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ステーブルコインがアフリカの銀行網をつくり直す!?送金・貿易決済のコスト革命と日本への示唆 《アフリカ・ブロックチェーン最前線 2026 第3回》

2025年第1四半期、サブサハラ・アフリカへ200ドル(約3.2万円)を送るときの平均コストは、送金手数料と為替マージンを合わせて8.78%でした。

世界でも最も高い地域水準です(世界銀行の送金コスト統計)。

一方、レポートに寄稿した不正検知企業のOrca Fraudは、ステーブルコインを使う送金レール(お金を移動させる仕組み)ならコストを1%未満に抑えられる場合があると説明しています。

ただしこれは業界側の試算で、購入や現地通貨への換金にかかる手数料、為替スプレッドを含む実際の総コストは、事業者や経路によって異なります。

ステーブルコインとは、米ドルや現地通貨など、特定の法定通貨に価格を連動させるよう設計された暗号資産です。

大幅な値上がりを狙うのではなく、価格の安定を目指してつくられています。

USDTやUSDCのようなドル連動型は、いわば「デジタルのドル」として使われています(ただし、必ず価格を維持できるとは限りません)。

第1回ではアフリカのブロックチェーン投資の全体像を、第2回では資金が集まる実用サービスを見てきました。

CV VC × Absa『African Blockchain Report 2025』(第5版)を基礎資料として、アフリカにおけるWeb3の現在地を探るレポート解説シリーズ『アフリカ・ブロックチェーン最前線2026』。

第3回の今回は、ステーブルコインを取り上げます。なぜアフリカでは、銀行送金を補うレールとしてステーブルコインが選ばれるのか。その理由を、送金・貿易・規制の順にほどいていきます。


1. なぜアフリカでステーブルコインなのか

まず押さえたいのは、アフリカで既存の銀行送金がいかに"重い"か、という点です。

個人の国際送金では、銀行や送金事業者、現金受取拠点、モバイルウォレットなど複数の事業者が関わり、送金手数料と為替マージンが積み重なります。

企業間や貿易の決済では、複数のコルレス銀行(海外送金を仲介する提携銀行)を経由し、中継銀行ごとに手数料や為替コストが加わるうえ、事前の資金手当てが必要になることもあります。

着金まで数日かかるケースも珍しくありません。

背景には、ドル不足と為替の不安定さもあります。自国通貨の価値が下がりやすい国では、人々も企業も、価値の保存手段としてドルを求めます。

しかし正規のドルは手に入りにくい。この「ドルが欲しいのに届きにくい」という状況が、ドル連動ステーブルコインへの需要を生んでいます。

冒頭で触れた「8.78%」は、世界銀行がサブサハラ・アフリカ向けの小口送金について算出した平均コストです。

国際送金は、移民労働者が母国の家族へ生活費を送るためにも広く使われています。

1割近いコストは、受取世帯の生活に直接響きます。ステーブルコインが注目される大きな理由は、投機だけではなく、この摩擦を減らせる可能性があるからです。

2. USDT・USDCが送金と価値保存のレールに

需要は、数字にはっきり表れています。

Chainalysisによると、サブサハラ・アフリカが受け取ったオンチェーン(ブロックチェーン上)の価値は、2024年7月から2025年6月までで2,050億ドル(約32.8兆円)を超え、前年同期比で約52%増えました。

世界で3番目に成長率が高い地域です(レポートのOrca Fraud寄稿も、このデータを引用しています)。

また、本レポートは、サブサハラ・アフリカの暗号資産取引量の約43%をステーブルコインが占めるとしています。

Chainalysisの2024年の公開分析でも、同じ43%という割合が示されています。

つまりサブサハラ・アフリカの暗号資産市場では、ステーブルコインが投機以外の実需を支える主要な資産の一つになっています。

象徴的なのが、アフリカ各国で事業を展開する暗号資産企業Yellow Cardの例です。

同社によると、その取引構成は2019年には100%がビットコインでしたが、2020年にUSDT(代表的なドル連動ステーブルコイン)を追加すると、数か月のうちに99%がステーブルコインに切り替わったといいます。

