HPVワクチン接種前に知らされるべきこと 過去の薬害訴訟からの考察
HPVワクチン薬害訴訟をより理解するために、過去の薬害訴訟についても調べています。民事法学を専門としている渡邉知行氏(成蹊大学経済学部 現代経済学科 教授)の論説は、とても勉強になりました。過去の薬害訴訟を踏まえて、国と製薬会社の情報提供に関する責任を考察しています。これを読むと、私たちが本来知らされるべきことが、いかに知らされていないかがわかります。この論説をもとに、厚労省などの資料を掘り起こしました。
論説「HPVワクチン薬害訴訟における製薬会社・国の責任」
この論説は、イレッサ訴訟判決などを踏まえながら、造物責任法に基づく製薬会社の責任、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器法、旧薬事法)または予防接種法に基づく国の責任について検討しています。
これを読んで、まずはイレッサ訴訟について調べようと思い、下記の記事を書きました。
論説は、下記から読むことができます。
成蹊大学学術情報リポジトリ成蹊法学92 (2020)
論説「HPVワクチン薬害訴訟における製薬会社・国の責任」
渡邉知行(経済学部 現代経済学科 教授)より
参考:論説に出てくる法律
予防接種実施規則
予防接種法
有効性及び安全性に関する正確かつ十分な情報
以下、論説から一部を引用します。
二、対象者・保護者に提供が必要な情報
予防接種法に基づく定期予防接種は、地方自治体によって、対象者に勧
奨されるものであり(予防接種法 8 条 1 項)、対象者に義務づけられるものでない。緊急促進事業による場合でも同様である。対象者は、自治体による勧奨を信頼して、公的助成を利用して、自治体の勧奨に応じて予防接種を受ける傾向にある。
対象者が、勧奨に応じて予防接種を受けるか否かは、対象者の意思決定
に委ねられることになる。対象者が未成年者である場合には、保護者(親権者または後見人(同法 2 条 4 項))に対して予防接種の効果および副反応について説明をした上で、保護者の文書による同意を得ることが必要である(予防接種実施規則 5 条の 2)。
対象者または保護者は、予防接種ワクチンについて、自治体の勧奨に応じてその接種を受けるか否かを判断するには、予防接種の趣旨や目的を十分に理解したうえで、有効性及び安全性に関する正確かつ十分な情報が提供されることが不可欠である。
予防接種ワクチンは、将来的に発症する可能性がある重篤な疾患を予防
するために健常者に使用されるものであり、これまで予防接種の副反応による重篤な症状が発生する事例が少なからず存在することも考慮しても、疾患を改善する医薬品よりも、高度の有効性及び安全性が求められている。予防接種ワクチンについて、このような有効性または安全性が十分であるとはいえない設計上の欠陥が認められない場合においても、対象者または保護者が予防接種を受けるか否かを判断するには、予防接種の目的を認識したうえで、いかなる疾患の発症をいかなる程度に予防する効能があり、いかなる副作用をいかなる頻度で発生する可能性があるのかについて、正確かつ十分に認識することが必要である。
「いかなる疾患の発症をいかなる程度に予防する効能があり、いかなる副作用をいかなる頻度で発生する可能性があるのか」について、私たちはどれくらいの情報が与えられているのでしょうか。
これについて以前の記事で、2017年11月29日に開催された「第31回 厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会厚生科学審議会」で使われた資料を掘り起こしました。
まずは、生涯累積罹患リスクをもとにした推計。

「HPVワクチンの有効性として、子宮頸がん予防ワクチン接種したもののうち117人から170人に1人が子宮頸がん罹患を回避できる、と期待される」と書かれています。
推進派の多くは「接種すれば罹患しない」と思わせる発言をしていますが、この推計からはそうではないと読み取れます。
次に、生涯累積死亡リスクをもとにした推計。

「HPVワクチンの有効性として、累積子宮頸がん死亡率を約0.3%から約0.2%程度に下げることが期待される」と書かれています。
この推計は、現在も厚労省のサイトで医療従事者向けの参考資料として公開されていますが、接種を勧める医師からこのような説明を受けた人はどれくらいいるのでしょうか。
医療従事者の方へ
<参考資料>[15.2MB]
参考資料5 HPVワクチンの効果に関する推計
46ページ、47ページ

