そして
ギデオン・ダーバーヴィルズの葬儀は、さすがに国葬というわけにはいかなかった。事情がどうあれ、王国に弓引いた人物であることは取り消せない事実だったから。
それでも、特に何の周知もされなかったにも関わらず、多くのエルフたちが花を持ち寄り、ギデオンの死出の道を飾った。
その後、国難が排除されてお祭り騒ぎに発展するかに思われたが、エルフたちの間で支配的なのは王夫ギデオンの喪に服す空気だった。
彼の絶望と、彼の主張は、女王シャラウの口から王国民に余さず伝えられていたから。
オブスキュアのエルフたち全員が、厳かに自問していた。
このままでいいのだろうか、と。
●
「フィンどのーっ! お願いがありますっ!」
「リーネどの、なんでありますか?」
「ええと、その、シャーリィ殿下に対して「お姉ちゃん」などと呼びかけたりしておられますが――」
「あ、ご、ごめんなさいであります。仮にもお姫様に向かって……」
「わ、わた、わたしもお姉ちゃんって呼んでくださいっ!」
フィンはぱちくりと目を瞬かせ、しかるのちににっこりと笑った。
「了解でありますリーネお姉ちゃんっ!」
リーネは鼻血を噴いて死んだ。
「リーネどのー。大丈夫でありますか?」
「うぐぐ……フィンどの……どうやらわたしはここまでのようです……」
「そんなところで寝たら風邪引いちゃうでありますよ。やっぱりリーネどのと呼んだ方がいいみたいでありますね」
「うー……面目ありません……」
頭を掻きながら身を起こすリーネを見ながら、フィンは目尻を下げて微笑んだ。
「……ありがとうであります」
「へっ?」
「気を使ってくれたのでありますね。ぼく、そんなに落ち込んだ様子でありましたか?」
「あ、あはは……なかなかソーチャンどののようにはいきませんね……でも、本当に大丈夫ですか?」
「……大丈夫、だと思うであります。哀しい気持ちだけど、それだけじゃないのであります」
「痛みは忘れても、温もりは残る……だからきっと、心配しなくていいんですよ。また、心から笑える日は来ます」
リーネもまた、どこか哀しみの残る笑みを返してくれた(鼻血を拭きながら)。
だからフィンは、目頭が熱くなって、涙がこぼれ落ちる前に彼女に抱き着いた。
「ぼく……ぼく、ギデオンどのと出会えて良かったであります。ともだちでいられた時間はほんのちょっとだったけど、だけど、あのとき穏やかな声で話しかけてもらったこと、手を握り返してくれた感触の優しさを、ぼくはずっとずっと、忘れないのであります」
「はい……きっと、ギデオンどのも同じ気持ちだと思います」
柔らかい温もりが、フィンの背に回された。
頬が触れ合う。
二人はしばし寄り添って、哀しみと愛おしさを分かち合った。
「えへへ、リーネお姉ちゃんだいすきっ!」
リーネは鼻血を噴いて死んだ。
「おや、こゝにいたかフィンくん。探したぞ。」
そこへ総十郎がすたすたと進んでくる。
白目を剥いて痙攣しているリーネには特に言及せず、無言で懐からチリ紙を取り出した。
「ソーチャンどの」
「少し時間を貰えるかね? 君と黒神とトウマくんとで話し合いたいことがあるのだ。」
リーネの鼻血を丁寧に拭ってやりながら、総十郎は相好を崩した。
「話し合いたいこと?」
「うむ、とても重要なことである。」
●
「と、言うわけで今回集まってもらったのは他でもない。我々の今後の身の振り方についてである。」
「……あの、なんでその集まりに僕まで招かれてるの? 僕敵だよ? わかってる? 覚えてる? そこ曖昧にしていいところじゃないよね?」
「だが、フィンくんの友人である。それだけで小生、君と敵対する気持ちは胡散霧消しておるよ、トウマくん。」
「えへへ、ともだちでありますっ!」
フィンがトウマの両手を握ってぴょんぴょんした。トウマは困り顔をしながらも目尻は笑っている。
「で? 身の振り方? いつ帰るかとかそういう話?」
「え、黒神さん、帰るんですか?」
「たりめーだろおめーこの俺様が、この超天才の俺様が放った愛と正義と肉欲の超天才パンチによって王国がめっちゃいい感じに救われたわけだっっすぃ? したらおめー乳ゴリラのパイオツを揉みしだく正当な権利が俺様に与えられるから存分にぐにょんぐにょんしてからその感触が消えないうちに元の世界に戻ってコータのパイオツと揉み比べるという崇高な使命が俺様にはあるわけだっっすぃ?」
「ナチュラルに最低なこと言い始めたぞこの人……」
「慣れよ。そういう男である。」
「まぁなんにせよ黒神さんが帰ってくれるのなら僕としても大助かりだ。ひとつ肩の荷が下りたって感じだな」
「あれれぇ? そう言われると帰りたくなくなってきたでござるぞぉ?」
「勘弁してください……いやほんとに」
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