歴史における4レイヤー構造②
歴史の4レイヤー構造を拡張する
前回のNOTEの記事で、イベントテクニカル業界と歴史への視点をオーバーレイし、「歴史の4レイヤー構造」という思考のフレームワークの話をしました。
前回のおさらい
基本構造:歴史の「光と影」とイベントテクニカル業界
第1レイヤー:歴史の「光」:舞台上を「観劇」している、観客。演者の語る「ナラティブ」を消費する
第2レイヤー:歴史の「影」:舞台上で光を浴びる、演者。台本に書かれている「ナラティブ」を観客に語る役割。
第3レイヤー:歴史の「裏導線」、歴史の舞台に「光を当てるエンジニア」:舞台の外でイベントを成功させる為に、実務を回すスタッフ(製作、運営、進行、造作施工、仮設電気工、テクニカルetc)。決して観客の前には姿を見せない。
第4レイヤー:歴史の「倉庫の片隅」:倉庫の片隅で「動作して当たり前」の機材を、メンテナンスし、常時稼働可能な状態に維持する。決して本番会場には赴かない、「技術インフラエンジニア」
この分析構造を「太平洋戦争の日本海軍」に適用する。
実際の「歴史」への拡張:太平洋戦争の日本海軍
第1レイヤー:歴史の「光」:「戦艦大和」や「零式艦上戦闘機」、「真珠湾攻撃の成功」
第2レイヤー:歴史の「影」:「ミッドウェー海戦」「マリアナ沖作戦」「特攻作戦」
第3レイヤー:歴史の「裏導線」:歴史の舞台に「光を当てるエンジニア」:「シーレーンの確保とその護衛に従事した海上護衛総隊とそのスタッフ」「戦艦大和の機関科や主計科の乗組員たち」
第4レイヤー:歴史の「倉庫の片隅」:「海軍工廠や民間工廠の技術者や職人たち」「特設哨戒艇として徴用された漁船の乗組員」「『銃後』で兵士を支えた無数の民間人」「戦後、機雷に封鎖された各港湾・重要航路を掃海した航路啓開隊」「戦場を目にすることなく、国家というシステム全体の国力をメンテナンスし、国家というシステム全体の国力を維持する、究極の裏方の視点」
上記「太平洋戦争の日本海軍」という視点において、第1レイヤーと第2レイヤーは、所詮、後世の人間が眺める「舞台上での視点」に過ぎない。
この視点での第3レイヤーは「輸送船団の護衛強化」や「主要港・海路を封鎖した機雷への対処」といった、現場レベルの生存戦略を担った層である。
そして第4レイヤーには、「民間人」も含まれる。
この歴史の第4レイヤーに光をあてた作品が、『この世界の片隅に』だ。主人公のすずさんは、太平洋戦争と同じ時代に生き、戦争と関わりながらも、最後まで戦場に立つことはなかった。
テクニカル機材のレンタル業務における「4レイヤー構造」
また自分の業界の話で恐縮ではあるが、テクニカル機材のレンタル業務における「4レイヤー構造」である。
この場合のポイントは「機材知識の多重下請け構造と、そこにおける『信頼の解像度』を可視化したビジネスの生存戦略」である。
・第1レイヤー:歴史の「光」:実際に機材を使用する人。演者。
・第2レイヤー:歴史の「影」:知り合いの演者に機材手配を頼まれて発注してくる人。アマチュアのエンジニア・機材に詳しくない「手配担当」。実際に機材を(アマチュアなりに)操作する層。
・第3レイヤー:歴史の「裏導線」:イベント制作代理店・制作会社、機材に詳しい「手配担当」:イベントのプロフェッショナルだが、機材知識にはプロフェッショナル程に詳しくはない。
・第4レイヤー:歴史の「倉庫の片隅」:同業テクニカル業界・同業他社、テクニカルのプロフェッショナル:機材オペレーションのプロフェッショナル。実際に機材を(ハイクオリティーに)操作する層。
第1&第2レイヤーは一般的に「エンドユーザー」と呼ばれる顧客層である。
この2つのレイヤーは「どのようにイベントを成り立たせるか?」を考える「素人」である。
予算や希望を語るが、その裏にある兵站(第4レイヤー)の苦労を想像することはない。
この「素人考え」をどう「実現可能なテクニカルプラン」に落とし込むかが、イベントテクニカル会社の腕の見せ所である。
第3レイヤーは一般的に「イベント制作代理店」「イベント制作会社」と呼ばれる顧客層である
実際に、イベント実施マニュアルや本番台本、造作・テクニカルのデザインなどを作成・外注する人たちだ。