国別では、ナイジェリアが際立ちます。

レポートは、Chainalysisの2024年版をもとに、ナイジェリアが暗号資産全体の普及度で世界2位に位置し、ステーブルコイン利用でも世界有数の市場だと紹介しています。

レポートによると、2024年7月から2025年6月にかけての暗号資産の取引規模は約921億ドル(約14.7兆円)、推定利用者は約2,600万人で、取引量の約43%をステーブルコインが占めました。

ナイラ(ナイジェリアの通貨)の変動と、時折起きるドル不足が、この動きを後押ししています。

ナイロビで暮らしていると、この変化の一端は身近に感じます。海外の企業から報酬を受け取るフリーランスの知人が、銀行送金ではなくUSDTでの受け取りを選ぶ、という話は珍しくありません。

着金が速く、手数料が安く、ドル建てで価値を保てるからです。もっとも、こうした草の根の広がりと、制度としての安全性は別の問題でもあります。

3. 送金から貿易・旅行へ——広がる用途

ステーブルコインの用途は、個人の送金にとどまりません。

分かりやすい例が、旅行業です。レポートに寄稿した旅行決済企業TurnStayは、アフリカの国際観光収入約426億ドル(約6.8兆円)を基礎に、決済摩擦による年間損失を7億〜22億ドル(約1,100億〜3,500億円)と試算しています。

高額な旅行予約では、宿泊施設・ツアー会社・代理店などの間で5〜9回の国際決済が生じることがあり、手数料の合計が150ドル(約2.4万円)を超える場合もあるといいます。

いずれも同社の試算・事例で、独立した監査統計ではありませんが、ドル建て決済の重さを示す一例です。

同社は、こうしたコストをステーブルコインで圧縮できると主張します。

ただしTurnStayはステーブルコイン決済を自社サービスに活用する当事者であり、この試算は同社によるものである点は割り引いて読む必要があります。

実際、同社自身も「ステーブルコインは万能薬ではない」と述べ、規制の不均一さ、現地通貨への交換(オフランプ)の未成熟、事業者の理解不足といった課題を挙げています。

それでも、越境の企業間決済や貿易代金の精算でも、ステーブルコインを「共通のレール」として使う動きは広がっています。第2回で紹介したCedar MoneyやKredeteも、この流れのなかにいます。

4. 現地通貨の「オンチェーン化」も始まった

いま主役はUSDTやUSDCといったドル連動ステーブルコインですが、もう一つの動きも出てきています。現地通貨に連動したステーブルコインです。

レポートは、ステーブルコインが「単なる暗号資産の一種ではなく、独立した規制カテゴリー」として立ち上がりつつあると指摘します。

Yellow Cardが執筆した規制章によると、ナイジェリアの中央銀行(CBN)は2025年10月にステーブルコインの作業部会を設け、ナイラ連動型を検討しているとされます。

レポート時点では、2026年3月に閣議承認され議会へ送られたルワンダの法案が、全額準備を条件に外貨連動ステーブルコインの発行を認める一方、フラン連動のトークンを禁じる設計を示していました。

