「クライアント」は令和の「大迷惑」? 【ラフ×ラフ楽曲紹介[1曲目]】
12/17 ラフ×ラフ1stアルバム「わたしファンファーレ」発売
ラフ×ラフ(以下本文中は「ラフラフ」表記で統一)のレギュラーラジオ「昭和探求バラエティ 日本直販プレゼンツ ラフ×ラフ族」(ラジオ大阪 毎週水曜日22:00〜22:30放送)にて1stアルバム「わたしファンファーレ」発売日の12/17に「ラフラフの一推しナンバーはコレだ!」という楽曲投票企画の結果発表が行われた。
「ラフラフの一推しナンバーはコレだ!」
— ラフ×ラフ族 (@rxlobc) December 17, 2025
🎊結果発表🎉
たくさんのメール
ありがとうございました#齋藤有紗 @saito_arisa_ #高梨結 @yui_takanashi__ #藤崎未来 @_mikufujisaki_ #永松波留 @nagamatsu_haru #市野瀬瞳 @Ichinose_Hitomi #ラフゾク#ラフラフ @roughlaugh_o#わたしファンファーレ pic.twitter.com/4fTb0IRuzx
結果は上記の通り、アルバムリード曲「何満開」を抑えて、ふーちゃん(佐々木楓菜)作詞作曲1作目の「君ときゅんと♡」がぶっちぎりの1位を獲得。3年目のラフラフ躍進の起爆剤になったともいえる「ラフラフの風向きを変えた曲」はファンからも絶大な支持を受けている。
アルバム発売直前に「何満開」から現在のラフラフを俯瞰した記事を書いたが、今回のアルバムには何満開の他にも新曲が3曲(一期八会、On Your Mark、消えたくなるほど君が好きだ)、未音源化曲4曲(ラズベリーサイダー、君がNo.1、Re:myself、ドラマみたいに言わなきゃ)、2023年以前の曲の一部リマスター(恐らくトラック単位での差し替え・修正)と、代表曲「考える時間をください」の完全再録など、触れなければいけない内容が目白押しである。
ラフラフnoteの大先輩であるOsamusansan(おさむ)@ラフり隊さんやAIR-G’FM北海道『IMAREAL』のパーソナリティもっちょり(森本優)さんがアルバム全曲解説記事を出してくださっているので、是非そちらも読んでいただきたい。
全曲解説はそちらに譲って、こちらでは「古の在宅ドルヲタ」として、ライブなどの現場視点とは別の角度でラフラフの楽曲を紹介していきたいと思う。全曲辿り着けるかわからないし、私見が多めになると思うが、興味のある方はお付き合い願いたい。
初回は私的「ラフラフの一推しナンバー」1位、「クライアント」から紹介していく。
クライアントについての一考察 ー「クライアント」は令和の「大迷惑」なのかー
クライアント | ラフ×ラフ
作詞:福田卓也
作曲・編曲:Carlos K.、田中マッシュ
序論
お披露目は2023年12月24日のラフラフ3rdワンマンライブ。お菓子メーカーの明治さんのスポンサードによるコラボ企画第1弾の曲で、作詞の福田卓也は佐久間宣行のオールナイトニッポンZEROの放送作家である。
壮大な音色×疾走感のあるサウンド×いくつもの表情を見せる展開で畳みかけるラフラフのキラーチューンだ。
車のオーディオやYouTubeで何度も繰り返し聞いてきたが、最近になってあることに気がついた。
「『クライアント』は『大迷惑』のオマージュかもしれない」
昭和生まれのおじさん世代には懐かしい人もいるだろう、ユニコーンの1989年(平成元年)のヒットナンバー「大迷惑」。オーケストラを背負った若き日の奥田民生が今では考えられないくらいエネルギッシュに動き回りながら絶唱する、ユニコーンの出世作である。
ちなみに私はユニコーンが好きで、すでに最初の解散後だったが高校時代からずっと聞き続けている。
「クライアント」の作曲・編曲であるCarlos K.、田中マッシュは年代的に(それぞれ1985年、1984年生まれ)リアルタイムではないまでも、音楽に精通している作曲家が全く知らないことはないだろう。
意識的なオマージュなのかどうかはわからないが、分析してみるとかなり近い要素を持っている曲といえると考えた。
労働の悲哀の畳みかけ
「大迷惑」は、レコード会社のディレクターがマイホームを建てた直後に突然の転勤を命じられた実話を背景にして、サラリーマンの悲哀を歌っている。
“突然忍び寄る 怪しい係長
