第11回:イスラエルの北王国の滅亡の悲劇(ヨハネ6:66)
◆イスラエルの北王国・南王国の滅亡の悲劇を描くヨハネの福音書
これから何回かに分けて、ヨハネ5章~11章に描かれている「旧約の時代」の「天のイエス」について解説することにします。
この区間では、ヨハネ6:66にイスラエルの北王国の滅亡が、ヨハネ11:35に南王国の滅亡が描かれています。
ヨハネ6:66 こういうわけで、弟子たちのうちの多くの者が離れ去り、もはやイエスとともに歩もうとはしなくなった。
ヨハネ11:35 イエスは涙を流された。
「天のイエス」は北王国と南王国の滅亡を深く悲しみました。なぜ上記の2つの節が北と南の王国の滅亡を表すと言えるのか、それはイエスの南北と東西の行き来の旅路が列王記に記述されている出来事と見事に一致しているからです。
◆南北と東西を行き来するイエス
これまでの連載で、「旧約の時代」の「天のイエス」はヨハネ1章では創世記の時代にいて、またヨハネ2章では出エジプト記の時代に、そしてヨハネ3章では出エジプト記~民数記~ヨシュア記~サムエル記の時代に、さらにヨハネ4章では北王国の預言者エリヤの時代にいることを説明しました。つまりヨハネ4章以降の「天のイエス」は列王記の時代にいます(11章はエズラ記・ネヘミヤ記~マラキ書の時代)。
このヨハネ4章以降でイエスは南北と東西を行き来していますから、この位置関係から「天のイエス」がどの時代にいるかがハッキリと分かります。
・4章(北のサマリア):北の預言者エリヤの時代
・5章(南のエルサレム):エリヤ~エリシャと同時代の南王国
・6章(北のガリラヤ):北の預言者エリヤ~ホセアの時代
・7章(南のエルサレム):南の預言者イザヤの時代
・8章(南のエルサレム):預言者が殺されて不在のマナセ王の時代
・9~10章(南のエルサレム):南の預言者エレミヤの時代
・10:40~11:16(ヨルダン川の東側):バビロン捕囚の時代
・11章(ヨルダン川の西側):エルサレムへの帰還と復興の時代
イエスが北にいたのは6章までで、7章以降はずっと南方面にいます。それは、北王国がヨハネ6:66で滅亡したために存在しなくなったからです。
◆不信仰な北王国を悔い改めさせることに注力した神
前回の第10回で、ヨハネ5章の「38年も病気にかかっている人」(5節)が「使徒の時代」における「エルサレムの神殿の焼失」を表すことを説明しました。
ではヨハネ5章の「旧約の時代」については、どうでしょうか?
ヨハネ5章が列王記の南王国について書いていることは間違いありません。列王記では北王国と南王国についての記述が交互に表れます。ヨハネ4章~6章のイエスの北→南→北の移動は、このような列王記の北と南の王国についての交互の記述を反映していると考えられます。それゆえ、イエスが南にいるヨハネ5章は南王国についての章であることは明らかです。
さてしかし、ヨハネ4章のエリヤとヨハネ6章のエリシャに挟まれた5章には、列王記の南王国の記事と重なる部分が見当たりません。重なりが見えない要因として、北のエリヤ~エリシャと同時代の南王国には、有名な預言者が登場しないことが挙げられます。
この時代、神は不信仰な北王国を悔い改めさせることに注力していて、多くの預言者を召し出していました。エリヤとエリシャはその代表です。従って、この時期の南王国にはエリヤ・エリシャ級の有名な預言者が存在しませんでした。
◆「大麦のパン」で百人を満腹にしたエリシャの内の「天のイエス」
ヨハネ6章のイエスは5つの「大麦のパン」と2匹の魚で五千人を満腹にしました。
ヨハネ6:8 弟子の一人、シモン・ペテロの兄弟アンデレがイエスに言った。
9 「ここに、大麦のパン五つと、魚二匹を持っている少年がいます。でも、こんなに大勢の人々では、それが何になるでしょう。」
10 イエスは言われた。「人々を座らせなさい。」その場所には草がたくさんあったので、男たちは座った。その数はおよそ五千人であった。
11 そうして、イエスはパンを取り、感謝の祈りをささげてから、座っている人たちに分け与えられた。魚も同じようにして、彼らが望むだけ与えられた。
12 彼らが十分食べたとき、イエスは弟子たちに言われた。「一つも無駄にならないように、余ったパン切れを集めなさい。」
13 そこで彼らが集めると、大麦のパン五つを食べて余ったパン切れで、十二のかごがいっぱいになった。
そして列王記第二4章のエリシャは「大麦のパン」20個と新穀1袋で百人を満腹にしました。
列王記第二4:42 ある人がバアル・シャリシャから、初穂のパンである大麦のパン二十個と、新穀一袋を、神の人のところに持って来た。神の人は「この人たちに与えて食べさせなさい」と命じた。