厚労省は、サイトに公開していれば情報提供したことになると思っているのかもしれませんが、どれくらいの医療従事者がここにアクセスしているのでしょうか。
再び、論説からの引用です。
HPV ワクチンは、子宮頸がん自体の発症を予防するのではなく、がん
の原因となり得る HPV の感染を予防するのであり、HPV 感染が予防さ
れても、他原因によって子宮頸がんが発症する可能性は否定できない。10年以上の長期間を経過した後の発症を予防するものであり、感染予防の長期の持続性も治験で確認されていない。子宮頸がんは、予防接種によらずに、従来のように、検診を通じて病変を治療して予防することも可能である。
HPVワクチンの添付文書にも、「予防効果の持続期間は確立していない」と書かれています。下記は例として、シルガード9の添付文書です。

論説から少し逸れますが、添付文書には重要なことが書かれています。2025年8月の改訂で効能が変更されましたが、「中咽頭がん」とは書かれていないことに注目してください。下記のガーダシル添付文書も同様です。


耳鼻咽喉科などのHPで、中咽頭がんの予防もできると思わせるような説明を見かけますが、医薬品等の広告基準で「明示的又は暗示的であるか否かにかかわらず承認等を受けた効果効能等の範囲をこえてはならない」ことになっているはずです。
医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について(平成29年9月29日薬生監麻発0929第5号厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長通知)

「病院・クリニックの公式ウェブサイト、公式SNSアカウントや公式アプリ等は、通常、そこで提供される医療サービスを広報するものであり、誘引性や特定性の要件を満たす」とされているので、HPも広告にあたると思います(下記参照)。
厚労省の資料にも、「中咽頭がん」は薬事承認されていないと書かれています。



もう1点、Xなどで「女性のために男性も接種しようという」という発信を見かけますが、「HPVワクチンの男性接種による女性の子宮頸がん及び前がん病変に対する予防効果については、ファクトシートにおいて、いずれも直接的なエビデンスはないと記載されている」と書かれています。
東京都の保健医療局も下記のように書いていますが、これはよいのでしょうか。

再び、論説からの引用です。
他方、HPV ワクチンのように、ウイルスに類似する、遺伝子組み換え
によって生成された物質を接種する場合には、食品について規制されてきたように、未知の危険性があることが懸念される。実際に、ワクチン接種後の副反応が疑われる多数の事例が報告されている。
HPV ワクチンを接種するに際しては、このような有効性及び安全性に
関する正確かつ十分な情報が、対象者及び保護者に伝達されることが必要である。
(中略)
このような情報を提供することができる主体は、専門的な科学的知見によってワクチンを研究開発して、製造販売する製薬会社、または、ワクチンの製造販売を承認し、予防接種の基本計画を策定する国であり、集団訴訟において被告とされている。そこで、次項以下では、これらの責任についてみていくことにする。
現在、東京・名古屋・大阪・福岡の4地裁で、HPVワクチンによる被害者117人が原告として、国と製薬会社を相手に闘っています。
製薬会社の責任
論説では、製薬会社の責任について考察しています。
これらの判例によれば、医薬品に有効性が認められる場合でも、その安
全性に関する情報を最高水準の手法によって収集し、副作用症例につい
て、因果関係があると疑われる症例が存在すれば、正確かつ十分な情報を提供することが製造業者等に義務づけられ、この義務に違反した業者は、患者らに損害賠償責任を負うものと解されている。
「これら」というのは、東京スモン訴訟判決(東京地判昭和 53 年 8 月 3 日判時 899 号 48 頁)、クロロキン訴訟東京高裁判決(東京高判昭和 63 年 3 月 11 日判時 1271号 3 頁)です。
東京スモン訴訟判決では、一般論として、副作用症例について、具体的
な疾患の症例が疑われる場合にとどまらず、神経障害レベルで副作用を発生させることが疑われる場合にも、副作用を回避する措置を採ることが製造業者等に求められている。副作用症例が外国の 2 症例であっても、製造業者等の過失が認定されている。
(中略)
このように重篤な副作用が疑われる場合には、医薬品による副作用について因果関係が高度の蓋然性をもって認定できるに至らない場合でも、製造業者等による添付文書などによる情報提供を通じて、患者が副作用の危険を回避できるようにすることが必要である。
スモン訴訟とは、キノホルム剤(整腸剤)を服用した人が、全身のしびれ、痛み、視力障害等の被害(スモン Subacute Myelo-Optico-Neuropathyの頭文字)が生じたとして、1971年5月以降、キノホルム剤を製造・販売した製薬会社(武田、チバガイギー、田辺)とこれを許可・承認した国を相手方として提起した損害賠償請求訴訟です。