悪魔のプレゼント 無理矢理 3年2ケ月の過酷な一人旅”
“逆らうと 首になる マイホーム ボツになる
帰りたい 帰れない 二度と出られぬ蟻地獄”
「大迷惑」のリリース時は、バブル真っ只中であると同時に「24時間戦えますか?」のリゲインのCMが流行した時代である。
その時代の風潮の中で、単身赴任=迷惑であり、”エプロン姿のおねだりワイフ”と”夢にまで見たマイホーム”で暮らすことを切望する歌詞は、企業戦士と言われたサラリーマンの本音の吐露に映る。
一方の「クライアント」の歌詞も、働く人、特にサラリーマンが共感するような不条理や悲哀、リアリティのある労働ストレスを列挙している。
“決まらない会議決まるのは締め切り”
“ワンマン社長は気分で意見コロコロ変えすぎ”
“今日中と言ってるけど明日の明日の朝まで見ないよね”
“だけどリアルに欲しいのは水曜休み”を水曜枠(放送日は日付を跨いで木曜)のオールナイトニッポンZEROの作家の福田さんが言っているというのも面白いが、月~金で仕事をしているサラリーマンなら一度は考えたことがあるだろう。
ただ、「労働の悲哀」を歌った楽曲なら他にもたくさんある。同じくユニコーンだと「働く男」「ブルース」「ヒゲとボイン」なども「働く」の系譜だし、他のアーティストにも同様の歌詞は少なくない。
オマージュを感じるポイントはここだけではない。
壮大な音色と疾走感
「大迷惑」はMVを見ての通り、オーケストラの音色をふんだんに使っている。
イントロからストリングスが激しくかき鳴らされ、Aメロは管楽器の軽やかな音色が加わる。Bメロの不安げな音色からサビは雄大で滑らかな音色に変わり、急に決まった単身赴任に翻弄されるようにコロコロと表情を変える急激な転換を見せ、まさに作曲の奥田民生が想定した「ミュージカルのドタバタとしたイメージ」になっている。
それと同時にリズム隊はBPM188という高速でリズムを刻み続け、終始曲全体の疾走感を牽引している。
一方、「クライアント」も、イントロは軽快な管楽器→Aメロで小刻みなストリングス→Bメロの不安げな音色→サビで壮大なテーマと、オーケストラ的な音色を非常によく似た構造で使っている。またCメロの盛り上がり方は荘厳なほどの雰囲気で落ちサビへの導入を盛り上げる。
さらにリズムはほぼ同じ(BPM188前後)。こちらは所々ストップ&ゴーがありながらも、基本的にリズム隊は激しく疾走感をキープしているところもよく似ている。インストゥルメンタル音源で聞くとこの辺の曲の構造はよりわかりやすくなる。
「オーケストラを加えた壮大なかつ変化に富んだ構成と、疾走感のあるリズム(しかもテンポはほぼ同じ)で労働の悲哀を歌う」というフォーマットは、編曲において何だかの影響を及ぼしたのではないかと感じてしまう。
コミカルな言葉選びとMVで悲哀を相殺する演出
2曲に共通するのはそれだけではない。
ただただ悲哀を歌うだけでなく、ポップでコミカルな言葉選びが、状況をおもしろく見せるポイントになっている。
「大迷惑」は出だしでいきなり”町のはずれでシュヴィドゥヴァー”という謎のスキャットが入る。他にも”怪しい係長””ボインの誘惑”など、悲哀とは対照的な脱力したコメディ要素が強い言葉が並ぶ。
「クライアント」も”君は定時で帰るんるんるん”や”全部没で持ち帰りテイクアウト”、”横文字ばかりそれは何語”など同様のテイストの言葉選びが目立つ。
さらにミュージックビデオの構成まで手を伸ばしてみる。
ここは「詳細な構成の類似点」というよりは、全体のテーマとしての「悲哀とのギャップ」として纏めるべきだろう。
「大迷惑」はユニコーンのメンバーがオーケストラに混じって演奏しながら、奥田民生が縦横無尽に暴れるという、「サラリーマンの悲哀」というテーマからはあえてかけ離れた、楽曲の構成・特徴だけを抽出してフォーカスしたような演出になっている。
一方「クライアント」は「ブラック企業(?)に勤めるサラリーマン・西田を助けるオフィスの妖精・ラフラフ」のようなテーマで、リアリティとファンタジーをごちゃまぜにしたカオスな状況は、悲哀というより完全にコメディの域になっている。
結論
労働の理不尽を題材にしながら、オーケストラ的な壮大さと疾走感で“ミュージカル風のドタバタ”に転換する文法。悲哀を悲哀としてそのまま届けるのではなく、情報量の多い展開とコミカルな言語で笑いに変える設計が、オマージュとして聴こえる原因なのだと考える。