ボリュームゾーンとしては、この業態からの発注が多い。が、このレイヤーで下記第4レイヤーの「テクニカルの実務」を良く理解していないと、物理的に不可能なテクニカルオペレーションが発生し、発注元としての責任を問われることになる。ここでの「確認不足」は、本番での致命的なトラブルに直結する。
第4レイヤーの解像度を軽視する制作会社は、現場での摩擦を制御できない。
第4レイヤーは、テクニカルのプロフェッショナルの世界である。お互いの置かれている状況が見えているので、「自分自身に無理をしてでも、オーダーに応える」という「無理の返報性」が成立する聖域。
互いの「兵站業務の解像度」が担保されているため、「困った時はお互い様」という高純度な信頼関係が保たれる。
「レンタル機材の説明をする場合」
また、このそれぞれのレイヤーに「レンタル機材の説明をする場合」の、「言葉の解像度の違い」にも、違いがある。
相手のレイヤーに合わせ、情報の圧縮率と解像度を瞬時に最適化するのである。
L1/L2(エンドユーザー)向けプロトコル
【翻訳】 専門用語を徹底的に排除した「結果」の伝達。
「このツマミを印に合わせれば、丁度良い音量になるように調整してあります。本番の音量の微調整はこのツマミで行ってください」という、安全かつ直感的なインターフェース。
L3(舞台監督等)向けプロトコル
【圧縮】現場の物理座標と時間軸を最短距離で結ぶ通信。
テクニカル用の超高解像度情報圧縮言語→舞台用語を多用し、高密度情報伝達を図る。 「機材ケースは下手袖ローホリ横に置きました。邪魔なようならどかしてもらってかまいません」「袖のモンジはこの位置でFIXらしいので、プロジェクターの投影位置は、この場所でほぼほぼ決まりだと思います」「バラし20:30と聞いてますけど、会終わりが巻く可能性もありますので、20:15には到着して裏動線で様子見してます。」など。テクニカル用語ではなくても、相手との「共通知識アセット」であろう「舞台用語」を流用して、コミュニケーションの高速化・円滑化を図る。
L4(同業者・パートナー)向けプロトコル
【直結】 資産管理と即時性の極致。
同業他社から「車両事故で本日顧客に納品予定のWUX500が破損、急遽今日1台借りれないか?」という申し出に「WUX500、無印1台、4日間確保。1時間後に動作チェック完了、来社渡し可能」という、無駄を削ぎ落としたリソース同期。起きている緊急事態の深刻さを(業界の常識として)正確に相手と共有し、最小限の情報交換で最高のパフォーマンスを発揮する。
太平洋戦争時における日本の4レイヤー構造分析
最後に『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』を用いた分析事例を論評したい。冒頭の「日本海軍の4レイヤー構造分析」より、もっとマクロな視点で「組織としての日本軍」を捉えた場合の分析である。
・第1レイヤー:歴史の「光」:戦術の成功:現場の兵士の勇猛果敢さ、自己犠牲の精神の高さ
・第2レイヤー:歴史の「影」:作戦術の失敗:「日本軍の過去の成功への『過学習』『過剰適応』」→白兵戦主義・精神主義、艦隊決戦主義
・第3レイヤー:歴史の「裏導線」:戦略の失敗:曖昧な戦略目標、結果として採用した、短期決戦の戦略志向、主観的で「帰納的」な戦略策定、硬直化した戦略、戦術コンティンジェンシープラン(プランB)の欠如、情緒主義的な人事考課・年功序列主義、独裁とはほど遠い中途半端な中央集権政治・戦時統制経済
・第4レイヤー:歴史の「倉庫の片隅」:大戦略(国家戦略)の失敗:「日本という国をどのように導いていくべきか?」という「いかに戦争をさせないような国際政治上の立ち位置に『日本』を置くか?」という最上流の調整。 戦場を目にすることなく、国家というシステム全体の国力を維持し、外交を用いて国際政治を調整する、国家における裏方の視点。また、その裏方の視点。
まとめ
上記のように組織はもちろん、それ以外の枠組みでもこのフレームワークを使うことが可能かと思われる。
…しかし、では、L4の彼らはどうやって世界を支えているのか?
次回はより具体的な事象を、この「歴史の4レイヤー構造」という視点で捉えてみたいと思う。
