見出し画像

アフリカのブロックチェーン投資は26%減|案件シェアは過去最高、見落としがちな「縮小」の正体【第1回】

アフリカのブロックチェーン企業への投資額が、1年で26.6%も減りました。

ところが同じ年、アフリカが世界のブロックチェーン投資案件に占める割合は、過去最高を更新しています。

「金額は減ったのに、存在感は高まった」。一見すると矛盾するこの数字を、どう読めばいいのでしょうか。

投資額の減少だけを見れば、「アフリカのブロックチェーンは失速した」と結論づけたくなります。

ただし、それだけでは2025年に起きた変化の半分しか捉えられません。残る半分の正体は、資金調達データを一つずつ分解していくと見えてきます。

「金額減・シェア増」というねじれを、順にほどいていきましょう。

今回のレポート解説シリーズ『アフリカ・ブロックチェーン最前線2026』では、CV VC × Absa『African Blockchain Report 2025』(第5版)を基礎資料として、アフリカにおけるWeb3の現在地を探っていきます。


1. まず前提—2025年、世界の投資は「回復」した

アフリカの話に入る前に、世界全体の温度を押さえておきます。

2025年、世界のブロックチェーン企業への投資は、前年比28.8%増の154億ドル(約2.5兆円)でした。金額でみれば、明確な回復です。

ただし、案件数は逆に32.1%も減っています。全体で996件でした。

これが何を意味するか。単純平均でみると、1件あたりの投資額が大きく上昇したということです。

世界のブロックチェーン投資マネーは、少数の大型案件に集中する流れにあります。

この「金額は増え、件数は減る」という世界の潮流が、アフリカの数字を読むうえでの補助線になります。

なお、『African Blockchain Report 2025』でいう「ブロックチェーン企業」は、ブロックチェーンを主要事業とする企業、または主要サービスの実現にブロックチェーン技術が不可欠な企業を指します。

暗号資産取引所やトークン関連事業も含まれ、一定条件を満たすICO(新規暗号資産の発行による資金調達)も資金調達として計上されています。この中身は第2回で詳しく扱います。

2. アフリカは26.6%減、それでも案件数はほぼ横ばい

では、アフリカはどうだったか。

2025年、アフリカのブロックチェーン企業が調達した資金は、9,010万ドル(約144億円)でした。前年比で26.6%の減少です。

金額だけを見れば、たしかに大きく落ち込んでいます。

ところが、案件数の減少は比較的小幅です。前年の30件から28件へ、6.7%の減少にとどまりました。

つまりアフリカでは、「投資された金額」は大きく減った一方で、資金調達案件の数は比較的保たれたのです。世界全体が案件数を3割減らしたのとは、対照的な動きでした。

3. 同時に起きた二つのシェア—「案件は過去最高、資金は半減」

ここからが、この回の本題です。

アフリカの「世界に占めるシェア」を測るとき、実は二つの異なる数字があります。そして両者は、正反対の方向に動きました。

① 世界の案件数シェアは2.81%へ(過去最高)

世界のブロックチェーン投資案件のうち、アフリカ企業が占める割合は、前年の2.04%から2.81%へ上昇しました。これは過去最高の水準です。

ただし、案件の絶対数は30件から28件へ、むしろ減っています。増えたのは「割合」のほうです。

世界全体の案件数がそれ以上のペースで減少したため、世界の投資案件のなかでアフリカが登場する相対的な頻度が高まりました。

案件数のベースでみれば、世界全体と比べてアフリカの案件数は底堅く推移したといえます。

② 世界の資金額シェアは0.58%へ(ほぼ半減)

