アフリカのブロックチェーンは「投機」だけではない|資金が集まる5つの実用領域と日本の商機 《アフリカ・ブロックチェーン最前線 2026 第2回》
「ブロックチェーン」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、ビットコインのような暗号資産(仮想通貨)でしょう。値動きが激しく、投機の対象になりやすい、そんなイメージです。
しかし、2025年のアフリカで資金の中心となったのは、新しいブロックチェーン基盤を一から作る企業ではありませんでした。
決済、送金、融資、本人確認、不正対策など、既存の経済活動が抱える摩擦を減らすサービスに、多くの資金が向かっています。
独自トークンを発行するICO(新規暗号資産の発行による資金調達)も、全体の約2割を占めました。

暗号資産が消えたわけではありません。暗号資産やブロックチェーンを、現実のサービスにどう結びつけるかが問われる段階に入っているのです。
第1回では、アフリカのブロックチェーン投資額が減少する一方、案件数は世界全体と比べて底堅く、資金調達先も多様な用途に及んでいることを見ました。
CV VC × Absa『African Blockchain Report 2025』(第5版)を基礎資料として、アフリカにおけるWeb3の現在地を探るレポート解説シリーズ『アフリカ・ブロックチェーン最前線2026』。
今回は一歩踏み込んで、その資金がいったい何に使われているのかを、実際に資金を集めた企業から読み解きます。
1. 資金の約7割は「中央集権型サービス」へ
まず、お金の流れ先を大きくつかみます。
2025年、アフリカのブロックチェーン企業が集めた資金は、分野別に次のように分かれました。
中央集権型ブロックチェーンサービス:67.9%
分散型金融(DeFi):23.1%
インフラ・開発者ツール:5.5%
データ管理・検証・分析:3.4%
ここで注目すべきは、二つの点です。
一つは、資金の約7割が「中央集権型サービス」に向かったこと。
分かりやすく言えば、独立した新しいブロックチェーンを構築するのではなく、企業が運営主体となって、既存の顧客や事業者に決済・融資・送金などのサービスを提供する領域です。
消費者向けのアプリだけでなく、決済事業者向けのAPIやステーブルコインの流動性基盤、企業間(B2B)決済レール、貿易金融のインフラも含まれます。

もう一つは、レポートの業種分類でみると、独立した「プロトコル層・ブロックチェーンネットワーク」(取引やデータ処理の基盤となる仕組み)そのものへの投資が、2025年はゼロだったことです。
資金の中心は、基盤チェーンそのものより、決済や融資といったアプリケーション層へ移っています。
少なくとも2025年の資金配分を見るかぎり、投資家の関心は、新しい基盤を一から作ることより、既存の経済活動で使えるサービスへ強く向いていました。ここに、この一年の特徴があります。

2. 暗号資産を実用につなぐ——5つの領域から見る注目企業
抽象的な話が続いたので、ここからは具体的な企業を見ていきます。
レポートには2025年に資金を調達した28社が並びます。そのすべてを紹介するのではなく、実経済に近い5つの領域から、代表的な企業を取り上げます。

① 決済:Cedar Money(越境B2B決済)
Cedar Moneyは、ステーブルコイン(米ドルなどに価格を連動させた暗号資産)を使った、企業間の越境決済インフラを手がけます。本社は米国ですが、事業はアフリカ全域が中心です。

従来、アフリカに関わる企業間の越境送金は、コルレス銀行(海外送金を仲介する提携銀行)を何段も経由することが多く、時間もコストもかさみました。
Cedar Moneyは、その間をステーブルコインでつなぎ、コルレス銀行への依存や事前の資金手当ての必要性を減らして、着金までの時間とコストの圧縮を目指します。
2025年のシード調達額は990万ドル(約16億円)で、フィンテック投資で知られるQED Investorsが主導し、LatticeやStellarなども参加しました。

② 信用・融資:Kredete・Carrot Credit(送金と担保融資)
信用の領域からは、性格の違う2社を挙げます。
Kredeteは、2025年のアフリカのブロックチェーン案件で最大の資金を集めた企業です。調達額は2,200万ドル(約35億円)にのぼりました。
北米や欧州に暮らすアフリカ系移民(ディアスポラ)向けに、ステーブルコインを使った送金サービスを提供しています。

