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『パラサイト 半地下の家族』 今更レビュー|お鍋はほんだし、映画はポン・ジュノ⑦

今や韓国映画界を支えるどころか、英語以外の作品で初めてアカデミー賞作品賞を獲得した『パラサイト 半地下の家族』で世界に名を轟かせたポン・ジュノ監督。

サスペンスから怪獣映画まで、そのレパートリーの広さには驚かされる。およそ韓流ドラマとは縁遠い作品ばかりだが、そんなポン・ジュノの監督作品を一気に今更レビュー。

『パラサイト 半地下の家族』
 기생충

公開:2019 年  監督:ポン・ジュノ
時間:132分  製作国:韓国
勝手に評点:★★★★☆4.0

©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

カンヌのパルムドール受賞から、アカデミー賞では外国語映画として史上初となる作品賞の受賞と、堂々の輝かしい実績をぶち上げた作品。ポン・ジュノ監督のあの独特のシニカルな作風が、ここまで世界的に認められたかと嬉しく思う。

半地下に暮らす貧しいキム一家の物語であるが、『万引き家族』のような悲壮感や危うさはなく(あちらは疑似家族だけれど)、家族団結してたくましく生き抜いている様子が窺える。

窓を開ければ、路上で散布される消毒剤が入り、ただ乗りしているWi-Fiも、電波が弱くて使えない。水圧が低いから便器が家の一番高い位置に鎮座している。

©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

半地下というのは、古くはオードリー・ヘップバーンの『暗くなるまで待って』にも登場する、何とも映画的な構造だと思うが、それを本作では貧しく荒んだ生活にうまく溶け込ませており、またストーリーにおいても、この<地の利>が生きている。

そして、まさに陰と陽として、これと対照的に陽光を浴びる高台にそびえるパク家の豪華大邸宅。元は建築家の住んでいた家であり、その構造も目を引く。

キム家の長男ギウ(チェ・ウシク)がパク家の娘の家庭教師になり、長女ギジョン(パク・ソダム)も、兄の策略で豪邸に足を踏み入れることになる。こうして、二つの家族が交錯していく。

高台の屋敷と下町の貧民窟。まるで黒澤監督の『天国と地獄』のような対比構造であるが、そこにあるのは<対立>ではなく、タイトル通りの<寄生>。

©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

ポン・ジュノ監督のヒット作『グエムル-漢江の怪物-』は、英語圏のタイトルが『The Host』、即ち<宿主>。そのせいか、欧米では今回の<寄生>という映画にも当然、モンスターが出てくると誤解されたようだ。

本作では半地下と豪邸の舞台設定ゆえ、映画は全編縦の動き、つまり、階段の昇り降りが基本動作になっている。家の中に限らず、パク家の高級住宅地も、キム家の近所の集落も、カットに登場するのは坂道だ。

「ドラマって、いつも横に動いてる。人間が縦になるドラマはないの?」
かつて萩本欽一はそこから『Oh!階段家族!!』というTVドラマを作った。ポン・ジュノが欽ちゃんを押さえているかは、知る由もない。

兄ギウが巧く家庭教師としてパク家に入り込み、妹ギジョンも家に引き込むあたりまでは普通の流れ。その後、ギジョンが「ベンツにパンツ」作戦で元の運転手を解雇させ、父ギテク(ソン・ガンホ)をパク社長(イ・ソンギュン)の運転手として雇わせる。

次には家政婦ムングァン(イ・ジョンウン)の桃アレルギーを悪用し結核の疑いで解雇させ、母チュンスク(チャン・ヘジン)を雇わせる。

これで一家全員パク家に入り込み、寄生計画ミッションクリアだ。桃による細工などは、まるで『ミッション:インポッシブル』のようだ。ここまでは大いに笑える展開。

©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

ところが、キャンプにいったパク家のいぬ間に大邸宅で羽を伸ばすキム家を、解雇された家政婦ムングァンが訪ねてきて、地下室に何年も暮らす夫グンセ(パク・ミョンフン)を救出するところから、事態は急転する。もはや、素直には笑っていられない状況。

寄生の実態に気づき証拠動画を押さえたムングァン夫婦と、キム家、そして大雨で急遽帰宅のパク家。まさに地上・地下・半地下の陣地取り合戦の様相になってくるのだ。

大雨という設定の効用も大きい。もともとポン・ジュノ監督作品では『殺人の追憶』から既に雨は不吉の象徴といえる。本作では大雨により、キャンプが中止になりパク家は戻り、半地下の住処は床上浸水し、キム家は体育館に避難する事態に発展する。そう、雨は上から下へ流れてくる象徴的なものだ。

©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

下町地域の被害をよそに、翌朝の晴天で、すぐに誕生日パーティを思い立つパク家の妻ヨンギョ(チョ・ヨジョン)の能天気ぶりも際立つ。

それにしても、半地下という設定は面白い。映画では中盤から、建築家が対北朝鮮用シェルターとして作った地下室が登場する。これで半地下の家族たちには、地上に上がっていくほかに、さらに落ちていく選択肢も加わることになる。

上昇志向の兄ギウは、パク家に婿入りしたら、この上流社会の人々と馴染めるかを心配するくらいだし、山水景石で地下室の二人を始末しようというのだから、地上入りを目指しているのだろう。

かたや、妹ギジョンは、浸水した家に戻ってもタバコくらいしか気にするものはなく、また地下室の二人に食料を持っていく気遣いをみせるなど、半地下暮らしで満足している風だ。

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ギテクはどうだ。冒頭のただ乗りWi-Fiにパスワードがかかり、カカオトークが使えなくなった妻チュンスクが「計画はあるのか」と夫に詰め寄るところで、すでにギテクは計画を持たない主義であることが示されている。

彼の身上は、「計画がなければ、予定通りいかなくても問題ない」。<無知の知>ならぬ<無計画の計画>だ。

計画はなかったが、誕生日パーティで地下から現れたグンセに刺された息子や娘を前に動転したギテク。妻チュンスクがバーベキューでどうにか串刺しにしたグンセだったが、そのあまりの臭さに顔をしかめ鼻をつまんだパク・ドンイク社長(イ・ソンギュン)。

©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

社長は、日ごろからあんなにこだわっていた<一線を越えない節度>を、自ら破ってしまったのだ。

暮らしぶりは違っても、同じ人間であり、家族もいれば、感情もある。そこを踏み越えて人間としての尊厳を傷つけた社長を、ギテクは許せず、衝動的に刺殺してしまう。

中盤、地下室から居間の電燈をモールス信号のように点滅させ、グンセは社長にメッセージを送っていた。凶行後にその地下室に潜んだギテクもまた、同じ手段で息子にメッセージを送る。

映画とモールス信号というのは割と相性がいいのだろう。たまに見かける組み合わせだが、本作のように電燈が点滅するのは絵的にも印象深い。

臭さに鼻をつまんだだけで刺殺される社長も気の毒だが、半地下から更に階段を降りる人生を続けなければならないギテクに、明るい庭で息子と抱擁する日は訪れるだろうか。

ラストは、冒頭と同様に、半地下の窓からカメラが下りていくと、父を思うギウの姿がある。格差社会の根は深く、何とも切ない幕切れだ。

ほえる犬は噛まない(2000)
殺人の追憶(2003)
グエムル-漢江の怪物-(2006)
母なる証明(2009)
スノーピアサー(2013)
オクジャ/okja(2017)
パラサイト 半地下の家族(2019)
ミッキー17(2025)

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