アタシを愛してくれるあなたへ ショートショート

 こんにちは、お元気ですか。あたしは今大ピンチです。
 あなたは何をしていますか…って、会った事もないのにね。で、なんでこの手紙を書いているかと言うと、多分あたしはもうおしまいだからです。
 だから、これは頭の中で書いています。なのであなたはきっと読めないと思う。でも、このまま死んでしまうのは悔しすぎるので、あなたに宛てて書きます。

 あたしはあなたが知ってるかどうか知らないけれど、結構気ままに生きてきました。年頃になった時、目の前に色白のシュッとしたイケメンが現れて、甘い声で
「君、かわいいね」って耳元で囁かれたから、ウブだったあたしはすっかりその気になっちゃった。そしてすぐに彼と恋仲になったの。
 蜜月を過ごして2人の可愛い男の子が産まれたけれど、彼はすぐに居つかなくなって姿を消してしまった。

 すごくがっかりしたけれど、そういう目に遭った子は周りにゴロゴロいたから、そんなもんかと思って気にするのを止めたの。そして、ボロアパートの片隅で子どもたちを育てるのに情熱を傾けました。

 2人とも父親に似てとっても可愛くて、小さくて頼りなくて、かわいらしい元気な声でずっと泣くから、あたしはおっぱいをあげながら喉を鳴らして子どもたちをあやしたの。少し大きくなると2人で遊んだりしていて、それはとても幸せな日々だった。
 でも、それは長くは続かなかった。

 あの子たちを育てられるのはあたしだけだから、養うのも自分1人でどうにかしないといけなかった。預けるあてもないから、産後でしんどかったけれどあの子たちが寝ている間に走り回ってどうにか親子3人で生活できるように頑張った。
 でも、あたしは日に日に痩せていって母乳もだんだん出なくなり、子どもたちがひもじい思いをするようになってきた。だから、食べ物を寄付してくれる所を転々として何とか食いつないだわ。

 ある日、いつものようにあの子らが寝ている時にそっと家を抜け出し、食べ物をくれるこども食堂で食料を調達して、帰り道についていた。
 もうすぐ着くという辺りで、橋を渡っていたら自転車がベルを鳴らして通り過ぎたの。あたしはフラッとした拍子にバランスを崩して、川へ落ちてしまった。

 水の中で必死に手を動かして
「助けて!!」
と叫んだけれど、もう薄暗くなっていたし人通りも少なくて、誰も気づく人がいなかったの。
 手足をバタつかせて何とか泳ごうとしたけれど、元々泳ぎが上手くないから全然浮き上がれなくて、水もすごく飲んじゃうし息もできなくて苦しかった。手に入れた食べ物もどこかへ行ってしまった。
 そのうち体がどんどん沈んできちゃって、どっちが上なのか下なのか分からなくなってただ必死にもがいていた。でも、お腹も空いていたしずっと歩き回ってヘトヘトだったから、体力に限界が来てだんだん手足が動かなくなってきた。

 ああ、もうダメかも… そんな時、子どもたちの顔が脳裏に浮かんだの。

 ごめんね、お母さんヘマしちゃった。あんた達の元へ帰れないかもしれない。でも、あたしが死んだらきっとあの子達も死んでしまう。誰にも気づかれずに、お腹を空かせて死んでしまうなんて。そんなのイヤだ…!!

 ねえ、だからあなたは子どもたちを助けてあげて。まだ会えてないけれど、どうかよろしくね──

 彼女の体がゆっくり底の方へ沈んでいった。瞳を閉じ、体中の力が抜けている。その側に、ザブン!と大きな黒い影が落ちた。

 ***

「どうでしたー?!」
 男が橋の上から声をかける。と、人影が川の横にあるはしごを登り、上の道路へたどり着いた。
「何とか捕まえた」
 全身がずぶ濡れになった男が何かを仲間に見せる。ぐったりした体がそこにあった。

「生きてます…?」
 男は無言でそれを道に横たえ、胸元に手をやる。そして規則的に圧迫した。鼻に息を吹き込み。また圧迫を始める。
 やがてそれは水を吐き、わずかに動いた。

「生きてる…!」
 男は再度胸を確認し、心臓が動き出すのを感じる。手早く彼女を毛布に包み、冷えないようにそっと抱いた。

「事務所へ連れて行こう。子猫は?」
「もう保護してます」
「なら、急いで帰るぞ」
 部下はハイと答え、車のエンジンをかけた。

「なかなか拿捕だほできないし、今日は姿を見せないからどうしたのかと思っていたが、まさかこんな事になっているとはな。間に合ってよかった」
「本当ですね」
「もう心配ないからな。ちゃんと引き取り手も見つけてやるから」
とぐったりした母猫に声をかける。

 彼女はまだ意識が戻っていないようだが、心なしかさっきより穏やかな顔をしているようだった。

   了

 締切が間に合わなかったのでこちらで公開しました! どうぞよろしくお願いします。

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