【読書】MMT講義ノート:貨幣の起源、主権国家の原点とは何か その3
出版情報
タイトル:MMT講義ノート:貨幣の起源、主権国家の原点とは何か
著者:島倉 原
出版社 : 白水社
発売日 : 2022/6/1
単行本(ソフトカバー) : 268ページ
大学の講義がコンパクトに
著者 島倉 原はクレディセゾンのアナリストだ。そして官僚であり言論人でもある中野剛志と組んでMMTに関する本をいくつか上梓している。その島倉による早稲田大学での講義を書籍にまとめたのが本書だ。MMTを理解するのに適切な本だと思う。これからの日本を担う若者が学ぶのにふさわしく、六章あるうちの最後の二章は日本の現状と日本のこれからについて書かれている。
本記事は、本書 MMT講義ノートを紹介する一連の記事のうちその3である。第四章 政府は何をなすべきかーーMMTの経済政策論 の一部、MMTの特徴である就業保障プログラムを除いた部分について紹介していく。
MMTの真の特徴は機能的財政にある。機能的財政で行えることは就業保障プログラム以外にも無数にある。そのため本記事では就業保障プログラムの部分を省いた。ご関心のある方はぜひ本書を直接当たってください。わかりやすく解説しています。
本書の内容は潤沢で読みやすい。ご興味のある方はぜひ本書 MMT講義ノートに直接当たってください。
この記事は、まずは自分のためのまとめである。ご了承ください。
目次を貼るのでご希望の場所に飛んでください。
政府は何をなすべきかーーMMTの経済政策論
本書 MMT講義ノートでは、MMTの租税政策論、機能的財政論、就業保障プログラムの3つに分けて、MMTの経済政策論を説明している。上でも述べたように本記事では就業保障プログラムを除いた、MMTの租税政策論と機能的財政論について紹介する。MMTを考え方のベースにすることで取りうる機能的財政政策には就業保障プログラム以外にも無限に可能性があるからだ。
MMTの租税政策論
「MMT=無税国家論」という誤解
記事【読書】MMT講義ノート その2で説明したように、MMTに特徴的な言説である、
(1) 自国通過建て国債を発行する政府は財政破綻しない。
(2)税は財源ではなく、国債は資金調達手段ではない。
が正しいことが確認できた。
ということは、「じゃ、税金なんて徴収する必要ないんじゃね?だって、政府はいくらでも国債を発行して、日銀に買い取って貰えばいいんだから。無限にお金が発行できるじゃん!!」と結論づけたくなるかもしれない。
ところが、そうはいかないのである。
一つは供給能力以上に通貨を発行しても、それはインフレを引き起こすだけだということ。もう一つには、【読書】MMT講義ノート その1で説明したように、そもそも貨幣の流通には「その通貨で税金を納める」という動機づけが必要なのだ。【読書】MMT講義ノート その1のモズラーの名刺を思い出してほしい。これを「租税が貨幣を動かす」というp110。
租税は実物資源を動員する手段
では、なぜ租税によって貨幣を動かす必要があるのだろうか?それは「政府部門に資源を動かす」ためだp110。
納税義務を負った国民は、通貨を手に入れるため、労働力、天然資源、生産物といった実物的な経済資源を政府に売却しようとします。すると政府は通貨を支出することで、そうした実物資源を購入あるいは「動員」することができます。
モズラーパパも、名刺を集める、すなわち課税することで、子どもたちから「お手伝い」という労働資源を「動員」した。子どもたちには「お手伝い」をするたびに名刺が支払われる。それを集めるように仕向けて「納税」させた、というわけだ。
どれだけ課税することが適切か
どれだけ課税することが適切か。それは、政府が動員したい実物資源の量によって変わってくる。
課税が少ないと、通貨に対する国民の需要が不足する場合がある。つまり「実物資源を政府に売却しよう」という意欲が盛り上がらず、政府は十分に資源を動員することができないp111。
政府が実物資源を十分に動員できない場合には、通貨主権国であれば、「民間からの売却を促すために購入価格を引き上げる、つまり通貨の支出額を上げる」ことが考えられる。「政府が高く買うから政府に売って!?」というわけである。だが、そこには限度がある。通貨の供給を過剰にすると、過剰なインフレをもたらすだけかもしれない。すると、「動員できない実物資源が増えないばかりか、価値貯蓄手段としての通貨の信任が低下し、結果として政府に対する実物資源の売却意欲がより一層低下する可能性もある」p111。
通貨の支出能力には制約のない通貨主権国の政府にも、実物資源の動員能力に対する制約は常に存在するのです。それを無視してさらに過剰な支出拡大を行えば、人々が取引手段として外貨など別の貨幣を用いるようになり、政府は通貨の支出能力を制約させるようになるかもしれません。
