世界が暗くなる5秒前、俺は数えていた
↓この話の続きです。
この世が終わるような落流。
「写ルンです」が濡れる。
隣の人の声が聞こえない。
今、イグアスの滝にいる。
暴力的な勢いの水。
水。
水。
絶壁沿いの階段を歩く。
水しぶきで足が滑る。
傘が欲しい。
いや、カッパが欲しい。
大自然を堪能した後、観測地の宿泊施設に向かう。
バスの中でポルトガル語とスペイン語のミニレクチャー。
「グラシアス」しか覚えてない(笑)。
宿泊施設に着いた。
360度の地平線。
空しかない。
現地の少年とビリヤードみたいなものをやった。
たしか「ビリヤード・ブロー」とかいう名前。
ポケットがなく、台の中央にポールが立っていた。
少年は強かった。
握手も。
目力も。
青く大きな瞳に吸い込まれそうだった。
まっすぐな笑顔。
そして夜。
満天の星空。
視界の全てが星。
いや、こんな星だらけじゃ、星座なんてつくれないでしょ?
点つなぎするだけで一生が終わる。
草原に寝そべる。
天に向けて「写ルンです」を光らせる。
近くで練習していた測光班(日食観測の時、光を測る人たち)の人に怒られた。
そして皆既日食の日がやってきた。
俺は心理学科なので、物理的なことは何もできない。
しかし役割はあった。
大学で練習した時、俺の「1、2、3、…」のカウントが上手だったらしい。
なので、カウント役になった。
小学生でのピアノ、高校生でのベースでリズム感が鍛えられたのか。
今振り返ると、俺に役割がなかったから「カウントが上手」と言ってくれたのかもしれない。
真相は分からないが、もし大学に皆既日食のビデオが残っているのなら、そのカウントの声は俺だ。
俺は自分の声が嫌いだ。
しかしパラグアイの2年後、生まれて初めて声をホメられた。
「幹夫くんっていい声だよね」
同じゼミで、俺よりも背の高い女子。
「Zipper」というファッション誌のモデルをやっていた。
「ちょっとコンタクト入ってるか見て?」と至近距離で言われたこともある。
その人から卒業間近、「幹夫くんはもっとズルくなったほうがいいよ」と言われた。
当時は意味が分からなかった。
今なら分かる。
そんな2年後、3年後、31年後を知らない俺は、当時嫌いだった声で。
日食開始までのカウントダウンを始めた。
続く。↓
