わり、
遊園地の音が消えると、わたしは眠りにつく。

でも、今日は少し違った。

遠くで零時の時計台が鳴った頃。
仲間の木馬たちが、そっと目を覚ます。

特別な「おきゃくさま」が来る夜。
わたしも静かに目を開ける。

錆びたフェンスの向こうから、
二つのこころが近づいてきた。

古びた入場ゲート。
片道きっぷの改札をくぐって。

一つは、ちいさく震えていて、すこし冷たい。
もう一つは、静かで、氷みたいに冷たい。

そして、すごく、すごく重い

わたしは、あんなに重いこころ
今まで感じたことがなかった。

その重いこころの持ち主は、
昔、わたしに乗ってくれた男の子。

あの頃のこころは、
あんなに温かくて軽かったのに。

どうして、こんなに変わってしまったのだろう。

***

二人がわたしの前にやってくる。

重いこころの男の子が、
震えている男の子に、何かを差し出した。

それは月みたいに銀色に光る、
二つのまんまるいもの。

特別な夜に乗るための銀色のチケットみたい。

彼はクシャクシャになった紙切れも
一緒に持っているのが見える。

わたしは、なんだか嬉しくなる。
二人でわたしに、乗ってくれるのかな。

そうしたら、二人ともまた、
温かくて軽いこころに、戻るかもしれない。

わたしは「光るユニコーン」のからだを、
そっと光らせた。

こっちだよ」と教えるために。

彼はチケットを一つ、自分の服にしまい、
迷わずに、わたしの上にヒラリと乗った。

彼のこころの重さが、
わたしのからだにのしかかる。

あまりの重さに、少しだけ、きしむ音がした。

彼は、震えている男の子に手を差し伸べる。

「さあ、いっしょに」

彼の声は優しいのに、そのこころはやっぱり、
氷みたいに冷たいままだった。

震えている男の子は、差し出された手と、
自分のチケットを、何度も見比べる。

彼のこころの中は嵐みたいに、
ゴチャゴチャになっているのが伝わってきた。

温かいものと冷たいものが、
グルグル混ざっている。

そこから、不協和音のオルゴールが聞こえる。

逆再生の歓声のような、
悲しいざわめきが響いていた。

「……いやだ」

男の子は、小さな声でそう言った。

そして、手のひらのチケットを、
地面に落としてしまう。

カラン、と寂しい音がして、
チケットは闇の中に転がっていく。

わたしに乗っている彼のこころが、
もっともっと重く、冷たくなったのを感じた。

まるで、石になってしまったみたいに。

***

彼が、小さな声で「いこうか」と囁く。

わたしは、どうしていいか分からなかった。
いつもは二人で乗るのに。

でも、乗ったおきゃくさまを運ぶのが、
わたしのお仕事だ。

静かに、音楽もなく、
メリーゴーランドは回り始める。

隣の空席の木馬が、影法師のようについてくる。

たった一人のおきゃくさまを乗せて、
クルクル、クルクルと回った。

回るたびに、不思議なことが起こる。

わたしの上に、のしかかっていた、
あの石みたいに重くて冷たいこころが、
少しずつ、少しずつ、軽くなっていく。

まるで、フワフワの羽みたいに。

彼のこころは、すっかり軽くなって、
どこかへ飛んでいってしまった。

わたしの上は、からっぽになっている。

メリーゴーランドが止まる。

地面にいた男の子は、ずっと動かなかった。

出口を見失ってしまったように、
出口のないミラーハウスの方を
呆然と見つめていた。

彼のこころからは、
もう決して温まることのない、
消えない手のひらの冷たさと、
やまない耳鳴りが伝わってくる。

水たまりに映った自分の姿に、
裏切り者と叫んでいるのが、わたしにもわかる。

こころの奥に白い病室の天井みたいな、
なにもない、まっしろな景色が広がっていた。

***

夜が明けて、お掃除の人がやってくる。

その人は、地面に落ちたままのチケットを、
他の葉っぱと一緒に、
ほうきで掃いて捨ててしまった。

また、いつもの一日が始まる。

新しい子供たちが、
何も知らずに、わたしの上に乗る。

そのこころは温かくて、とても軽い。




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