政府が動員したい資源の価格を引き上げても十分な動員を確保できない場合は、増税が有効な手段となる。「増税には、通貨に対する需要を引き上げて、政府に対する実物資源の売却を促進する効果」があるp111。
他方、行き過ぎた増税に対して、著者 島倉は警鐘を鳴らす。
行き過ぎた増税が、長期的な実質資源の動員能力を低下させる可能性があることには注意が必要です。なぜなら、増税は非政府部門の購買力すなわち有効需要を低下させることによって国内における企業の利益獲得機会を奪うため、国内市場向けに生産能力を増強しようという企業の投資意欲を妨げ、政府が将来動員できる実物資源をその分制約するからです。
租税が達成すべき4つの目的
『MMT入門』では、1940年代にニューヨーク連銀議長を務めたビアズリー・ラムル氏の論文に基づいて4つの目的を挙げているp112-p113。
(1) 通貨の購買力の安定させる
総需要を引き下げてインフレを抑制し、支払い手段として通貨の流通力を確保する。
(2) 所得と富の分配を変える
累進所得課税や相続税によって、富裕層により多く課税し、所得と富の不平等を減らす。
累進課税は景気拡大期には急増し、景気後退時期には落ち込むことで、経済や通貨価値を安定させる「自動安定装置」の効果もある。
(3) 望ましくない行動を抑止する
「悪行税」とも呼ばれる。環境税、タバコ税、酒税、輸入品の購入を抑止する関税などがある。
(4)特定の公共事業のコストを 受益者に割り当てる
ガソリン税(高速道路建設費と言われている)、高速道路の通行料など。
これらは高速道路建設の「財源」ではなく、高速道路利用のコストを上げることによって、潜在的利用者が建設を支持するかどうか慎重に判断することを促すためのものと言われている。
望ましくない3つの税
『MMT入門』では先のラムル氏の論文を論拠として、3つの悪い税を挙げているp114-p115。
(1) 社会保障税
将来の年金支払いに備えた基金に充当するため、雇用主と従業員が折半で支払う。日本では「公的年金保険料」と呼ばれている。
国内での雇用コストを増大させ賃下げやロボットの使用を促す。
不法就労を助長する。
利子・配当・家賃といった非賃金所得と比べて賃金所得を得ることを相対的に不利にする。労働意欲を抑制する。
上記のことを踏まえると労使双方にとって国内の就労水準を低下させる動機となる。
(2) 消費税
モノやサービスの販売価格に対して課される。
国民の購買力を引き下げる。
逆累進課税となる。低所得者は所得に対する消費の割合が高いからである。
所得税と比べて「自動安定装置」としての効果に乏しい。(ザイム省は逆に安定財源とかいってる!オカシイんでないかい?)
贅沢品に課税する課税や食料品に対する免税は評価できる。
(3) 法人税
賛否両方あり。
法人税への否定的な見方
MMTの提唱者ランダル・レイも、その師匠である経済学者ハイマン・ミンスキーも法人税を否定的に見ている。
かなりの部分が製品価格(価格上昇)や賃金(賃下げ)に転嫁される。従業員や消費者への負担増となる。
過剰債務の蓄積と法人税の安い海外移転を促す。
借入は利息を損金処理できる。法人が海外に移転すれば就業環境が悪化する。
MMTでは法人税の代わりに、株主に転嫁する方法を提案している。法人の所得に応じて、株主に帰属させ、株主の個人所得と合算して累進所得税を課すことを提唱している。なかなか斬新だ!(著者 島倉は否定的に見てはいるがp117)
法人税への肯定的な見方
本書の著者 島倉は法人税を肯定的に見ている。
シェアを維持・拡大するために法人税を賃金や価格に転嫁せず、規模の利益で回収するなどの選択肢もある。
法人税は自動安定装置としての効果が高い。景気拡大期には税収が大幅に増加し、景気後退期には逆に大幅に減税するので。
日本では法人税が高いことを理由に海外進出を決める企業は少ないp117(経済産業省の海外事業活動基本調査より。2017年度までの統計)。
日本人にとって、消費税が悪い税であることには納得である。著者 島倉は法人税は累進課税と同様に経済や価格の自動安定化装置として効果的であると、逆に評価している。
機能的財政論
機能的財政論は1943年に発表されたラーナーの論文「機能的財政と連邦債務」の中で提唱されているp122。
機能的という表現には、財政政策の是非は収支ではなく、それが経済にもたらす「効果」によってのみ判断されるべきである、という主張が込められています。それは、「政府はとにかく収支予算を均衡させるべきであり、そうすることが「健全」である」という主流派経済学の均衡財政主義を否定する、いわばアンチテーゼとしての表現でもあります。
財政収支の均衡(プライマリーバランス)ではなく、経済にもたらす「効果」によって経済政策の是非を判断する。イイっすね!これぞザイム真理教からの脱却っす!!
