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第四章 レジェンドが生まれた夜

本シリーズは特定の企業を批判する目的で書いているものではありません。
むしろ、あの時代に社会へ出た多くの人が
どこかで感じたかもしれない違和感の記録です。
それが個人の問題だったのか、
それとも時代の問題だったのか。
その問いを、冷静に辿っていきます。

シリーズ一作目はこちら:第一章 「あの挨拶」の会社

先に、
「運がよければ」22時ごろに業務が終了すると書いた。
当然、
運がよくない日もある。
その日も、
「運悪く」
(エリア全体の月次売り上げが達成していない、
などの理由で)、
例によって、
鬼のように上司から「詰められた」マネージャーが、
完全に怒り狂っていた。
そして、
こんなことを言い出す。
マネージャー:
「お前ら、
このまま数字上がらずに帰れると思ってんのか、
こらぁっ!
今すぐ、
電話を続けるか、
飛び込みに行くか、
決めろっ!」
全員:
「(特殊な挨拶)」
時刻は、
23時ごろだったと思う。
もうやってられるか、
と思った人たちだったのだろう。
外に飛び込みに行くと言った人が、
半分くらいいた。


ただし、
外に飛び込みに行ったからといって、
楽ができるわけではない。
30分おきくらいに、
マネージャーから電話がかかってくる。
「サボってんじゃないだろうな?
何件飛び込みしたんだ?
ふざけてんのか、ごるぁっ」
こんな言葉を、
延々と浴びせられ続ける。
逆に言えば、
電話をかけ続けているグループも、
ほぼひっきりなしに、
この「呪いの言葉」を浴びながら、
電話をかけ続けることになる。
何度か、
こういう夜を経験していたので、
私はタクシー会社や、
広告代理店など、
夜の時間帯でも人がいる可能性が高いところに、
電話をかけるようにしていた。
そんな中、
午前1時ごろ、
マネージャーの様子が、
明らかにおかしくなる。


マネージャー:
「お?
おお、それで?
そっか。
お、おう。
頑張れよ」
電話を切ったマネージャーが、
なんとも言えない、
微妙な笑顔で言う。
「……あいつ、
コピー機売ろうとしてるぞ」
この「あいつ」とは、
私の同期で、
笑顔が素敵な元野球部員のことだ。
話を総合すると、
どうやら運よく、
飛び込み先の広告代理店に、
社長が居合わせたらしい。
さらに運のいいことに、
ちょうどカラーコピー機のカウンター料金が気になっており、
買い替えを検討していた、
そんなタイミングだったという。
エリア全体が、
一気に期待の空気に包まれる。
それでも、
電話をする手を休めるわけにはいかない。
というか、
こんな夜中に、
本当に契約が決まるなんてことが、
あり得るのか?


そして、
次のタイミングで、
マネージャーが再び電話をかける。
断片的に、
こんなやり取りが聞こえてくる。
マネージャー:
「あ?
そんなに安く?
いやー、ちょっと待て。
確か、
ちょうどそのモデルで、
キャンセルが出たとか聞いたぞ?
ひょっとして、
今日なら安く出せるかもしれんから、
少し待っててもらえるか?
……お、おう。
頼んだぞ!」
電話を切ったマネージャーが、
ほとんど狂喜乱舞に近い状態で叫ぶ。
「あいつ、
カラーコピー機、
契約しかけとるぞ!」


その後、
何度かやり取りがあり、
最終的に、
FAXでリース契約申込書が送られてきたのは、
2時を過ぎたころだったと思う。
後で、
同期本人に聞いてみたところ、
飛び込みに行った広告代理店に、
本当にたまたま社長が居合わせて、
「え?
お前、
こんな時間に飛び込みしてるの?
草生えるんですけどw」
こんな感じで、
妙に意気投合してしまったらしい。
こうして、
この元野球部員の彼は、
会社全体のレジェンドとなった。
そして同時に、
「あきらめずに営業を続ければ、
こんなことも起こる」
という、
極めて質の悪い前例を、
会社に残すことになったのである。

第五章はこちら:第五章 営業をしない営業
(公開前の場合があります)


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