偽貌画|【狸の短編小説】
松脂と乾いた土の匂いが澱むアトリエ。
壁の棚には、剥がされた嘘の断片を詰めた小瓶が墓石のように並んでいる。
床には、散らばった無数の削りカスが色を失った蝶の翅のように輝いている。
その中央に、差出人のない小包は落ちていた。
包装を解くと、乾いた絵の具と亜麻仁油の匂いが立ち上り、見覚えのある表情のない貌と目が合った。
二年前に土に埋めたはずの女の顔。
この下に眠る真実を抉り出す。
それが、俺にできる唯一の弔いだから。
さっそく作業に取り掛かる。
冷たい貌の上に指先を置くと、俺の魂を熱源として、硬化した絵肌の嘘を融かす。
ジリッと表面が鳴き、薄い膜が爪先で剥がれていく。
春の土と若草の匂いを伴い、公園のベンチと揺れる木漏れ日の記憶の断片が姿を見せた。
二層目に取り掛かると、粘性を帯びた層が指に絡みつき、夏の潮の香りが鼻腔を打った。
砕ける波の白と彼女のまつ毛についた砂粒が指先を拒絶する。
作業を進めるほど、抵抗は敵意に変わっていき、秋の朽葉の匂いがする層に触れたとき、熱が押し返されてアトリエの空気が歪んだ。
この痛みは、お前の意志か。
それとも、暴こうとする俺のエゴか。
この抵抗の奥にこそ、お前の本当の貌がある。
最後の層に、両手の指をかけた。
冬の乾いた空気の匂いに指を押し込んだ瞬間、白い天井が脳裏を灼いた。
点滴の落ちる音と俺の手を握る彼女の指の冷たさ。
「大丈夫」
声にならない嘘の唇の動き。
全霊を込めて爪を立てると、パリッと乾いた音がして、最後の一層が灰のように舞い落ちた。
現れたのは、唇の端がわずかに上がった貌。
病室で見た、あの微笑み。
求めた悲しみの貌は、そこになかった。
剥き出しになった亜麻色のキャンバス地だけが、アトリエの薄光を吸い込んでいる。
イーゼルから肖像画を外して壁に掛けると、窓から射す光が嘘で塗り固められた微笑みを照らし出した。
壁掛け時計の埃を被った秒針が、カチリと音を立てて動き出す。

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