「誤情報」の発信に苦言を呈している人が「誤情報」を拡散させているという矛盾
フォロワーの多い医師が、Xで「誤情報」の発信に苦言を呈していましたが、そのポストには「事実」とは異なることが書かれていました。けれども、コメントを見ると、多くの人が医師のポストに賛同しています。このような拡散こそが問題だと感じたので、彼のポストのどこが「事実」と異なるのか掘り起こしました。
「誤情報」拡散への警鐘
甲子園で試合が行われている「第107回 全国高校野球選手権大会」の最中に、広陵高校(広島)が出場を辞退しました。今年1月、同校の野球部員が下級生に暴力をふるったことなどをめぐる問題について、SNSでは真偽が不明な段階にもかかわらず加害者を断定し、実名を挙げて個人やチームを攻撃する過激な投稿が目立ったそうです。
以下、毎日新聞(2025年8月10日付)より一部引用です。
学校問題やいじめ問題に詳しい高橋知典弁護士(第二東京弁護士会)は「信ぴょう性や真偽を確認しないまま情報を拡散することは、名誉毀損(きそん)のリスクをはらみ、非常に危険が伴う」と警鐘を鳴らす。
中には悪意を持って加工したような画像も出回る。
高橋弁護士は「拡散した情報が誤りだった場合、自らが取り締まりの対象になり、仕事や生活を失うリスクがある。それほどの覚悟があるのか。慎重に真偽を確認したのか。情報を広げる前に、自分に問うてほしい」と厳しく指摘する。
この件について、下記のポストがありました。

この医師は、過去にも名誉毀損と認められるような発信をしていたので、注意喚起のために取り上げました。
「新聞もテレビも、HPVワクチンの誤情報を流しまくって、 その結果、何千、何万という日本人女性の命や子宮を奪った」と書いていますが、これはどこから得たデータなのでしょうか。
この医師が言いたいことは、「HPVワクチンの副反応について新聞やテレビが発信したことで、接種する人が減ったから何千、何万人の日本人女性が子宮頸がんで死亡したり、子宮を摘出した」ということだと読み取れます。
この中には「事実ではない」こと、あるいは誤解を与える表現が複数含まれています。
誤解を与える表現
「新聞もテレビも、HPVワクチンの誤情報を流しまくって、 その結果、何千、何万という日本人女性の命や子宮を奪った」と書かれていると、「HPVワクチンを接種したら子宮頸がんに罹患しないのに、接種しなかったから子宮頸がんに罹患したり、死亡した」という誤解を与えます。
何度も書いていますが、添付文書には「予防効果の持続期間は確立していない」と書かれています。

子宮頸がんは、高齢になるにつれて死亡率が高くなっていきます。

ワクチンに効果があるとしても、10代前半で接種してからずっと、その効果を維持できる保証はありません。このワクチンの接種が始まってから、70歳、80歳になった人はまだいないのです。インフルエンザやコロナ予防のワクチンだって、接種しても罹患する人がたくさんいます。なぜHPVワクチンは、接種すればずっと効果が持続して罹患しないという前提で話が進むのでしょうか。
医師であるなら、添付文書に「予防効果の持続期間は確立されていない」と書かれていたら、慎重に発言するべきではないのでしょうか(下記参照)。
事実と異なる情報1
この医師が考える誤情報が「HPVワクチン接種による重篤な副反応」を意味するなら、「新聞もテレビも、HPVワクチンの誤情報を流しまくって」いるというのは事実とは異なると思います。
子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の副反応に関する報道としてよく取り上げられるのが、2013年3月の朝日新聞です。「子宮頸がんワクチン 中学生が重い副反応」というタイトルの記事を発表しましたが、これは誤情報なのでしょうか。
子宮頸がんワクチン 中学生が重い副反応
朝日新聞(2013年3月26日)
◆杉並区、補償へ
子宮頸(けい)がんワクチン「サーバリックス」を接種した東京都杉並区の女子中学生(14)が、歩行障害などの重い症状が出て、1年3カ月にわたり通学できない状況だったことが、7日の区議会で明らかになった。無料接種を行った区は「接種の副反応」と認め、補償する方針だ。補償額は未定。
サーバリックスは3回の接種が必要。母親によると、女子中学生は12歳だった2011年10月に区内の医療機関で2回目の接種をした。その直後、接種した左腕がしびれ、腫れて痛む症状が出た。症状は脚や背中にも広がり入院。今年1月には通学できる状態になったが、割り算ができないなどの症状が残っているという。
厚生労働省によると、昨年8月末の時点で、全国で接種した延べ663万5千人のうち956人に副反応が起きているという。失神が多いが「四肢の運動能力低下」「歩行不能」などで未回復の例もあり、副反応の発生率はインフルエンザワクチンの10倍程度という。
杉並区は10年7月、子宮頸がんワクチンの接種を全額無料化。現在は全国1700以上の自治体で、国の補助を受けた接種事業が行われている。国は定期接種を進める閣議決定をしている。
「無料接種を行った区は『接種の副反応』と認め、補償する方針だ」と、「厚生労働省によると、昨年8月末の時点で、全国で接種した延べ663万5千人のうち956人に副反応が起きているという。失神が多いが『四肢の運動能力低下』『歩行不能』などで未回復の例もあり、副反応の発生率はインフルエンザワクチンの10倍程度」は、区や厚労省が発表したことです。これが誤情報といえるのでしょうか。
むしろ、2016年に夕刊各紙が見出しで、安全だと思わせるようにミスリードしていました。
2016年12月26日付の夕刊各紙は一斉に、厚労省のHPV研究班がHPVワクチン未接種でも接種後に表れる症状と同様の症状があるなどと、ワクチン接種との因果関係がないと証明されたかのような見出しをつけています(下記参照)。
記事には、「研究班は、今回の調査だけでは未接種者と接種者の比較はできないとしている」「因果関係は判断しなかった」などと書かれていますが、「健康被害は接種によるものではない」という誤解を与える見出しでした。この調査では比較できなかったのですから、「因果関係がない」とも言っていないのです。
事実と異なる情報2
もしメディアが子宮頸がんワクチン接種後の重篤な副反応についてたくさん報じていたとしても、「その結果、何千、何万という日本人女性の命や子宮を奪った」といえるデータが見当たりません。
死亡者数の推移については、下記の記事で取り上げました。
2013年からの推移

