もう、恋などしない
もう、誰かに心を乱されるような恋などしない。
そう心に決めた夜がありました。
誰かを強く想うほど、期待し、傷つき、自分の感情を持て余してしまう。
頭を抱えたくなるような夜を重ねるくらいなら、はじめから心を閉ざして、静かに生きていくほうがずっと楽だと思っていたのです。
傷つきたくないという気持ちは、決して弱さではありません。
それは、傷ついてきた自分の心を必死に守ろうとする、健気な防御反応なのだと思います。
けれど、誰かへの恋を手放したとき、私の心には小さな空白が生まれました。
その余白にふっと舞い込んできたのは、世界がもともと持っていた鮮やかな色彩でした。
溢れるような緑の葉。
はじける水しぶきの冷たさ。
自由にはばたく鳥の羽音や、澄んだ水の中をゆらゆらと泳ぐ魚の姿。
誰かに向けられていた愛おしさというエネルギーを、私はそっと、この生きものたちや地球の自然へと注ぎ直すようになりました。
人を愛するときと同じように、自然を愛することもまた、切なくて愛おしい作業です。
失われていく美しさに心を痛めたり、自分ひとりの無力さに押しつぶされそうになったりすることもあります。
でも、今の私は知っています。
誰かを好きになることも、地球を想うことも、根底にあるのは「愛したい」という純粋な願いなのだと。
自分を守るために閉ざした心も、また誰かや何かを愛するために少しずつ開いていけばいい。
大きな恋はしなくても、目の前にある自然や、小さな命を愛おしむ選択を重ねていく。
私がこの豊かな世界を愛し続けること。
それが、私が私の未来のためにできる、一番優しくて確かな一歩なのです。
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