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映画 《パリの小さなオーケストラ》 の鑑賞手引き〜女性指揮者とチェリビダッケ、それぞれの眼差し〜


先日、天使くーちゃん様のおすすめで、クラシック音楽映画 《パリの小さなオーケストラ》を観たところ、とても面白かったので、紹介記事を書いてみたくなりました。

まだ本作品を観ていない人を対象に、見どころや、知っているとより深く楽しめる事前知識などを、できるだけネタバレにならないよう気をつけながら、まとめたいと思います。

🎧 映画のあらすじ

この映画は、パリ郊外のアルジェリア系移民の少女ザイアが、指揮者という夢に向かって、さまざまな試練にぶつかりながら邁進する成長の物語です。実在の女性指揮者の若き日の実話がベースになっているのですが、まずは以下が映画のトレーラーとなります。

🎼 主人公に立ちはだかる厚い壁

指揮者になることを夢見るザイアは、高校三年生の年にパリの名門音楽院に編入します。しかし、そこで彼女を待ち受けていたのは冷酷な現実でした。

男子生徒たちからは田舎者と嘲笑され、学校の上層部からも女性であることを理由に軽んじられます。ザイアの前には、女性・移民・貧富の差という三重の壁が立ちはだかるのです。

そんな中、伝説的な指揮者セルジュ・チェリビダッケが特別授業に現れたことで、彼女に転機が訪れます。チェリビダッケはザイアのひたむきな情熱と才能を認めて、彼女を弟子として指導し始めるのでした。

🎼 主人公を取り巻く面々

この映画は、オーケストラのメンバーなど登場人物が多いのですが、その中でも重要な役割を果たす、主要なキャラクターを以下にまとめました。

フェットゥマ:
ザイアの双子の妹。チェロ奏者として自身の夢を追いながら、姉をサポートする。姉と共に、自分たちのオーケストラを立ち上げる。
ザイアの両親:
ザイアとフェットゥマの夢を強力に後押しする。ザイアを常に肯定し続ける存在。
ランベール:
指揮科でザイアと競う裕福なエリート学生。 ザイアを見下し、絶えず攻撃する、古いクラシック界の壁を象徴するようなキャラクター。
ディラン:
ピアノとクラリネットを操る、ザイアに協力的な男子生徒。 ザイアのため、ピアノ伴奏で指揮者コンクールへの挑戦を支える友人。
チェリビダッケ:
カリスマ指揮者
であり、ザイアを導く存在。音楽的な要求のハードルは高く、時にザイアの前に岩のように立ちはだかる。

多士済々の顔触れに囲まれながら尽きない試練に立ち向かうザイアですが、旧態依然としたクラシック界の中で、そう簡単に華々しく前進することもできません。そんな中、ザイアは名門音楽院と地元の音楽院の生徒を集めて、自らが求める音を奏でるオーケストラ"Divertimento"を結成します。はたして彼女たちは、どのようなハーモニーを奏でるのでしょうか。

🎼 より楽しむための事前知識

物語の展開を追いすぎるのは、この記事の趣旨に反しますので、ここで、この映画を見る際に知っておくとよい、事前知識を取りまとめたいと思います。

セーヌ=サン=ドニ:
ザイアが家族と共に暮らすパリ北東の郊外。貧困や治安への偏見が根強い地域。 一方で多様な文化と熱気が渦巻き、彼女が立ち上げるオーケストラの原動力となる。
リセ・ラシーヌ音楽院:
パリの中心部に位置し、プロを目指す富裕層のエリート学生が集う名門音楽教育機関。ザイアが通った名門校のモデル。古い因習や階級意識も根強い。
ブザンソン国際指揮者コンクール:
ザイアが挑む世界最高峰の若手指揮者の登竜門。日本人指揮者では、小澤征爾沖澤のどかが優勝した。
セルジュ・チェリビダッケ:
録音を嫌い、独自の哲学でオーケストラを支配した、20世紀クラシック界における孤高の巨匠。時に、商業的な成功をおさめたカラヤンに対するアンチ・テーゼとして引用されることもある。

🎼 原題《Divertimento》に込められたメッセージ

この映画の原題《Divertimento》は、イタリア語で「楽しみ」「気晴らし」を意味し、音楽用語としては、「嬉遊曲」と訳されます。

交響曲や協奏曲はなく、嬉遊曲(ディヴェルティメント)のような自由を。 ザイアが目指したのは、誰もが音を楽しむためのオーケストラだったのかもしれません。

この映画は、ハリウッド映画のように、いたずらに風呂敷を広げるようなサクセス・ストーリーが展開されるわけではありません。むしろ、分断された世界でもがく、一人の女性の迷いや苦しみ、理不尽な格闘が赤裸々に描かれています。

《Divertimento》には、そんな中でザイアが理想とした、楽しむことの復権、等身大の音の美しさという願いが込められているのではないでしょうか。

🎧 劇中楽曲

本映画は、クラシック音楽でもとりわけ名曲とされている曲が散りばめられていますが、普段、あまりクラシック音楽を聞かない、という方のために、事前に聞いておいた方が良さそうな曲を、以下にまとめました。

🎼 無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007/バッハ

バッハ作曲の屈指のチェロの名曲。この映画では、チェロ奏者である双子の妹フェットゥマが演奏します。

🎼 『ロメオとジュリエット』作品64「騎士たちの踊り」/プロコフィエフ

重厚でどこか不気味さの漂う旋律。 モンタギュー家とキャピュレット家の対立のしらべは、この映画で描かれる分断と、そのまま呼応します。

🎼 『サムソンとデリラ』 作品47「バッカナール」/サン=サーンス

異国情緒あふれる野生的なリズムが、抑圧されながらも前進しようとするザイアと、彼女を取り囲む若者たちのエネルギーを象徴します。

🎧 女性指揮者の現在地

映画では、女性指揮者が指揮者の6%しかいないことが強調されていましたが、(個人的には)事実はもう少し明るく、女性指揮者を取り巻く環境も変わりつつあるように思われます。

米国生まれのメキシコ人指揮者、アロンドラ・デ・ラ・パーラは、成功した女性指揮者の象徴とも言える存在。こちらは、そんな彼女による、この映画の重要曲《ボレロ》の演奏です。

🎧 パリが持つもう一つの顔

映画 《パリの小さなオーケストラ》では、移民の少女ザイアに対する差別が、印象的に描かれていました。その一方でフランス、とりわけパリは、傑出した異国の才能を受容してきた歴史も持っています。例えば、美術史においてエコール・ド・パリと呼ばれた時代には、パリに集ったボヘミアン的な芸術家の中に、日本のレオナール・フジタ(藤田嗣治)のようなマイノリティも存在しました。

ロシア出身のユダヤ系であるマルク・シャガールも、通常であれば、差別や排斥を受けやすい立場でした。名門リセ・ラシーヌ音楽院の隣の区にあるパリ・オペラ座には、そんなマルク・シャガールの天井画『夢の花束』が描かれています。

マルク・シャガールの作品に関しては、天使くーちゃん様の記事で詳しく紹介されています。ぜひご覧ください。


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