積極的勧奨が中止になったの2013年6月、再開したのは2022年4月です。
公費対象者(小6から高1)が2013年~2021年に接種していたとしも、その人は今10代~20代です。10代後半で接種したとしても30代。増えているのは45歳以上で、むしろその年代は減っています。
メディアが子宮頸がんワクチン接種後の重篤な副反応についてたくさん報じていたとしても、そのせいで接種が減って何千、何万人が死亡しているといえるのでしょうか。
罹患率や罹患者数の推移についても、データが公開されています。

年齢別罹患数より

早期発見や治療法によっては、子宮摘出しない場合もあります。高齢者が子宮頸がんに罹患したり死亡しているのは、メディアによってワクチン接種の機会が失われたこととは関係ないでしょう。
では、「新聞もテレビも、HPVワクチンの誤情報を流しまくって、 その結果、何千、何万という日本人女性の命や子宮を奪った」という話は、どこから出てきたのでしょうか。
「事実」を無視し続けるメディア
むしろ近年、メディアは接種の妨げになる情報は発信せずに無視し続けています。例えばHPVワクチン薬害訴訟についても、ほとんど報じていません。
さらに、積極的勧奨が再開された理由が、安全性が確認できたからではなく、三原じゅん子厚労副大臣(当時)が、厚労省の審議会も経ずに、勝手に2021年4月にMSDへ要請し、その結果、製薬会社からの圧力があったからだということを大手メディアは報じていません(下記参照)。
上記の記事から、一部転載します。
2024年10月31日に、薬害オンブズパースン会議の請求によって開示された文書が公開されています。
HPV ワクチンの積極的接種勧奨再開に関するMSD 株式会社との交渉経過の公表に関する要望書(2025年3月27日)
その一部を転載します。日本語訳もあるので、全文はぜひ上記のリンク先でご確認ください。

田村厚労大臣(当時)と三原じゅん子厚労副大臣(当時)宛ての手紙です。


2021年4月に三原氏と面談した際に、2021年10月には積極的勧奨を再開し、キャッチアップ接種を2022年4月より前に開始するから、4価のHPVワクチンを確保してほしいという要請があったと書かれています。

それにも関わらず、積極的勧奨再開に向けた動きが見られない。それは、日本のために確保したワクチンを廃棄しなければならないリスクを意味しているとして、下記のような圧のある文章が続いています。



以下、要点をまとめてかなり意訳しています。
4価のHPVワクチンは、日本に到着する1年前に充填されてパッケージ化しなければなりません。ですから、三原氏からの要請に応じて2021年10月に間に合うように用意したワクチンは、すでに充填・パッケージ化されて順次日本に到着しているんです。今さら他国へ送ることなんてできません。積極的勧奨再開の時期がこれ以上遅れれば、2022年4月から使用期限を迎えたワクチンを廃棄しなければならず、2023年には大量廃棄となるんですよ。世界的に供給が限られているワクチンを、せっかく日本のために確保したのに廃棄することにでもなったら、他国での予防機会を奪ったことになり、国際的な公衆衛生の観点から、とうてい容認することはできないでしょう。

こちらもかなりの意訳です。
世界的なパンデミックの状況下で、医薬品の供給に注目が集まっています。そんな中で、厚労省の要請で日本のために用意したワクチンが、使用されずに廃棄されたと公表せざるを得なくなれば、日本政府は国際的な批判を避けられないでしょうね。そんなことにでもなれば、今後、HPVワクチンに限らず、他の医薬品やワクチンについても日本への供給確保に影響がでるかもしれませんよ。
これは脅しです。なぜこれがメディアで取り上げられないのでしょうか。
今回、このような発信をした医師は2022年にXで、コロナワクチン接種後に死亡した方の死体検案書を「捏造」だと断定しました。そのときも、多くの人がその意見に同調していたことを私は覚えています。この件について被害者遺族を支援する団体の理事長が、名誉を毀損されたとして損害賠償を請求し、2024年7月9日に東京地裁はその医師に対し賠償金の支払いを命じました(下記参照)。
HPVワクチンに関してSNSで拡散されている情報が事実なのか誤情報なのか確認するためにも、推進派の意見を聞くだけでなく、被害者の声に耳を傾けることが必要だと思います。
HPVワクチン薬害訴訟は、傍聴できます。誰かが書いたレポートには、その人の考えが含まれています。録音不可なので、被告側、原告側、それぞれの立場で言葉を拾って書かれているはずです。何が事実で、何が事実ではないのかを見極めるためには、自分で調べたり、直接自分の目や耳で確認することが大切だと思います。