43 彼の召使いは、「これだけで、どうして百人もの人に分けられるでしょうか」と言った。しかし、エリシャは言った。「この人たちに与えて食べさせなさい。主はこう言われる。『彼らは食べて残すだろう。』」
44 そこで、召使いが彼らに配ると、彼らは食べて残した。主のことばのとおりであった。
エリシャは神の霊である聖霊を受けた預言者でしたから、エリシャの内には「天のイエス」がいました。
◆滅亡に向かう北王国を憂い、苦悩する預言者ホセア
イエスが与えたパンを食べて満腹になった人々でしたが、容易にはイエスを信じようとしませんでした。
ヨハネ6:35 イエスは言われた。「わたしがいのちのパンです。わたしのもとに来る者は決して飢えることがなく、わたしを信じる者はどんなときにも、決して渇くことがありません。
36 しかし、あなたがたに言ったように、あなたがたはわたしを見たのに信じません。」
このような人々の不信仰を憂いているイエスの姿は、滅亡に向かう北王国を憂いている北王国の預言者ホセアの苦悩と重なります。
ホセア11:8 エフライムよ。わたしはどうしてあなたを引き渡すことができるだろうか。イスラエルよ。どうしてあなたを見捨てることができるだろうか。どうしてあなたをアデマのように引き渡すことができるだろうか。どうしてあなたをツェボイムのようにすることができるだろうか。わたしの心はわたしのうちで沸き返り、わたしはあわれみで胸が熱くなっている。
9 わたしは怒りを燃やして再びエフライムを滅ぼすことはしない。わたしは神であって、人ではなく、あなたがたのうちにいる聖なる者だ。わたしは町に入ることはしない。
しかし、北王国の人々の不信仰が改まることはありませんでした。それゆえ北王国は滅ぼされて、人々はアッシリアに捕囚として引かれて行きました。
列王記第二17:21 主がイスラエルをダビデの家から引き裂かれたとき、彼らはネバテの子ヤロブアムを王としたが、ヤロブアムはイスラエルを主に従わないように仕向け、そうして彼らに大きな罪を犯させた。
22 イスラエルの人々は、ヤロブアムが行ったすべての罪に歩み、それから離れなかったので、
23 主は、そのしもべであるすべての預言者を通して告げられたとおり、ついにイスラエルを御前から除かれた。こうして、イスラエルは自分の土地からアッシリアに引いて行かれた。今日もそのままである。
人々がアッシリアに引いて行かれた出来事を描いているのが、ヨハネ6:66です。
ヨハネ6:66 こういうわけで、弟子たちのうちの多くの者が離れ去り、もはやイエスとともに歩もうとはしなくなった。
続くヨハネ6:67のイエスのことば、
ヨハネ6:67 それで、イエスは十二人に、「あなたがたも離れて行きたいのですか」と言われた。
ここからは、北王国が滅亡したことへの深い悲しみが、にじみ出ています。
◆いつの世も、指導者の不信仰が国を誤った方向に導く
上記の列王記第二17:21-22に「(王の)ヤロブアムはイスラエルを主に従わないように仕向け、そうして彼らに大きな罪を犯させた。イスラエルの人々は、ヤロブアムが行ったすべての罪に歩み、それから離れなかった」と書いてある通り、ヤロブアム王の不信仰が北王国の人々を誤った方向に導きました。そうして、北王国は722年B.C.に滅亡しました。
そして125年後の597年B.C.に、今度はエルサレムの人々がバビロンへ捕囚として引かれ始め、586年B.C.に南王国は滅亡しました。これもまた、南王国の王たちの不信仰が招いたことでした。
このことは20世紀や21世紀の現代でも繰り返されていることではないでしょうか。現代においてもまた、当事国の指導者の誤った判断から戦争が始まり、国民が苦難に遭います。「天のイエス」から見れば、その国の指導者は神から離れた不信仰な者ということになるでしょう。
そして現代の戦争は、紀元前とは比較にならないほど広い範囲に困難をもたらします。2026年2月にイスラエルとアメリカがイランを攻撃したことによって始まった戦争では、ホルムズ海峡を通過する船舶の航行が滞ったことによってナフサを原料とする工業製品の不足や燃料代の高騰を招き、世界中が苦しんでいます。
指導者の不信仰によって世界の多くの人々が困難に遭う、このような状況を「天のイエス」は昔も今も深く悲しんでいます。そして私たちの一人一人もまた、多かれ少なかれ不信仰な一面があり、イエスを悲しませています。それでもなお、イエスは私たちを深く愛して下さり、愛弟子にして下さいます。
ヨハネの福音書を地動説の視座から読むことによって、私たちは時間と空間を超えたイエスの深い悲しみを理解したいと思います。と同時にイエスの莫大な愛を知り、世界が少しでも平和な方向へ向かっていくような働きができる私たちに作り変えられたく願います。
(※仕事と家族の介護で多忙なため、コメントへの返信は行いません。大変申し訳ありませんが、あらかじめご了承ください。よろしくお願い致します。)
