【外部相談窓口の作り方:前編】外部委託が有効なのはなぜ?メリット・デメリットを解説
こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人を務める弁護士・塙 創平(はなわ そうへい)です。
前回、前々回と、組織におけるコンプライアンス違反や、各種ハラスメント被害を相談するための内部相談窓口の担当者の具体的な決め方についてお話しました。
まだ読んでいない方は、こちらを先に読んでいただくことをおすすめします。>>
「内部」相談窓口があるとすれば、もちろん「外部」相談窓口もあります。
今回と次回の2本で、外部相談窓口の具体的な作り方についてお伝えします。

最初に、結論を正直にお伝えしておきます。私は、健全な職場を「本気で」作りたいと考える事業主の方には、まず外部相談窓口の設置を強く勧めます。
……こう書くことに、実は少し躊躇いがありました。なぜなら、私は実際に外部相談窓口を運営している立場でもあるので、「外部の方がいいですよ」と言うと、単なる宣伝のように受け取られてしまうのでは、という不安があったからです。
(結果、編集者に「ちゃんと書きなさい!」と叱られて、今こうして書いています(笑))
私は法律の専門家ですが、相談窓口を設置する理由を「法律に定められているから」だけだとは思っていません。
それ以上に、誰もが健やかに働ける職場を作るためには、「実質的に(つまりは本当に)機能する相談窓口」が不可欠だと知っているからです。
そして、もう一つ。相談窓口を「本当に機能させよう」とすればするほど、内部で運営する際の人的・経済的コストが決して小さくないことも、これまで数多くの現場を見てきた経験から実感しています。
だからこそ、この記事を読んでいるあなたにまずお伝えしたいのは、「健やかに働ける職場には、しっかり機能する相談窓口が必要不可欠である」ということ。
その上で、もしあなたが事業主なら、「どうやって、その窓口を機能させるのか?」という視点で、この記事を含む全4回(予定)のシリーズを読んでいただきたいと思います。
「うちは内部相談窓口をしっかり運営するぞ!」という結論でも、「自分たちだけで実効性のある相談窓口を作るのは難しいから、外部を活用しよう」という結論でも、どちらでも構いません。大切なのは、表面的な設置ではなく、本当に機能する相談窓口を作ること。
そして、それがひいては、組織全体の健全な成長につながるという視点を持っていただくことです。
健やかな職場づくり、明るい社会実現のために、頑張っていきましょう!
外部相談窓口に対応してもらえる範囲

さて、外部相談窓口を作るとして、「どこまで対応してもらえるのか?」という点は気になりますね。
つい勘違いしやすいですが、「外部窓口を置いたら、解決まで全部お任せ〜」では、ありません。
外部相談「窓口」なので、あくまで窓口業務の委託です。つまりは、通報者から詳細を聞き取る、一次調査の部分を委託できるということです。
通報を受けて、二次調査(加害者や第三者への聞き取りや、裏付け調査)が必要だと判断された場合の対応は、外部相談窓口の役割ではなく、組織内で行う必要があります。
関係者への聞き取り調査をしてくれないんじゃ、外部窓口いらないのでは……と思いますよね。しかし、通報が年に数件あるかないか程度の組織では、通報があった時の対応に慣れていない場合が多いです。
速やかな解決には初動が大切ですから、重要度の判断を間違えないように、通報を受ける窓口を外部のプロ集団に頼むと考えてください。
実際には、二次調査が必要ではない通報もきますから、重要度を評価してもらうイメージです。もちろん、本当に二次調査が必要となった際には、外部相談窓口のオプションサービス(有料)として二次調査の依頼や相談をできる場合もありますのでご安心を。
ご自分の組織で委託を検討してる外部相談窓口が、どこまでの線引きでサービスを提供しているのかは、契約前にしっかりと確認しましょう。
外部相談窓口のメリット、デメリット