ラーナーが唱える機能的財政政策の実行ルールは2つあるというp122。
(1) 政府には「国全体のモノやサービスに対する総支出額を、最大可能な総生産量を現在価格で購入した場合の水準にする」責任がある。
(2) 「政府は、国民が貨幣の保有量を減らし、国債の保有量を増やすのが望ましい場合のみ、借入を行うべきである」(ラーナーの論文より)。
なんか呪文みたいだよね。ざっくり簡略化して、まとめてみる。(1)は経済が健全であるとはどういうことか、という指標に関することであり、(2)は国債は資金調達手段ではない(国債を民間銀行に売却することは資金調達手段ではない)ことを述べている。以前本書 第三章で言及している通り国債売買は非政府部門の通貨量の調整手段なのだ(記事【読書】MMT講義ノート その2 第三章を中心に参照のこと)。
上でラーナーが唱える2つの機能的財政政策の実行ルールをわかりやすく書き換えると、
(1)’ 政府は経済を健全に保つ責任がある。
プライマリー・バランスを保つ責任ではない。
(2)’ 政府が民間銀行に国債を売却するのは、非政府部門の通貨量を減らしたい場合である。
政府資金を調達するためではない。
となる(↑重要!!ここ試験に出るっ!!)。
経済が健全であるとは
上の(1)をもう一度書く。
政府には「国全体のモノやサービスに対する総支出額を、最大可能な総生産量を現在価格で購入した場合の水準にする」責任がある。
これは下記の図でインフレギャップとデフレギャップを適正な水準にせよ、ということと同じである。そしてこの「インフレギャップとデフレギャップを適正な水準にする」ということが経済を健全にする、ということなのだ。

上の命題の国全体のモノやサービスに対する総支出額は、支出面から見た名目GDPのことであり、三面等価の原則から、総需要と等しい(上図では赤で示されている)。
一方、上の命題で最大可能な総生産量を現在価格で購入した場合とは、本来の供給能力(潜在GDP)のことである(上図では青で示されている)。
【経済状況がデフレ(ギャップ)である場合】
図から分かる通り、潜在的な供給能力に比べて需要が足りないので、総需要を増やす必要がある。そのために財政出動して直接総支出(=総需要)を増やしたり、減税によって民間支出の増加を促したりする。(現在の日本の経済状況はコレ!!)(←超重要!!ここ試験に出るっ。聴いとるか〜ザイム省!!!)
【経済状況がインフレ(ギャップ)である場合】
こちらも図から分かる通り、潜在的な供給能力に比べて需要が膨らみすぎているので、総需要を減らす必要がある。そのために、財政支出削減をし、増税によって総支出(=総需要)を減らすようにする。
つまり、ラーナーはインフレを抑制し、デフレを改善することが、経済を健全に保つことであるし、それこそが、政府の役割なのだと、述べているのである(おーい、自民立民、聴いとるか〜!!今している増税はインフレの時にやることでデフレの時にやることじゃないぞ〜〜〜!!!)。
すっごく単純に図式化すると、経済を健全に保つために必要な要素は下記のようにまとめられる。

機能的財政政策の実行ルールより
こちらで図式化
国債の売買は非政府部門の通貨量を調整するため
「国債は資金調達手段ではない」というのは、MMTに特徴的な言説の一つだ。そして本書 第三章で見てきた通り国債売買は非政府部門の通貨量の調整手段なのだ(記事【読書】MMT講義ノート その2 第三章を中心に参照)。
「政府は、国民が貨幣の保有量を減らし、国債の保有量を増やすのが望ましい場合のみ、借入を行うべきである」
と、ラーナーは言っている。
上記で貨幣とは本書での通貨という意味であり、借入とは国債を非政府部門に売却することを指す。言い換えると、政府の都合で国債を売却するのではなく、国民が通貨の保有量を減らし、国債の保有量を増やすのが望ましい場合のみ、政府は国債を非政府部門に売却すべきである、となる。つまり、このオペレーションが指し示すのは、国民の通貨保有量の削減である。つまりインフレの場合の処方箋である。国債の売却が望ましいのは、金利が低すぎて過剰な投資、ひいてはインフレが引き起こされると懸念される時。国債の購入が望ましいのは、金利が高すぎて、投資が十分でない、つまりデフレの場合である。
「国債を民間銀行に売却するのは、政府が資金を調達するためではなく、国民から貨幣の量を減らすのが望ましい場合である。つまりインフレの時である」
国債は資金調達手段ではない、ならば、国債は何なのか?
