59話 二塁打 Stuck on Second 【後期青春編】波打際スケッチ Sketches of the Shoreline ~AIと創る青春物語~
久しぶりに杏子の夫が帰ってきた。
たまには家庭料理が食べたいだろうと、手作りの料理をいくつも並べた。
外食や弁当やインスタントラーメンで済ませているであろう夫は、愛妻料理と野球のテレビを前に、どこか嬉しそうだった。

東北の中堅都市に赴任している英男は、缶ビールの二本目を開けながら思う。
もう勤めて三十数年。
けれど――たいして出世もしなかった。
気づけば、上司はずいぶん前から年下ばかりだ。
悔いはない。
ただ、仕事に対する情熱は、いつの間にか薄れていた。
もともと英男は野球が好きなスポーツマンタイプで、積極的で、人付き合いも得意だった。
お客様とも上手くやれたし、知識も経験も負けていないはずだった。

テレビの中で、ひいきのチームが二塁打を放つ。
しかし、手を叩くわけでもなければ、歓声をあげるわけでもない。
その背中を、杏子はそっと見て思う。
――髪の毛、だいぶなくなったわね。
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