組織の相談窓口を「外部に置く」など、そもそも考えたことがないという事業主の方もいらっしゃるかもしれません。そこでまず、外部相談窓口のメリットとデメリットを把握した上で、担当者を決めましょう。
外部相談窓口のデメリット
まずは、デメリットから。2点挙げます。
前回の記事で、内部相談窓口の担当者候補者の一人に、「社外役員」を挙げましたが、そのデメリットを次のようにお伝えしました。
社外役員は、組織の業務執行には関わっていない建前なので、事業や社風と密接に関わる問題については、理解に達するまでに時間がかかる可能性があることです。
外部相談窓口についても、この指摘はあてはまります。
外部相談窓口は組織の外にありますから、その組織の業務執行には関わっていません。
したがって、事業や社風と密接に関わる問題については、理解に達するまでに時間がかかる可能性が高いわけです。取締役会や理事会といった役員会で、組織の業務執行に関わっている社外役員以上にこの可能性は高いでしょう。
たとえば非営利組織では、「若手は先輩の姿を見て学べ」という風潮のもと、十分な指導や成長支援を受けられないまま一人前の業務を任されることがあります。そして、半年経っても仕事を覚えられないと叱責されるケースも珍しくありません。
この若手が外部相談窓口に駆け込んだ場合、窓口担当者はその組織の風土だけでなく、人手不足の背景(場合によっては業界全体の事情)を理解しないと、根本的な解決にはつながりにくいでしょう。
仮に「研修制度を整えてください」と勧告しても、現場からは「人手不足だから無理だ」と返されてしまい、実効性のある改善につながらない可能性があるということです。
もうひとつ、事業主の視点としてのデメリットは、コスト面です。外部相談窓口の設置には委託費や運営費がかかるので、見かけ上の費用負担が増大します。
ただし、次に述べますが、相談窓口担当者の訓練が不要になるため、実質的にはコスト削減になる可能性も十分にあります。
事業主がどこまで「本気で機能する相談窓口を作ろうとしているか」次第でコスト感は変わってくるかもしれません。
外部相談窓口のメリット
次に、外部相談窓口設置のメリットを、2点挙げます。
まず、最大のメリットとして、外部の相談窓口の担当者は、よほどでない限り他の組織で起きた事例を知っています。また、相談窓口の専門家として、系統立ったトレーニングを受けていたり、経験があったりします。つまり、自分の組織で、トレーニングする必要がありません。
相談窓口担当者は、主に一次調査を担当します。何度もお伝えしているように、コンプライアンス違反やハラスメント被害への対応は、初動が大事です。実質的な相談窓口として機能するためには、やはり一定のトレーニングと経験が必須です。組織内部だけでそのいずれも培うことは大変難しい。
そこで、外部に相談窓口を委託することで、一定のトレーニングと経験を踏む手間を省くことができるわけです。
内部窓口の場合、コンプライアンス事案は起きてほしくないけれど、起きなければ担当者の経験値が上がらないというジレンマがありますね。
次のメリットは、デメリットの裏返しです。
組織の業務執行には関わっていない、組織外部のスタッフである外部相談窓口担当者が対応する。ということは、組織内の常識にとらわれず、ある程度距離をおいて、俯瞰的に事案を把握することができるとも言えます。
先ほどの、「いきなり一人前の仕事をさせられる若手」の例で言えば、内部相談窓口だったら「この会社は昔からみんなこうやって覚えているんだから、あなたも忍耐強く頑張って!」と言って終わりにされるなんてこと・・・非常によくあります(汗)。
組織の風土に影響されていないので、初動を間違えにくい。
また、通報や相談をする側にとっても、組織の都合に流されず、ちゃんと話を聞いてもらえるのではないかという期待が生まれます。
これも大きなメリットです。
内部相談窓口、外部相談窓口、どちらがいい?

こうして、内部相談窓口と外部相談窓口のメリット・デメリットをお伝えすると、「結局、どちらがいいの?」という質問をよく受けます。
内部相談窓口と外部相談窓口の選択は、排他的なものではありません。
要は、なるべくどちらも置いたほうがいいのです。
前回、「内部の相談窓口担当者は、2人以上をおすすめ」するという話をしました。その理由の一つが、相談者に対し、"選択肢を提供する為"と、"安全に配慮しながら対応をすすめる為"、複数の担当者から選べる方がよいということです。
外部通報窓口と内部通報窓口についても、この理由があてはまります。
内部の方がわかってもらえそうな事案や相談者もいれば、外部の方がわかってもらえそうな事案や相談者もいます。
相談者が選べるようにしておいた方が、相談者にとってハードルが下がって、相談窓口が活用されやすい、ということです。
どちらか一方を選ぶなら外部相談窓口がおすすめ
「それでもどっちがいいの?」という方には、冒頭でもお伝えしたように、まずは外部相談窓口を置くことをおすすめします。
外部相談窓口は、お金さえ払えば、すぐに設置が可能だからです。
トレーニングや経験を積むコストを考えると、外部相談窓口の方がトータルでみたコストは安いです。内部か外部、どちらかを選ぶのであれば、外部相談窓口一択です。
外部相談窓口を置いた上で、外部相談窓口と連携して対応する内部の担当者を、将来の内部相談窓口担当者にすれば、自然とトレーニングや経験を積むことができるので、望ましいでしょう。
よく、「私たちの組織は小さいから」とか、「外へお金を払うほどでは…」という声を聞きます。それであれば、内部相談窓口から置くのでももちろん結構です。しかし、その場合は、是非、前回までの記事を踏まえて、形式だけでなく、相談窓口として実質的に使ってもらえる努力(トレーニングや経験を積む機会)は少なくとも心がけてください。
内部相談窓口担当者にかかるコスト
内部相談窓口担当者を任命したら、機能させるためのトレーニングが必要です。
例えば、一般財団法人日本ハラスメントカウンセラー協会は、「ハラスメント相談窓口を担当する方に必要となる、ハラスメント指針、ハラスメント判例などのハラスメント知識などや、相談員が行ってはいけない言動」などの基本的な相談員の心構えを身に付ける研修を提供しています。
・認定ハラスメント相談員Ⅱ種研修:
https://www.harassment-counselor.com/lecture_04.php
受講料は4万1800円です(掲載日現在)。
これに加えて、相談窓口担当者が研修を受講している間に他の業務を担う人件費や、実際に事案が発生した際に、試行錯誤する分の時間的・費用的コストも考慮をする必要があります。
まとめ
今回は、内部・外部相談窓口のメリット・デメリットを比較しながら解説しましたが、最も重要なのは「実際に機能する相談窓口を設置すること」です。どちらか一方にこだわるのではなく、組織の状況や目的に応じて適切な形を選び、必要に応じて両方を組み合わせることが理想的です。特に外部相談窓口は、専門知識を活用しやすく、すぐに設置できる点が大きな利点なので、組織内でトレーニングコストがかけられない場合には、こちらがおすすめです。
次回は、外部相談窓口を設置するとして、誰に依頼するの?という点を具体的に解説していきます。お楽しみに。