その後、ルワンダ下院は同年5月、仮想資産事業を規律する法律を採択しています。

民間でも、ナイジェリアではナイラ連動のcNGN、南アフリカではランド連動のZARPなど、現地通貨ステーブルコインの取り組みが出てきています。

狙いは、ドルだけでなく現地通貨そのものをオンチェーンに載せ、国内外の決済に使えるようにすることです。

ただし、これらはまだ発展の初期段階であり、普及の度合いや準備資産の裏づけは、個別に確認する必要があります。

5. 為替改革が変える「正規」と「非公式」の境界

ステーブルコインの需要を左右するもう一つの要因が、主要な送金国で進む為替改革です。

公式レートと市場レートの差が大きいほど、送金はハワラやP2P、無規制のステーブルコインなど非公式ルートへ流れやすくなります。

逆に、為替レートが市場実勢に近づけば、銀行や認可事業者を通じた正規送金の競争力が回復します。

レポートも、為替の正常化と正規送金の回復に相関があると整理しています。

ナイジェリアは2023年6月に複数の為替市場を統合し、ナイラの相場形成をより市場ベースへ移しました。

同年12月には、銀行が暗号資産事業者を扱うことへの禁止も解いています。

本レポートによると、これと前後して、正規の送金流入は月あたり約2.5億ドル(約400億円)から約6億ドル(約960億円)へ増えたとされます。

さらに鮮明なのがエジプトとエチオピアです。

エジプトは2024年3月、IMFプログラムの一環として為替レートを大幅に柔軟化しました。

本レポートによると、2025年第1四半期の正規送金は前年同期比84.4%増の83.3億ドル(約1.3兆円)に増えています。

エチオピアも2024年7月、同じくIMFの条件のもとで市場ベースの為替へ移行しました。レポートは、最初の半年で正規の送金流入が36.5%増えたとしています。

ここに、この回でもっとも印象的な逆説があります。

エジプト中央銀行によると、同国は2025年に海外労働者から過去最高となる約415億ドル(約6.6兆円)を受け取りました。

レポートは、エジプトをアフリカ最大の送金受取国と位置づけています。

にもかかわらず、暗号資産サービスは中央銀行法(194/2020)によって事実上の全面禁止です。

送金需要は巨大なのに、暗号資産サービスとしての正規の入り口は閉じています。

レポートは、こうした禁止下でも、送金や価値保存を目的としたP2P(個人間)・プラットフォーム外でのステーブルコイン利用が広く報告されているとしています。

エチオピアはさらに極端です。

本レポートは、正規の送金流入を2024年で約65億ドル(約1兆円)とする一方、非公式分を含むディアスポラ(在外国民)からの資金は270億ドル(約4.3兆円)以上に達し、その約78%が非公式のハワラ(伝統的な送金網)や無規制のステーブルコインを経由すると推計しています。

ただし、この総額と比率について、レポート内に原典・推計方法は示されておらず、独立した確認が必要です。

為替レートが市場実勢に近づくと、正規ルートの相対的な魅力が高まり、公式統計上の送金が増える可能性があります。

エジプトやエチオピアの数字は、その関係を示唆していますが、非公式資金がどの程度正規へ移ったかを直接測ったものではありません。

6. 銀行と競合するのか—リスクと留保

ここまで利点を見てきましたが、ステーブルコインは万能ではありません。注意点も、あわせて見ておきます。

第一に、不正利用のリスクです。FATF(金融活動作業部会)は、Chainalysisの推計を引用し、2025年に確認された違法な暗号資産取引量の84%をステーブルコインが占めたとしています。

これは、ステーブルコイン取引の84%が違法という意味ではありません。とはいえ、決済に便利なレールは、不正な資金にとっても便利なレールになりえます。

FATFも、ステーブルコインには正当な用途がある一方、その流動性や相互運用性が犯罪者にも利用され得るとして、発行体・仲介業者・P2P取引を含む監督の強化を求めています。

第二に、準備資産と換金性の問題です。

「1コイン=1ドル」を保つには、発行体が現金や短期国債など、十分な価値と流動性を持つ準備資産を確保している必要があります。

裏づけが不十分なステーブルコインは、いざというときにドルへ換金できず、価値が崩れる恐れがあります。

TurnStayも「構造の甘いステーブルコインは実際にリスクを抱える」と述べています。

第三に、規制の不均一さです。

第4回で見るように、明確な規制を整えた国は増えていますが、大陸全体ではまだ整備の途上です。

銀行にとって、ステーブルコインは競合であると同時に、規制と組めば新しい決済インフラの一部にもなりえます。

本レポートによると、南アフリカではYellow CardがStandard BankとNedbankの支援のもとで第三者決済事業者としての承認を得るなど、銀行の支援を受けながらクリプト企業を国内の決済制度へ接続する動きも始まっています。