付記:「オマージュ」は音楽を豊かにする手法
オマージュ、というと、すぐパクリだなんだという議論が出てくることがあるが、個人的にオマージュは音楽を豊かにする手法として捉えている。
こちらも好きなYouTubeチャンネルである「ROCK FUJIYAMA」でROLLY(ローリー寺西と呼んだ方がしっくりくるのだが)率いる「すかんち」の曲をJ-POPに精通した音楽博士Dr.Capitalと紐解いている回なのだが、様々な洋楽バンドの要素を詰め込んだROLLYの手法に対してDr.Capitalは「2つ混ぜるだけでもオリジナル」「『パクり』や『誰かの真似』というのを気にしすぎる人もいるけど、それがアートなんだから」と論じている。
世の中にこれだけ多様な音楽が溢れる中、完全に新しいメロディーやフレーズを生み出すことは難しい。ありふれたメロディーやギターリフでも、それをアレンジすることで新たな展開を生み出すことができるのが音楽であり、そうやって音楽のバリエーションは豊かになってきた。
「クライアント」と「大迷惑」については、メロディーやフレーズの近しさはそこまで無いが、「表現の文脈」という大きな括りで「オマージュ」と捉えた。それだって立派な「音楽の発展性」だと思うし、時代に埋もれていきそうな表現にもう一度光を当てることは「音楽の連続性」だと考える。
たとえ作り手がそれらを意図していなかったとしても、そうやって音楽の歴史は紡がれてきたし、これからも続いていくだろう。
個人的に「クライアント」の好きなポイント
ここまでは分析的な内容だったが、ここからは分析でも考察でもない、ただただ「私がクライアントの何が好きか」を語るだけのパートになる。
アイドルにはまっているおっさんの気持ち悪い話など聞きたくない人は、ここまでで切り上げていただけると気分を害さずに済むと思います。
曲調と歌詞に加え、広い音域や前述の通りコロコロと変わる展開がラフラフらしいコミカルさ・ワチャワチャ感を出しながら、想像以上にテクニカルに纏められていると感じる。
ダンスもダイアルやポジション移動のせわしない感じや、コントを感じさせる演技に近い振り付け(Bメロの”いつまでたっても~""不景気なもので~"の動きが特に好き)など、大喜利やセリフのような直接的な「笑い」ではなく、全体の構成として「おもしろい」を表現している。
お菓子メーカー(明治)とのタイアップということもあり、チョコレートやビスケットを連想させるブラウンやキャメルを基調とした制服系衣装もかなりポイントが高い。自分がSKE48を通ってきたのもあって、昔のSKEっぽさも感じるし、さくら学院にもベージュのブレザー衣装があったが(情報が総じて古い)、「クライアント」は制服の中でも銀行員感も少し感じるちょっと大人なテイストになっている。
楽曲のワチャワチャ感に対して衣装がやや落ち着いているようにも見えるが、歌っている内容が「労働の悲哀」なので、同じ制服でも学生感を出すよりもう少し上の年齢層の雰囲気を取り入れているのかもしれない。
MVの好きな箇所を書き出していたら、YouTubeのコメント欄並みの細かさになってしまった。これを一人で書いたと思うと、アイドル界隈に多少耐性があると思っている方でも進んで接種しないことをお勧めする。
一つだけ言えることは、「クライアント」MVについては完全にふーなぐみ(佐々木楓菜推し)であり、下記の秒数を取るためにYouTubeのMVで一時停止→再生を繰り返したことで、より一層はまってしまった。クドいようだが、自認としては「箱推し」である。
「クライアントって大迷惑っぽいよね、だから好き」の22文字で終わるところを長々と書いてしまった。本当は新曲の紹介もしたいのだけど、どうしても「クライアント」について書いてからでないと前に進めそうにないので、時期外れと思いながらもとにかく書ききってみた。
こんな感じで他の曲についても紹介していきたいのだが、冒頭にも書いたように、同じテンションで全曲辿り着けるかわからないけど、ある程度まとまったところで次の曲に取り掛かりたい。
「クライアント」も収録された1stアルバム「わたしファンファーレ」。
これからラフラフを知りたい人には過去楽曲も含め全23曲(2枚組)収録のTYPE-Bがおすすめです。
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