『ミッキー17』 今更レビュー|お鍋はほんだし、映画はポン・ジュノ⑧
今や韓国映画界を支えるどころか、英語以外の作品で初めてアカデミー賞作品賞を獲得した『パラサイト 半地下の家族』で世界に名を轟かせたポン・ジュノ監督。
サスペンスから怪獣映画まで、そのレパートリーの広さには驚かされる。およそ韓流ドラマとは縁遠い作品ばかりだが、そんなポン・ジュノの監督作品を一気に今更レビュー。
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『ミッキー17』
Mickey 17
公開:2025年 監督:ポン・ジュノ
時間:137分 製作国:アメリカ
勝手に評点:★★★★☆4.0

オスカーを獲った『パラサイト 半地下の家族』(2019)以来のポン・ジュノ監督の新作。
ハリウッドとの共同制作は『スノーピアサー』(2013)、『オクジャokja』(2017)と、これまであまり彼らしさが感じられない作品が続いていただけに期待と不安半々だった。
だが今回はポン・ジュノの魅力が存分に詰まったシニカルなSFコメディ。大いに楽しませてもらった!
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『ミッキー17』が、何度も殺されては生まれ変わった17番目のミッキーであることは、劇場予告から想像できた(エドワード・アシュトンの原作では7番目のようだが)。
でも主演のロバート・パティンソンが戦闘服を着ているように見えたので、トム・クルーズの『オール・ユー・ニード・イズ・キル』みたいに、何度も戦死する話なのかと思ったが、良い意味で裏切られた。

主人公ミッキーは、何度も死んでは生まれ変わるエクスペンダブルズ(スタローンたちマッチョ軍団じゃないよ)となる契約に迂闊にもサインをしてしまい、植民惑星に向かう宇宙船に乗るのだ。
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クローン技術のようだが微妙に違うのは、MRIのような形状の3Dプリンターからリプリントされること。この設定がクローン以上に主人公を憐れな消耗品に見せる。
借金取りに追われて困った挙句に逃げ込んだ宇宙船で更に絶望の淵に立たされる話って、『エイリアン・ロムルス』かよ。
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移民船のプラチナチケットを得るためにエクスペンダブルズ契約してしまったミッキー。

放射線下の作業や危険な惑星の大気で人間が生きるためのワクチン精製の治験、その他、ありとあらゆる危険作業に従事させられ、気が付けば17回も再印刷で生まれ変わっている。
そして映画の冒頭、宇宙船が到達した植民惑星で、氷上に棲息する巨大生物に殺されそうになる。次はミッキー18が印刷されるはずだったが、ここで勝手が狂う。
再生可能ゆえに人権はなく、人間のために何度も犠牲になっては生まれ変わる運命の者たちの悲哀。『ブレードランナー』のレプリカントや、『わたしを離さないで』の臓器提供用クローン、『月に囚われた男』の過酷環境作業用クローンにも通底する。
題材としては古くからあるが、それをテリー・ギリアムばりのシニカルなコメディタッチで見せるところは新鮮だ。
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全てのミッキーを演じるロバート・パティンソンは、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』から『TENETテネット』、そして『THE BATMAN-ザ・バットマン-』と、てっきり二枚目ヒーロー路線の俳優かと思っていた。
だが、『ライトハウス』の怪演でも思ったが、意外とこういうしょぼい役の方が似合う。
宇宙船の警備隊長でミッキーの恋人ナーシャ役には『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』でホイットニーを演じたナオミ・アッキー。
ミッキーを借金生活に誘い込んだ悪友のティモ役には『ミナリ』のスティーヴン・ユァン。『オクジャokja』に続くポン・ジュノ作品。
ノアの方舟のような植民惑星移民計画を進める落選議員のケネス・マーシャルには、マーク・ラファロ。『哀れなるものたち』の時のような傲慢で間抜けな権力者キャラ。
そして妻で美食家のイルファ役には『陪審員2番』のトニ・コレット。まるでディズニーの魔女のようなキャラは、やや演技過剰気味。
セクシー系な宇宙船員のカイ役にアナマリア・ヴァルトロメイって、『あのこと』の主演女優だ。同作が金獅子賞を獲ったベネチア国際映画祭の審査員長はポン・ジュノだったもんな。
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さて、なぜか巨大生物に殺されずに生き延びたミッキー17が宇宙船に戻ると、そこにはミッキー18が印刷されていた。
マルチプル(複製)は重大な倫理規則違反であり、見つかれば双方抹殺となる。窮地に立たされたミッキーだが、ここからエクスペンダブルズの反撃が始まる。
同じ記憶を共有しながらも性格が真逆のミッキー17と18の共同戦線という設定も、マルチプルの登場に動揺するどころか、カレシが二人に増えたわと喜ぶ恋人ナーシャとか、シリアスなドラマと笑いのバランスも絶妙。
氷の世界を舞台にして、抑圧され搾取されてきた主人公たちが、閉鎖空間で過剰演技するラスボスや魔女キャラと戦う。
ミッキー17と18は当然ながらそっくりなので、片方の頬にはマーシャルに焼きを入れられてしまうのだが、その前は恋人ナーシャが裸の胸に17と18とルージュで伝言じゃなくてナンバリングする。

まるで村上春樹の『1973年のピンボール』で双子の女の子が着てた番号入りのTシャツじゃないか。そういえば、スティーヴン・ユァンは村上春樹の『バーニング』にも出てたし、意識したのかも。
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ミッキーを襲ったと思われ、実は気の優しい生物は巨大なダンゴムシのような連中で、その姿はどうみても『風の谷のナウシカ』の王蟲だ。
生け捕りにしたその幼虫をマーシャルたちがなぶり殺しにして、先住民である王蟲たちに先制攻撃を仕掛けようとする。王蟲の側に立って交渉するミッキー。『オクジャokja』 が『トトロ』なら、今度はまんま『ナウシカ』展開だ。
「ごめんね。許してなんて言えないよね。ひどすぎるよね」と、つい呟きたくなる。

人間コピーの技術は倫理的な問題があることから世界で使用が禁止されるが、地球外環境でのエクスペンダブルズとしての使用許可を、マーシャルが強引に取り付ける。
社会で搾取される弱者や法的に認められないものが地球外に逃げざるを得ない環境は、男と女のほか性別を認めないと強行するどこかの国のように、政治的な風刺を思わせる。
とはいえ、あくまで本作はエンタメ路線。『グエムル-漢江の怪物-』の頃の、邦画では考えられないような冷徹な展開に比べれば、随分ポン・ジュノも人間が丸くなったものだ。
マイルド風味のミッキー17とハバネロ風味のミッキー18に、きちんと見せ場が与えられているのは嬉しい。
①ほえる犬は噛まない(2000)
②殺人の追憶(2003)
③グエムル-漢江の怪物-(2006)
④母なる証明(2009)
⑤スノーピアサー(2013)
⑥オクジャ/okja(2017)
⑦パラサイト 半地下の家族(2019)
⑧ミッキー17(2025)
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