この答えは、非政府部門における通貨量の調節、ということになる。
「国債は資金調達手段ではなく、金融政策における金利調整手段である」とMMTがいうのはラーナーの機能的財政論を論拠としているp124。
(私としては、通貨量の調整手段であることには納得しているが、金利調整手段であるかどうかはまだ腹落ちしていない。今後の課題だなぁ)。
その後、ラーナーは1947年に論文「国家の創造物としての貨幣」を発表し、わずか6ページでありながら、MMTの説明理論の骨子である表券主義(=国定信用貨幣論)から、規範的論理の骨格である機能的財政論に至る必然性が、極めて明快に表現」されており、MMTの原型をほぼ一人で作ったといっても過言ではないとのことであるp126。
変動為替相場制以外での機能的財政
MMTの主張する機能的財政論は、政府が通貨主権を有すること、すなわち変動相場制を基本としているが、固定相場制下でも当てはまらないわけではないp126。
『MMT入門』では、「開放経済のトリレンマ」という概念を用いて説明しているのだというp126。「開放経済のトリレンマ」とは、下記の通り。
以下の3つの政策は同時に実現することができず、同時に2つしか実現できない 。
・資本自由化
・固定相場制
・独立した金融政策
国際金融のトリレンマの理論的背景には「マンデルフレミングモデル」がある
図示すると、

為替相場の安定は固定相場制であり、MMTの場合は金融政策の独立性は財政政策も含めた「国内政策の独立」と読み替える必要がある。開放経済のトリレンマはMMTとは別の経済理論に基づいた言説であるというp126。しかし、上記のように読み替えさえすれば、MMTであっても開放経済のトリレンマは成り立つとのことp127。
開放経済のトリレンマによれば、国内政策の独立、すなわち機能的財政を実行しようとすれば、自由な資本移動と固定為替相場制を両立させることはできない。逆に言えば、
裏を返せば、国際的な資本移動を規制すれば、固定為替相場制、あるいは…管理変動相場制の下でも機能的財政出動を実行することは可能です。
あるいは、資本規制がそれほど厳格ではない場合でも、輸出を増やす開発政策や輸入品を国産品に置き換える輸入代替政策をはじめとした純輸出増加政策によって十分な外資準備を確保することで、固定為替相場制や管理変動相場制を維持することも考えられます。
なるほど。工夫することで、固定為替相場制であっても機能的財政出動は可能である、と。
一方で、資本規制に対するスタンスは、論者によって若干異なるとのことp128。ラーナーとランダル・レイという米国を拠点とする論者は資本移動の自由化や緩和を肯定的に捉えていて、オーストラリアを拠点とするビル・ミッチェルは資産バブルや金融危機の原因となっている投機的な金融上の資本移動は違法とされるべきだと論じているとのこと。
本書の著者 島倉は「資本移動の自由化が金融危機につながる国際収支の不均衡をもたらす」と考えられるし、「危機を増幅する特定の取引を規制することはそれなりに有効」なので、資本移動の自由化には規制をかけるべきだというビル・ミッチェルに軍配を上げている。
記事を書きながら、我ながらこなれている感がないなぁ、と思っているが、学び始めなので、今は仕方がない、ということでご了承ください。
引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。
また、文言の間違い、表現のわかりやすさなど、随時訂正しています。ご了承ください
おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために
ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。
島倉原の著作
国定信用貨幣論
クナップ
表券主義=国定信用貨幣論の生みの親です。
ランダル・レイ
MMT研究の第一人者だそうです。本書の著者 島倉原が監訳している。
ビル・ミッチェル
有料記事ですが…。
藤井聡氏との共著。
ステファニー・ケルトン
有料記事ですが…。
負債論
貨幣理解の文化人類学的アプローチ。文化人類学から見てもMMTが主流派経済学よりまともである、と言っているように見えるのだが…。
ムギタロー
いちばんコンパクトにまとまっているMMT。お手軽に理解したい人に。
インフレギャップとデフレギャップ
中野剛志:富国と強兵
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