死刑囚|【狸の短編小説】
男は、硬く目を閉じていた。
「先に、判決理由を述べます」
壇上から響く抑揚のない声に、男は必死に耳を傾ける。裁判官の顔も、検察官の顔も決して見ない。ただ、絶対的な正義を宿した声だけが、厳粛な法廷に染み渡っていく。
「以上、認定した事実はいずれも合理的かつ客観的なものであり、疑いを差し挟む余地はない」
男が拠り所としてきたその声は、物事を冷静に分析し、感情に流されず、常に正しい道を示すものだった。
かつて、他人を断裁するために存在したその声は今、男を裁くためだけのものに変わっている。
「被告は、社会から託された信頼を裏切り、与えられた幾多の機会を無為に費やした。その存在が周囲に与えた悪影響は甚大であり、その損失は計り知れない。弁護人から提出された情状酌量の余地に関する主張は、この客観的事実の前においてはあまりに脆弱であり、採用の限りではない」
弁護人席はとうに空だった。かつてはそこに、か細い声で「それでも」と囁く者がいたが、理路整然と並べ立てられる反論を前にして、完全に沈黙してしまっていた。
男はもう、何も感じることができなかった。全てが当然の帰結であるという納得だけが、男を支配している。
「主文、被告人を死刑に処す」
宣告を聞き、男は微かに頷いた。このひび割れた人生における唯一の、最も理に適った解決策だったから。
***
男は見慣れた狭い部屋で一人、最後の食事を取ることすらできなかった。
窓の外では、子供たちの声が聞こえる。ごくありふれた日常の音が、分厚い壁の向こう側からやってくる。
時間になり、定められた場所へ、静かに歩みを進めた。部屋の中央の印に向かって、男は自ら進んで立つ。首を一周する乾いた土手が、首筋に安堵を残した。
「何か、言い残すことは」
頭の中に響いたその声に、男は静かに首を横に振った。言うべき言葉は、あの法廷でとうに言い尽くしていたから。自分の声で、全てを語り切っていたから。
落ちる衝撃と共に、体が宙に投げ出される。体重の全てが首の一点にかかり、意識が急速に消えていく。
煮崩れたアップルパイの甘い腐臭だけが、部屋を満たしている。今日もまた一人、死刑囚は数を減らした。

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