従来のコルレス銀行やSWIFT(国際銀行間送金網)に依存する送金経路を代替し、数日かかっていた送金を数分に、手数料を1ドル未満に抑えると説明しています。
特徴的なのは、送金の履歴を「信用情報」に変えている点です。同社の公表によると、利用者は70万人を超え、米国のクレジットスコアは平均58ポイント改善したとされています。送金と信用履歴の構築を一体にした設計です。

もう1社のCarrot Creditは、ナイジェリアを拠点に、株式やETF(上場投資信託)、暗号資産などの保有資産を担保にした融資を手がけます。
ユーザーはこれらの資産を売却せずに、その価値を担保として資金を借りられます。

給与履歴や従来の信用情報を主な根拠にするのではなく、保有する投資資産を担保に融資する点が、一般的な無担保ローンとの違いです。
2025年のシード調達額は420万ドル(約6.7億円)でした。

③ 実物資産:RentStac(不動産のトークン化)
RentStacは、不動産を保有する特別目的会社(SPV)と独自トークンを結びつけ、将来的に不動産への小口投資や収益分配を可能にする仕組みを構築しています。
アフリカの不動産投資は、最低投資額が大きく、いったん買うと売りにくいという壁がありました。
RentStacの計画では、物件を専用の器(SPV)で保有し、その賃料収入などをスマートコントラクト(条件を満たすと自動実行される契約プログラム)を通じて投資家へ分配する設計です。
『African Blockchain Report 2025』は、2025年にICO(新規暗号資産の発行による資金調達)で約255万ドル(約4.1億円)を調達したと計上しています。
ただし、現在の同社公式サイトではプレセールの調達額が0ドルと表示されており、レポートとの集計時点や定義の違いは外部から確認できません。
また、トークン化された不動産では一般に、実際の物件保有や権利関係、規制適合性、収益分配の実績を個別に確認する必要があります。
「実物資産に連動する」という名称だけで、安全性や利回りが保証されるわけではありません。

④ 本人確認:OkHi(デジタル住所認証)
OkHiは、掲載企業のなかで最も古く、2014年から住所認証に取り組んできた企業です。

アフリカの多くの地域では、住所制度が十分に整備されていなかったり、金融機関や配送事業者が住所を簡単に確認できなかったりします。
これが、金融機関の本人確認(KYC)や、ECの配送、与信の壁になってきました。
レポートによると、OkHiはGPS座標や写真、構造化された住所情報を組み合わせて住所を確認し、その記録が改ざんされていないことをブロックチェーンで証明できる仕組みを構築しています。
金融機関やEC、物流事業者は、それをAPIで参照します。なお現在の同社は、AIによる住所確認を主要な訴求点としています。累計調達額は500万ドル(約8億円)です。

⑤ 不正対策:Orca Fraud(リアルタイム不正検知)
Orca Fraudは、南アフリカを拠点に、金融取引の不正検知サービスを提供します。

デジタル金融が急速に広がる新興国では、不正取引のリスクも高まります。
Orca Fraudは、AIによる異常検知と、取引記録の改ざんを検知できるブロックチェーンの監査基盤を組み合わせ、リアルタイムで不審な取引を見つけます。2025年のシード調達額は235万ドル(約3.8億円)でした。

3. 用途は旅行・農業・物流・モビリティへ
ここで取り上げた企業に共通するのは、暗号資産そのものの値上がりだけを目的とした事業ではなく、決済・与信・資産・本人確認・不正対策といった既存の課題との接点を持っていることです。
ただし、RentStacのように独自トークンの値動きや利回りを伴うモデルもあり、実用性があることと投資リスクが低いことは同義ではありません。
そして、用途はこの5領域にとどまりません。
レポートには、旅行代金の決済を手がけるTurnStay、電動バイクとバッテリー交換を運営するEnzi Motors、農業取引の決済やエスクロー・保険・信用形成を支えるAXK、アフリカ産品の輸出を原産地証明や決済精算の面で支えるNiteonなども並びます。
ブロックチェーンが、旅行・農業・物流・モビリティといった現実の産業に染み出している様子がうかがえます。

4. なぜ「新しいチェーン」より「使えるサービス」なのか
では、なぜアフリカの資金は実用サービスへ集まったのでしょうか。
背景には、市場そのものの切実さがあります。国や都市によって状況の差は大きいものの、アフリカには、銀行口座を持たない人、正式な住所を持たない土地、為替が不安定な国が数多くあります。