一方、世界のブロックチェーン投資「金額」に占めるアフリカの割合は、前年の1.02%から0.58%へ下がりました。ほぼ半減です。

『African Blockchain Report 2025』自身も、この点を率直に認めています。

アフリカは案件(ディールフロー)を生み出しているが、他の地域に集中する大型案件を取り込めていない、という趣旨です。

「存在感が高まった」というとき、それは案件数の話です。投じられた資金の取り分でみれば、アフリカのシェアはむしろ縮んでいます。

ここを取り違えると、2025年のアフリカ市場そのものを、まるごと見誤りかねません。

4. アフリカのVCマネーの中でも、ブロックチェーンは後退した

もう一つ、見落とせない数字があります。

2025年、同レポートの集計によるアフリカのスタートアップ全体へのベンチャー投資額は、前年比11.1%増の17億ドル(約2,700億円)でした。

案件数は前年の489件から407件へ減ったものの、資金額ベースではアフリカのVC市場が回復しています。

にもかかわらず、そのうちブロックチェーンが占める割合は、前年の8.0%から5.3%へ低下しました。

アフリカの投資マネー全体が増えるなかで、ブロックチェーンは他のセクターに相対的に資金の取り分を落としました。

別の集計では、2025年のアフリカではクリーンテックやエンタープライズ、Eコマース、ヘルステックなどが伸びたとされます。

ただし、調査ごとに投資の定義や対象案件が異なるため、単純な比較には注意が必要です。

ナイロビで暮らしていると、この「静かな後退」はデータほど実感しにくいものです。

街の若い起業家と話すと、暗号資産やステーブルコインの話題はむしろ増えています。

海外のフリーランス報酬をUSDT(米ドル連動のステーブルコイン)で受け取る、という声も珍しくありません。ただ、そうした草の根の広がりと、大口の投資マネーが集まるかどうかは、別の問題なのです。

5. お金は、一握りの大型案件に集まっている

「金額が減った」の中身を、もう少し分解してみます。

① 平均と中央値が示す「大型案件への偏り」

2025年のアフリカのブロックチェーン案件は、1件あたり平均320万ドル(約5.1億円)でした。一方、中央値は190万ドル(約3.0億円)です。

平均が中央値を上回るのは、少数の大型案件が全体を押し上げ、分布が右に偏っているためです。

実際、上位5案件だけで全体の58.3%を占めています。多くの案件は小粒で、一部の大型調達が金額を稼ぐ構造でした。

前年にあった2,500万ドル(約40億円)超の大型案件が2025年には見当たらないことも、金額減少の一因です。

② 資金の多くはシード期に集中

案件の段階でみると、28件のうち13件がシード(初期段階)ラウンドでした。開示された調達額の45.8%が、このシード期に集中しています。

裏を返せば、初期段階の資金は一定程度回っているものの、その後の中期・成長段階へまとまった資金をつなぐ層が薄い、ということです。

レポートも、中期・成長段階の資金供給に構造的な空白があると指摘しています。

③ 上位3区分で9割超

地域別の偏りも顕著です。

複数国で事業を展開する「汎アフリカ」企業が5,150万ドル(約82億円)で全体の57.2%、南アフリカが1,900万ドル(約30億円)で21.1%、ナイジェリアが1,220万ドル(約20億円)で13.5%。この上位3区分だけで、全体の91.8%を占めます。

なお「汎アフリカ」は国名ではなく、複数国にまたがって事業を行う企業をまとめた区分です。

残るエジプト、ケニア、ガーナ、ルワンダを合わせても、全体の8.2%にとどまりました。

6. 「全面的な失速」ではなく「成長資金の不足」

ここまでの数字を見ると、2025年のアフリカでブロックチェーン投資額が縮小したこと自体は事実です。

ただし、これを市場全体の需要や起業活動が一斉に失速した結果と断定するのは早いでしょう。

案件数は30件から28件への減少にとどまり、世界全体より底堅く推移しました。資金調達先も、決済、送金、融資、実物資産のトークン化、本人確認、不正検知など幅広い領域に及んでいます(用途の中身は第2回で詳しく見ます)。

一方で、目立つのは大型案件の不足です。初期段階の資金は一定程度供給されているものの、その後の中期・成長段階へまとまった資金をつなぐ層が薄い。

データ上、より鮮明に縮んだのは、案件数そのものよりも、大型案件を呼び込み、企業を次の成長段階へ押し上げる資本の厚みでした。

少なくとも資金調達データを見るかぎり、この状況を単純な「案件の消失」だけで説明することはできません。

世界のブロックチェーン投資が少数の大型案件へ集中するなか、アフリカは案件数では相対的な存在感を高めながら、資金額では取り分を落としました。この非対称こそが、2025年のアフリカを象徴する構図です。

