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第六章 違和感

本シリーズは特定の企業を批判する目的で書いているものではありません。
むしろ、あの時代に社会へ出た多くの人が
どこかで感じたかもしれない違和感の記録です。
それが個人の問題だったのか、
それとも時代の問題だったのか。
その問いを、冷静に辿っていきます。

シリーズ一作目はこちら:第一章 「あの挨拶」の会社

思えば、
現場に着任してから、
3日間の離職率が9割を超える。
そんな異常な会社に、
半年以上いたというのは、
ある意味、奇跡だったのかもしれない。
それでも、
そんな毎日を、
なんとかやり過ごしていた私にも、
心を折られる瞬間が、
何度か訪れた。


一つ目は、
ある程度、仲良くなった会社の社長から聞いた話だ。
「あんたは信用できそうだけど、
以前、○○という会社が営業に来て、
月々の支払いが絶対に安くなると言われて、
契約したことがある。
でも、
実際には、
大幅に高くなったんだよ」
その場で、
○○という会社を、
目の前の端末で調べてみた。
自分の会社の、
関連会社だった。
こういうことが、
複数回、あった。


よく考えてみれば、
毎日、
相当追い詰められた状態で、
営業をしている。
「言ってはいけないこと」を言って、
契約を取る社員が出てきても、
何ら不思議ではない。
だが、
裏を返せば、
自分自身も、
いつ、その立場に追い込まれるか、
分かったものではなかった。
睡眠時間は短く、
朦朧とした状態で仕事をしている。
体力が、
いつまで持つかも、
分からない。


二つ目は、
これもまた、
ある程度仲良くなった会社の社長の話だ。
実はこの人、
この会社のOBだった。
こちらが、
どんな営業をしているか、
手に取るように理解していて、
最後に、
こう言われた。
「早いところ、
次の会社、
もっと堅実なところを探した方がいいよ」
この会社には、
実際にアポイントを取って訪問した。
話を聞く中で、
営業に失敗したときの考え方や、
どんな会社に転職すべきかなど、
かなり具体的な助言をもらった。
同じ会社に在籍していたOBからの言葉は、
正直、身に染みた。
洗脳されたような状態で働いていたから、
感覚がズレていたのだろう。
だが、
同じ環境を知る人間の口から出た言葉は、
重すぎた。


そして、
決定的な出来事が起こる。
入社当初のマネージャーが降格させられ、
サブマネージャーとして、
私の直属の上司になった頃のことだ。
この上司は、
どうにかして、
私を一人前の営業マンにしたかったらしい。
私が取ったアポイントに、
他の営業マンと一緒に、
訪問することになった。


細かい説明は省くが、
当時扱っていた商品に、
ADSLというものがあった。
PCなどのネットワーク接続に使われ、
光回線が出始めた当初では、
光通信に次ぐ高速通信で、
しかも安かった。
あまり馴染みのない人のために説明すると、
従来の電話回線の、
使われていない高周波数帯域を利用して、
インターネット接続を行う方式である。
だがこの方式は、
非常に干渉に弱い、
という特性を持っていた。
近くに電波塔があると、
干渉を受けて接続が不安定になる。
磁力のある物体が近くにあっても、
影響を受ける。
そして――
このとき、
訪問先のすぐ隣に、
電波塔が建っていた。

第七章はこちら:第七章 一線を超えない決断
(公開前の場合があります)


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