つまり、先進国では当たり前に整っているインフラの「空白」が大きいのです。
その空白を、新しいコインの値上がりで埋めることはできません。埋められるのは、送金を速くする、住所を証明する、担保で借りられるようにする、といった地に足のついたサービスです。

少なくとも2025年の資金調達を見るかぎり、投資家はブロックチェーンを、値上がりを狙う商品としてだけでなく、生活や商売の摩擦を減らす道具として評価しています。
第1回で見た「新規プロトコルへの投資はゼロ」という分類も、同じ方向を指しています。
アフリカのブロックチェーンは、技術そのものだけでなく、具体的な課題をどう解くかが、より強く問われる段階に入っています。

5. 日本企業にとっての意味—関わり方は出資だけではない
最後に、日本のビジネスパーソンにとっての意味を考えます。
これらの企業を見て、まず気づいてほしいのは、扱っている課題がどれも普遍的だということです。
越境決済のコスト、本人確認の手間、不正のリスク——これらは日本企業も日々向き合っているテーマです。
アフリカのスタートアップは、それらの課題がより切実に表れる「インフラの空白が大きい市場」で解決策を磨いています。

弊社アクセルアフリカがケニアで日本企業と話していると、「アフリカのブロックチェーン企業に出資する」という発想でとまってしまう方が少なくありません。
しかし、関わり方は出資だけではありません。自社の技術を提供する、販売網でつなぐ、規制対応やセキュリティを支援する、あるいは事業会社としてサービスを導入するなどさまざまな入り口があります。

たとえば不正検知や本人確認は、日本にも強い技術を持つ企業があり、現地スタートアップとの連携余地は小さくないはずです。
大切なのは、「アフリカ×ブロックチェーン」を投機の話として遠ざけないことです。
そこにあるのは、決済・信用・本人確認という、どの経済にも必要な土台づくりです。

次回・第3回では、この土台のなかでもいま最も注目される「ステーブルコイン」に焦点を当て、なぜアフリカでは銀行送金を補うレールとしてステーブルコインが選ばれるのかを掘り下げます。

❚ アフリカのフィンテック・ブロックチェーン領域での事業連携をお考えの方へ
アフリカのブロックチェーンは、決済・与信・本人確認・不正対策といった実用領域で、現実の課題を解くサービスへと育っています。
アクセルアフリカは『日本とアフリカ諸国をつなぎ、社会課題解決型ビジネスを共創することで、アフリカの持続的成長に貢献する』をビジョンに掲げる日系コンサルティング会社です。
ケニアに事務所とコミュニティハウスを構え、アフリカ主要国をカバーしながら、市場調査から現地スタートアップの発掘・提携先探索・事業開発支援まで一気通貫でサポートしています。
「出資に限らず、技術連携や販売パートナーとしてアフリカ市場に関わりたい」とお考えであれば、ぜひお気軽にご相談ください。
❚ 注釈
本記事は、CV VC × Absa『African Blockchain Report 2025』(第5版)を基礎資料としています。そのうえで、レポートの数値を入口に、独自に確認した一次情報を参照して補足・照合しています。
レポートには業界当事者(ブロックチェーン投資家、暗号資産取引所、ステーブルコイン事業者など)による寄稿が含まれるため、これらは業界側の見方として扱っています。参照元は記事末尾に一覧で掲載します。
本記事は、CV VC × Absa『African Blockchain Report 2025』を解説する全4回シリーズの第2回です(第1回はこちら)。
ドル建て金額の日本円換算は、1ドル=160円で計算した概算です(本シリーズは比較可能性を優先し、全4回を通じて1ドル=160円で統一しています)。
投資・企業データは原則として2025年、規制・政策情報は特記なき限り2026年7月時点で確認しています。各企業のデータは、原則として同レポートの掲載内容(2025年時点)に基づきます。
❚ 参照元
【基礎資料】
CV VC × Absa『African Blockchain Report 2025』(第5版) https://www.cvvc.com/insights
【独自に参照した一次情報(企業公式など)】
Cedar Money(決済) https://www.cedar.money/
Orca Fraud(不正対策) https://orca-fraud.com/
世界銀行 Global Findex Database(金融包摂・銀行口座保有率の背景データ) https://www.worldbank.org/en/publication/globalfindex
上記以外の各社(Kredete・Carrot Credit・RentStac・OkHi 等)の概要は、本レポートの掲載内容にもとづきます。

