狐の窓 (ショートショート 3つのお題)
僕が学校から帰っていると、家へ帰る途中にある、草がボーボーと生えている原っぱに、何かがぽつんといた。目を凝らすと、狐が2本足で立っている。彼はふいとこちらを向き、僕に気づいた。
「おや、坊ちゃん。お帰りですか」
「うん、ただいま」
そう言ってそちらへ歩いて行く。
「何をしてるの?」
「雨が降ってるでしょう。でも晴れているじゃないですか」
「そうだね」
「狐の嫁入りですよ」
「へえ」
「おや、知らないんですか」
と笑う。少々ムッとして
「知ってらい」
と答えた。
「そうですか」
狐は少し馬鹿にしたように言った。
「それで?」
「お見送りしているんです」
「何もないけど…」
と、辺りを見回す。
「こうやって見るんですよ」
狐はそう言って手順を説明しながらやって見せてくれた。
「桔梗の花の汁で両手の指を青く染めたら、指を揃えて中指と薬指の間を開く。それを重ねるんです。
すると、穴が開くでしょう?」
「うん」
「それが狐の窓です」
と言う。
「そこから向こうを覗いてごらんなさい」
と原っぱの奥の方を指した。
言う通りにすると、その穴から狐の行列が見える。
「…あっ!」
「見えました?」
「うん。すごい…」
そう言うと、狐はえへんと言ってヒゲをぴん、と伸ばした。
行列は草原の端から端まで続いていて、真ん中辺りに仙台平の縞柄の袴と黒い羽織を着た狐と、角隠しに白い打掛を着た女の人がいた。赤い唇で綺麗な人だ。
「…あれ?」
僕は目を凝らす。あの女の人、どこかで見たような…。
少し、近づいてみる。
「!!」
それは、隣の家の亜希姉ちゃんだった。高校生で、セーラー服のままよく友達と遊んだりしている。うちの犬のコムギも、通りすがりによく可愛がってくれていた。
「姉ちゃん⁈」
「おや、お知り合いでしたか」
と狐は言う。
「知り合いも何も、本当の姉弟みたいに仲良くしてるんだ」
「そうなんですね」
と驚いたようだ。
「でも、もうお嫁に行くから会えないです。
寂しくなりますね」
「そんなの、聞いてない」
僕は低くつぶやき、行列へ駆け寄ろうとする。
「亜希姉ちゃん…!」
けれど、窓から覗いた時は見えたのに、現実には彼らの姿はどこにもなかった。
「あれ…どこ?」
「そこですよ」
僕は狐の言う方向へ走っていく。次第に木々が繁り、辺りが薄暗くなっていった。
「姉ちゃん!どこにいるの?」
僕は彼女を呼びながら、森の中へ入っていく。けれど、見つからない。そのうち、自分がどこにいるのか分からなくなってしまった。
「──だめですよ、ついて行っちゃ」
すぐそばで狐の声がする。
「そうしないとあなたも狐の窓に入ってしまいますよ」
その時、ワン! とコムギの声が聞こえた。ふと気づくと、さっきの原っぱに僕は1人で立っていた。
狐は消えていて、ボーボーと生えた草が風に吹かれ、ざわざわと靡いているだけだった。
了 (1131字)
3つのお題 犬、女子高生、青
注) 狐の窓のやり方の詳細が若干違っていますが、阿部直子さんの「きつねの窓」と、鬼太郎6期のEDを元に捏造しています。詳しいやり方はこちら↓
魂の踊り場←前の話 次の話→アタシを愛してくれるあなたへ
ショートショート集『いつか君と遠く離れても』 1話から↓