つまり、タイトルにある「つくり直す」とは、銀行を消すことではありません。

既存の銀行網が埋められなかった隙間を別のレールで先に埋め、やがて銀行や規制と接続していく、そう捉えるのが現実的でしょう。

7. 日本の銀行・商社・送金企業への示唆

では、この動きを日本のビジネスパーソンはどう受け止めればよいのでしょうか。

一つの見方は、アフリカが「次の決済インフラ」を先取りしている、というものです。銀行口座やコルレス送金が前提の日本とは、出発点が違います。

口座を持たない人が多く、為替が不安定で、既存の送金が高い。

その環境だからこそ、ステーブルコインが現実の道具として選ばれています。日本の常識をそのまま持ち込んでも、この市場は読み解けません。

弊社アクセルアフリカがケニアで日本企業と接していると、アフリカの決済といえばまだ「M-PESAのようなモバイルマネー」で認識が止まっている方が多い印象です。

しかし現場では、モバイルマネーが国内の受け皿となり、その裏側でステーブルコインが越境決済を担う構造が生まれ始めています。

日本の銀行・商社・送金事業者にとって、これは競合であると同時に、アフリカとの貿易・送金コストを下げる手段にもなりえます。

関わり方は、自ら発行することだけではありません。

現地の決済事業者と組む、コンプライアンスや不正対策の技術を提供する、貿易決済の実証に参加するなどさまざまな入り口があります。

最終回となる次回・第4回では、この動きを支える土台、すなわちアフリカ54法域の規制がどこまで進んだのかを見ていきます。

ステーブルコインが非公式ルートで使われる資産から、制度に接続された決済インフラへ進めるかどうかは、規制の整備にかかっています。

❚ アフリカの越境決済・ステーブルコイン領域に関心をお持ちの方へ

アフリカでは、送金・貿易・企業間決済の新しいレールとして、ステーブルコインが現実の存在感を強めています。

アクセルアフリカは『日本とアフリカ諸国をつなぎ、社会課題解決型ビジネスを共創することで、アフリカの持続的成長に貢献する』をビジョンに掲げる日系コンサルティング会社です。

ケニアに事務所とコミュニティハウスを構え、アフリカ主要国をカバーしながら、市場調査から現地パートナー連携・事業開発支援まで一気通貫でサポートしています。

「アフリカの決済インフラの変化を、一次情報にもとづいて見極めたい」とお考えであれば、ぜひお気軽にご相談ください。

❚ 注釈

  • CV VC × Absa『African Blockchain Report 2025』(第5版)を基礎資料としています。

  • そのうえで、レポートの数値を入口に、各国中央銀行・国際機関(IMF・世界銀行)・調査会社(Chainalysis)などの独立した一次情報を参照して補足・照合しています。

  • 本回で扱うステーブルコイン関連の記述は、Circleなどの発行体、Binance・Yellow Cardなどの暗号資産事業者、TurnStayなどの利用企業、Orca Fraudなどの周辺インフラ企業による寄稿に多くを負っています。これらは業界側の見方として扱い、公的資料と突き合わせています。

  • 参照元は記事末尾に一覧で掲載します。 

  • ドル建て金額の日本円換算は、1ドル=160円で計算した概算です(本シリーズは比較可能性を優先し、全4回を通じて1ドル=160円で統一しています)。

  • 投資・企業データは原則として2025年、規制・政策情報は特記なき限り2026年7月時点で確認しています。

  • エジプトの正規送金「84.4%増・83.3億ドル」はレポート表記の2025年第1四半期(Q1 2025)にもとづきます。

❚ 参照元

【基礎資料】 ・CV VC × Absa『African Blockchain Report 2025』(第5版) https://www.cvvc.com/insights

【独自に参照した一次情報】

【補足】 ・ドル円換算は1ドル=160円で計算(概算)。本シリーズは比較可能性を優先し、全4回を通じて1ドル=160円で統一しています。 ・


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