厚労省 スモン訴訟及び恒久対策の概要
製造業者等は、医師による診断を通じて医療用医薬品が処方される場合
にも、医薬品医療機器法によって求められる、正確かつ十分な情報提供を怠ることによって、患者に健康被害が発生した場合には、製造物責任として損害賠償責任を負うことが、薬害訴訟において確立されてきた。
HPVワクチンの製造・販売を行っている2社は、正確かつ十分な情報提供を怠っていないと言えるでしょうか。
国の責任
論説では、国の責任についても考察しています。
医薬品医療機器法
医薬品の製造販売業者は、医薬品について、「有効性及び安全性に関す
る事項」など「適正な使用のために必要な情報を収集し、及び検討するとともに」、「医薬関係者に対し、これを提供するよう努めなければならない」(同法 68 条の 2 第 1 項)。「使用によって保健衛生上の危害が発生し、又は拡大するおそれがあることを知ったときは、これを防止するために廃棄、回収、販売の停止、情報の提供その他必要な措置を講じなければならない」(同法 68 条の 9 第 1 項)
医薬品の安全性を確保して副作用被害を回避する国の責任は、製造業者等の責任について後見的ないし補充的なものであると解することはできない。むしろ、製造業者等が安全性確保のために営業上不利益となる副作用情報を自ら積極的に記載することを期待できないので、国が、製造業者等に対して最新の副作用情報に対応する記載のある添付文書を付するなどして、正確かつ十分な情報を提供するように行政指導することによって医薬品の安全性が十分に確保できる。医薬品の副作用が疑われる症例が多数存在するにもかかわらず、製造業者等によって医薬品の副作用が少ないという情報が積極的に提供されている場合には、添付文書などに対する行政指導を通じて医薬品の安全性を確保することは不可欠である。患者は、このようして提供された、安全性に関する正確かつ十分な情報に基づいて、疾患を治療するために服用する医薬品を選択する意思決定をすることができるのである。
副作用被害が発生するのは、国が当該医薬品を承認して市場に流通することに積極的に関与したことにもよるといえる。医薬品の承認は、新薬の開発、普及についての国の政策が反映される。[最判平成 25 年]の事案は、医薬品の承認の迅速化を図る国の政策によって、少数の患者を対象とする第Ⅱ相試験の段階で承認がなされている。医薬品に関する知識や情報が不十分である患者は、製造業者等や医療関係者から提供される有効性及び安全性の情報を信頼して、医薬品を服用するほかはない。
「最判平成 25 年」は、以前書いたイレッサ訴訟のことです。
イレッサは、医薬品の承認の迅速化を図る国の政策によって、少数の患者を対象とする第Ⅱ相試験の段階で承認されました。
「医薬品の承認は、新薬の開発、普及についての国の政策が反映される」のであれば、今後ますます安全性が軽視された承認審査が行われることになるでしょう。国はワクチンを100日で実用化させようとしているからです(下記参照)。
予防接種ワクチンは、自治体の勧奨による定期予防接種によって、学齢
や性別で指定される多数の対象者に使用されることが予定されている。多くの対象者が、予防接種を受けることを義務づけられることはなくても、自治体の勧奨を信頼し、公的助成を利用して予防接種を受ける傾向がある。そのために、ワクチンを寡占して製造販売する製薬会社は、厚生労働大臣によって製造販売が承認されたワクチンを、定期予防接種の需要に応じて大量に製造販売することによって、莫大な収益を得ることができる。
一方で、定期予防接種の需要があると製薬会社は莫大な収益を得ることができます。
政策を推し進めたい国と、莫大な収益を得たい製薬会社。それぞれの目的のために、安全性が軽視されるようなことがあってもよいのでしょうか。
本来であれば国は製薬会社に対して、有効性及び安全性に関する正確かつ十分な情報を提供するように指導するべき立場のはずです。それなのに、それを行っていないどころか、訴訟でも国は責任を認めず、製薬会社とともに接種後の健康被害について原告117人全てについて、ワクチンと関連がない「心因性」だと主張しています。
HPVワクチン薬害訴訟は、今後の新薬開発に関しても重要な意味を持っています。イレッサ訴訟では、国と製薬会社の責任が否定されました。もしHPVワクチンに関しても国や製薬会社の主張が認められてしまったら、もう医薬品に「安全」を期待することはできなくなってしまうでしょう。ですから、HPVワクチン薬害訴訟は他人事ではなく、多くの人に関わってくる問題なのです。
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