第8話:灰色の最高傑作|前編|管理官ニナの記録室|真相の標本箱|水平思考ゲーム
はじめに
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本編
【前編:鏡の表(おもて)】
「彼女は、壊れそうだったんです」
男は、静かにそう言った。

管理室《0番の仕切り》。
白い部屋。
その男だけが、
妙に“完成されて”見えた。
高級なスーツ。
洗練された所作。
柔らかな声。
芸能界で数々のスターを生み出してきた、
有名プロデューサー。
「この業界、醜いでしょう?」
男は疲れたように笑う。
「数字ばかり見られる」
「誰も、人間なんて見てない」
ニナは黙っている。
男は続けた。
「彼女、まだ若かったんです」
「透明で」
「無垢で」
「誰より綺麗だった」
その目だけが、
どこか熱に浮かされていた。
「でも」
「放っておけば、絶対に壊れてた」
「大人になって」
「擦り減って」
「凡庸な芸能人になって」
男は、ゆっくり目を閉じる。
「……そんな終わり方」
「彼女には、似合わなかった」
ニナは、紅茶を見る。
黒い。
ただの、黒い情報。
もう。
味も。
温度も。
分からない。
「だから、救ったんです」
男は、穏やかに微笑んだ。
「これで彼女は」
「永遠に、“伝説の少女”のままだ」
沈黙。
チャリ……。
鍵束の音だけが、
静かに鳴った。
ニナは、一枚のタイルを滑らせる。
【標本No.024:最高傑作】
画家である男は、
人生最高の作品を完成させた。
その直後。
男は、自宅に火を放ち、
妻を殺害した。
燃え盛る家を見ながら。
男は、涙を流して笑っていたという。
「これでいい」
そう呟きながら。
男は、
妻を深く愛していたはずだった。
なのに。
なぜ、こんなことをしたのか?
プロデューサーの男は、
興味深そうに目を細める。
「……芸術家らしい」
「問いなさい」
ニナの声に、
感情はなかった。
「あなたの“永遠”が」
「どれほど残酷かを」
【後編へ続く】
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