7. 日本企業・投資家にとっての意味

では、この「ねじれ」を日本のビジネスパーソンはどう受け止めればよいのでしょうか。

まず、「アフリカのブロックチェーン投資は26%減」という見出しだけで判断を止めないことです。

数字の後退は、市場の魅力が失われたことを必ずしも意味しません。案件の数は底堅く、用途も幅広い一方で、大口資金だけが手薄になっている状態です。

弊社アクセルアフリカがケニアを拠点に日本企業と話していると、「アフリカ×暗号資産」という言葉だけで、投機的だと敬遠されるケースが少なくありません。

しかし実際には、資金の多くが、後の回で見るように決済や送金、信用形成といった実用的な領域へ向かっています。

「投機」という先入観だけで市場全体を見送ってしまうのは、惜しい判断だと感じます。

成長段階の資金が不足している市場は、日本企業にとって参入余地になり得ます。

ただし、それは必ずしも「簡単に投資できる」という意味ではありません。

後続資金、規制、流動性、そして出口戦略まで見通せる案件を選別する必要があります。初期段階の案件が継続して生まれている市場だからこそ、次の成長を支える資金と知見をどう持ち込むかが問われます。

そこに、日本の投資家や事業会社が関与する余地があるのではないでしょうか。

次回・第2回では、「では、アフリカのブロックチェーンは具体的に何に使われているのか」を、実際に資金を集めた企業から読み解いていきます。

❚ 関連note

❚ アフリカのブロックチェーン・フィンテック市場への参入を検討されている方へ

アフリカのブロックチェーン投資は、金額こそ調整局面にありますが、決済・送金・信用形成といった実用領域では、資金を調達するスタートアップが継続して生まれています。

アクセルアフリカは『日本とアフリカ諸国をつなぎ、社会課題解決型ビジネスを共創することで、アフリカの持続的成長に貢献する』をビジョンに掲げる日系コンサルティング会社です。

ケニアに事務所とコミュニティハウスを構え、アフリカ主要国をカバーしながら、市場調査から現地スタートアップの発掘・提携支援まで一気通貫でサポートしています。

「一次情報にもとづいてアフリカのデジタル金融市場を見極めたい」とお考えであれば、ぜひお気軽にご相談ください。

❚ 注釈

  • 本記事は、CV VC × Absa『African Blockchain Report 2025』(第5版)を基礎資料としています。そのうえで、レポートの数値を入口に、独自に確認した一次情報を参照して補足・照合しています。

  • レポートには業界当事者(ブロックチェーン投資家、暗号資産取引所、ステーブルコイン事業者など)による寄稿が含まれるため、これらは業界側の見方として扱っています。参照元は記事末尾に一覧で掲載します。

  • 本記事は、CV VC × Absa『African Blockchain Report 2025』を解説する全4回シリーズの第1回です。

  • ドル建て金額の日本円換算は、1ドル=160円で計算した概算です

  • 投資・企業データは原則として2025年、規制・政策情報は特記なき限り2026年7月時点で確認しています。

  • 同レポートの資金調達集計は、原則として10万ドル以上の公開・確認可能な案件を対象とし、デットファイナンス・補助金・M&A・セカンダリー取引などを除外しています(調査方法は原本9ページ)。

  • そのため、本記事の投資額は、アフリカのブロックチェーン企業に流れた資金の全量を示すものではありません。

❚ 参照元

  • 【基礎資料】 CV VC × Absa『African Blockchain Report 2025』(第5版) https://www.cvvc.com/insights

  • 【外部比較(参考)】 Partech『2025 Africa Tech Venture Capital Report』 ※株式・負債を含む独自集計であり、CV VC × Absaレポートの全セクターVC集計とは対象・定義が異なります。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー